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┏┏┏[2003-12-25]┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏
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 名古屋ビジネス情報  主宰 川津商事株式会社
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   テーマ: 不動産金融工学への誘い

19世紀初めガウスが天文観測を行っているときに、観測結果に誤 差が生じた。この誤差を集計したところ特徴のある分布を表した。 それが正規分布(せいきぶんぷ)である。誤差を集計して分布グラ フを作ると中心(平均)が多く分布して、中心から遠ざかるにつれ て少なくなる釣鐘型(富士山型)の形状が現れた。

平均を中心にして左右対称にバラける分布を正規分布と呼ぶ。自然 人工を問わず現象には収束に対してすべて微妙な誤差がある。工業 製品として10センチの金属パーツを製作して正確に観測すると意 図した10センチ前後で微妙に誤差が生じる。

10センチの金属パーツを大量に製作すると、その誤差は正規分布に なるというものである。この10センチの金属パーツを製造するに 当り、製造誤差という考えを顧慮して、この製品の製造の能力を分 布と言う形で表し、それに包含されるリスクをマネージメントする。

投資の概念にはリスクとリターンがある。特にバブル経済の時期は リターンしか投資概念には無かった。最近言葉では頻繁に見かける が、果たしてリスクと一体何か?理解されているかどうか多いに疑 問である。リスクとは期待収益率のブレである。リターンのブレ幅 である。

リスクとリターンを作り出す市場の時系列変動を、同じように分布 で表すことによって、その資産評価をする手法が金融工学の考え方 である。

現在の株価平均が1万円とする。来年1万5千円になる事が期待で きる。しかしこの期待収益率は5千円になるかもしれない。つまり 50%の確率で±5千円のブレがある。ある債券が現在1%の利回 りであるとする。来年期待できる利回りは50%の確率で±0.1% のブレがある。

この比較において、株価平均はハイリスクハイリターンである。債 券はローリスクローリターンになる。リターンと呼ばれる期待収益 にはブレがあり、そのブレ幅が大きければリスクは大きいことにな る。宝くじは1億円が当る可能性があるが0円かもしれない。期待 収益は非常に大きな幅がある。宝くじへの投資はリスクが高いこと になる。

日本のバブル経済の不動産投資においてリスクが問題になった事が あろうか?・・・ない。それはなぜか?リスクが小さく問題になら なかったからである。地価が右肩上がりにあり、賃料も確実に上が った。確実に期待以上にブレることはあっても、悪くなる下方のブ レ(下方リスク)は存在しなかった。

バブルが崩壊してからは、期待収益は下方に大きくブレ続けている。 リスクが非常に大きくなっている。この状況を受けてリスクマネー ジメントが必要になってきたわけである。

市場ではいろんな要素に対して変動をする。例えば何か新製品が発 明されたという情報に対して株価は反応して跳ね上がる。市場の変 動である。何か社会インフラが整備されるとそのエリアの収益率が 上がり地価が上がる。

何でも良い、何かの要素Xに対して市場ではYという結果が生まれ る。この関係をY=αX+βとしよう。ある企業の企業業績Xが上 がると、何らかの定数α、βが計算されて株価Yが生起する。

不動産収益も同じである。収益物件に追加投資Xを行うと期待収益 率Yが上昇する。しかしこの期待収益率にはブレがあり不確実であ る。つまりYにはブレが生じる。このブレ幅がリスクの計量である。 そしてバブル経済崩壊以後、このリスクが非常に大きくなっている。

リスクをもたらす根源にはいろんなものがある。金利の変化、株価 の変化などがその端的な例である。その他企業業績、信用不安、土 壌汚染などのリスクファクターである。もっと経済の根幹にかかわ る要素もある。社会の高齢化、人口減、テロ、戦争、地震、社会情 勢、感染症疾病などである。

このような基礎的なリスクファクターをファンダメンタルズと呼ぶ。 バブル崩壊をさせたリスクファクターは銀行の過剰融資、脆弱な金 融システムなどもあげられる。失われた10年と呼ばれている現在、 それ以上はるかにリスクファクターが多く、大きくなっている。

当然期待収益Yは大きくぶれ、リスクは益々大きくなる。これに対 してリスクをマネージメントする力が無ければ、市場はリスクに見 合うリターンを要求する。たとえ市場金利を安くしても、リスクが 大きければ投資が進まない。リターンの低い投資は当然市場から姿 を消すことになる。これが市場原理である。

最近、市場で築15年超中古賃貸マンション等が低い7−8%の利 回りで査定されているのを見かける。一体どのようなリスク査定を しているのか非常に疑問である。明らかに破綻が想像できる。

実際に資産を運用している方なら想像がつこう。このクラスの収益 ビルがどのような修繕費が必要になり、どのようなリスクを想定し なければならないか。リスクが理解できない投資アドバイザーがあ まりにも多すぎる。

市場変動リスクを予測しようという手法が最近5年ほど前から登場 してきた。金融工学である。考え方はY=αX+βであった式にY =αX+β+εを加える。ε(イプシロン)とは誤差項である。あ らゆるリスクファクターを織り込み将来の資産価値予測を行う。そ の市場観測には誤差が生じる。この誤差(不確実性)をマネージメ ントしようという考え方である。

冒頭のガウスは天文観測から誤差を認識した。そのデータを多くす ると正規分布になった。正規分布は平均と標準偏差(ボラティリテ ィ)によって定義される。正規分布で描かれるリスク資産は、その リスクを確率によって表すことが出来る。

50%の確率で下がるか上がる株価のように、市場価値は確率でそ の期待値が測られる。しかしその確率は時間とともに変化する。こ のような時系列で確率変数を考えることを、確率過程と呼ぶ。確率 過程の考え方において、どのように市場が変化するかを評価する手 法でもある。

リスク資産の市場での変動分布を表すことによって、その資産に包 含されるリスクを確率で表す手法が不動産金融工学である。

従来から、資産評価の手法にはいろんな手法があった。取引事例法 もその一つである。最近、収益還元法、DCF法が取り入れられる ようになってきた。今ある100万円が5%で銀行に預ければ1年 に5%の利回りがつく。10年では(1+0.05)の10乗の利 子がつく。

反対に1年後に得る賃料などの期待収益100万円は、5%の投資 利回りを考えると100万円を5%で還元した952,380円で しかない。この95万円は1年後に得る100万円の現在価値であ る。5%の還元率を想定すると10年後得る賃料等の100万円は 61万円でしかない。

10年後の現在価値が61万円でしかない資産を幾らで買えば採算 が合うのだろうか?小学生でもわかる算数である。答えは61万円 以下である。この手法はネットプレゼントバリュー(NPV)の手 法である。

NPVはアメリカでは「伝統的」現在価値法と呼ばれる。既に伝統 となってしまっている。それは、NPVは「初年度」に予測したキ ャッシュフロー、割引率、ターミナルバリューなどにもとづいて評 価する静態概念であるからである。

これに対して確率過程で考えられる確率概念は、「初年度」から時間 の経過とともに、これらの変数が変動する、という考え方にもとづ いている。このような考え方を動態概念という。「動態」とは英語で 言うと「ダイナミック」になる。

よく「ダイナミックに変化する」という使い方をされるが、これは 時間とともに変化するという動態概念を考慮した変化を意味してい る。ただ単に大きく変化しているという意味だけではなく、時間の 概念を取り入れた変化を意味していることを理解して欲しい。

さて、非常に聞きなれない確率、変数、変動幅、誤差項、正規分布、 確率過程といった数学の話が続きました。しかしファイナンスには、 このような数学的な概念が既に入ってきているのである。

確率過程という言葉を聴いたこと無い方でも、ヘッジファンドとい う言葉は聴いたことがあるはずです。1990年代末に巨大ヘッジ ファンドとして破綻したローグタームキャピタルマネージメント (LTCM)は、このような金融工学の技術をフルに活用して大き な儲けと大きな破綻を経験した。

ノーベル賞を受賞した、金融オプションの評価で有名なブラックシ ョールズモデルはこの確率過程の概念にもとづくモデリングである。 確実に、投資ビジネスに金融工学の手法が入ってきている。

不動産投資は本来、株式証券市場よりリスクマネージメントがしや すい分野であると考える。また必要な分野です。それは長期投資、 巨額投資であるからである。このような手法を駆使して、裁定(ア ービトラージ)、保険(ヘッジ)、投機(スペキュレート)が必要な 分野である。

最近中国が有人宇宙船の打ち上げに成功したニュースが話題を呼ん だ。西側諸国ではこのようなロケット開発の産業から数理工学の頭 脳が流出して、ファイナンスのモデリングの分野に投入してきた。 その結果生まれたのが先のブラックショールズモデルなどである。

日本では、不動産と呼ばれるカテゴリーには法律出身、経済学出身 者が多くおられます。しかし最近では日本でも、新たに土木工学な どの数理工学系の人たちが参入してきている。公共事業などの減少 に伴って、土木工学からファイナンスの分野に、数理系の頭脳が移 動を起こしているものと考えられる。

市場にニーズに新しい技術が対応しようと移動している状況である。

新しいモデルを開発してビジネスモデルとしビジネスを開発してい る。新しい不動産ファイナンスの技術が開発されるわけである。ク オンツアナリストという言葉をお聞きになられたことがあるでしょ うか。リスクの量計分析のことである。不動産ファイナンスもこの ような概念に入ってきたわけだ。

日本の主要な都市圏で、不動産総合収益は多くが平均で5%、標準 偏差で14%前後(1970年−2002年)である。日本の実物 不動産投資のリスクはだいたいこの14%と見ることができる。

東京の土地はなぜ高いのでしょうか?土地から上がる収益が高いか ら?それだけでしょうか。多くのビジネスチャンスがあるから?多 くのビジネスチャンスがあるということは、どのような概念で地価 に織り込まれるのでしょうか。

このような選択肢、或いは計画の延期・中止・拡張・縮小をする権 利には本来価値があると考える。このような概念から投資を行う手 法がリアルオプションである。

ファイナンスのオプションと同じ考え方である。このような価値は 不確実なものである。不確実とは将来複数の可能性があることを意 味する。もちろん大きな成長の可能性もあれば、まったく無駄な投 資になる事もある。

不確実性には可能性が50%の確率で成果をえられるが、50%の 確率で成果が無い場合もある。例えばある地域に社会資本が整備さ れて、開発が進む可能性は50%の確率であるというケースでは、 非常にリスクが高い不確実な投機に等しい。

前述の日本の平均的なリスク14%よりはるかに大きなブレ幅であ る。この不確実性をマネージメントするのがリアルオプションの考 えかたである。

前半で紹介した、静的な資産評価と動的な資産評価も、リスクの考 え方に対して大きなパラダイムチェンジを要求している。リスクの 概念が大きく変わってきた。

  世界的な新たな紛争概念、社会構造の急激な変化、これらについて いけない経済モデルの陳腐化等、投資に与えるリスクが一方的に増 大する不動産投資市場では、このようなリスクをマネージメントす る事ができるものだけが生き残る。この技術手法の一つが金融工学 である。

将来的に、このような資産評価技術を有する人たちが、不動産投資 のアドバイザーとなっていくことになります。当然資格等も必要に なるでしょう。市場のニーズにこたえる技術を開発する事が市場の 成長につながる。

以上



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