ニュースレター

主筆:川津昌作
名古屋の不動産何でも相談室がお送りする、不動産・ビジネスに関するニュースレター「名古屋ビジネス情報」へのご登録ありがとうございます。
不動産にとどまらず、名古屋のビジネス情報、街づくり話題、不動産経済、市場トレンドに関するニュース、物件情報など時代の変遷とともに広くお伝えしています。

特記事項 弊社ニュースレターは、弊社の関係者及びお得意様に限定して、不動産ビジネスを行う上で注目すべきテーマをタイムリーに取り上げ、問題点を共有する為の ワーキングペーパーであります。公的機関を含む他のセクターへの提言、請願、上奏、不特定多数への拡散を目的としたものではありません。転用を禁止します。 取り上げる内容については、成熟した定説を取り上げるのではなく、早熟なテーマを取り上げるため、後から検証すると拙速な結論になってしまっていることもあります。 そう言った事を十分にご理解したうえで、ご参考にしていただきますようお願い申し上げます。

宅建士の新陳代謝とは?

〈2024年1月20日〉

インフレはイノベーションと新陳代謝の場である。そしてAI革命 により新陳代謝が起きるのはホワイトカラーの業種である。特に宅 建士、税理士、弁護士と言った熟練労働者の業種の中でも生産性の 低い職種(データの会計士分け、司法判例のチョイス)がAIにと ってかわられ、新しい技術によって新陳代謝が起きる。以上が前回 からの継承である。

そして今回は宅建士の領域である不動産ビジネスにおいてどのよう な新陳代謝が起きるかを議論したい。年初に当たり不動産ビジネス を取り巻く環境を俯瞰した議論を試みたい。

昨年日本の経済界に非常に大きなトレンドチェンジが起きた。東証 のPBR1倍ショックである。PBRとは株価資産倍率であり、一倍以 下は株価が保有資産より低いことを意味する。

企業の資産価格とは、現在価値を意味する。これに対して株価は将 来の価値である。将来これだけの収益を生み資産が膨らむであろう と株式投資家が期待する価格である。つまり一倍以下は株主が現在 価値以上に期待されない企業となる。

であるなら、資産をすべて売却して企業を解散して株主に分配した 方が得になるわけだ。このようないわゆるゾンビ企業が日本の上場 一部に堂々とどや顔で居座っていたわけだ。

これに対して東証が一倍以下の企業に改善を求める基準を出した。 これにより企業は収益を生まないでも放置していた未利用の保有資 産をオフバランスする動きが一部で起きた。その資産こそが、企業 が塩漬けしていた土地・不動産であった。つまり不動産が市場に出 始めた、もしくは出る可能性が出てきたわけだ。

一方日本の上場不動産ファンドの市場であるREIT市場が登場して 約25年四半世紀が経つ。その結果上場数が50近くに増加し、20 兆円規模から30兆円の市場となりつつある。

通常上場ファンド(REIT)市場と同じ規模の非上場の私募ファンド があるとされる。この通常とは理論的にはと言う意味である。特に 日本のREITはコアの不動産投資である。本来理論的には、コアの 不動産投資と同じかそれ以上のバリューアッド、オパッチュニステ ィック不動産投資市場が存在しければならない。

コアとは家賃などのインカムゲイン投資である。バリューはリノベ ーション、再開発などの投資で新たな付加価値を生む投資である。 そしてオパは投資の出口である。

不動産市況は平坦ではない。バブルもあればバブル破綻もある。そ の都度傷んだ不良資産が生まれる。これらが再生されて初めてコア の不動産投資市場が成り立つ。つまりバリュー、オパ、コアは不動 産市場の循環経済を形成する。

しばしば、著名な経済学者で「地上げ、バルクセール、ハゲタカフ ァンドなんかもってのほかだ。」とばかりに言い捨てる方がいる。 再生がなければ上質なコアの不動産投資も生まれない。再生が10 年なされなければ失われた10年、20年続けば失われた20年、30 年続けば失われた30年となる。全く経済の仕組みを理解していな い輩でしかない。

コアの不動産投資は、バリューアッド、オパチュニスティックな投 資市場を経て生まれてくる。このコアの不動産投資以外の市場が、 本来私募ファンド市場でありエクイティファンドが活躍する市場で ある。日本のJREITはコアの不動産市場であり、それを支える私募 ファンド市場が育っていなければならない。

つまりこの私募ファンドの市場規模が小さいと言う事は、新しいコ アの不動産投資市場の成長も期待できないと言う事になる。この点 が、不動産有識者でない市場エコノミスト、或いは研究者が理解で きていない点だ。

今年になり、経済新聞紙上で「私募REIT」が増えているという報 道を行っている。私募リートと言う意味不明の言葉が当然登場し た。リートは上場ファンドである。非上場のコアの不動産投資ファ ンドを指しているのであろう。

上場リートのスポンサーとしての基準を満たさない、私的な基準で ファンディングを意味するのだろう。将来上場する選択肢を持って いれば、それなりの将来性のあるビジネスだろうが、非常に不安定 なビジネスとしか言いようがない。

いずれにしても冒頭のBPR1倍革命などにより、企業が無意味の資 産を保有し続けることが難しくなった。それで資産を外部に完全に 売却するか、保有して利用ではなく新たなカウンターパーティビジ ネスに乗り出すかと言う選択肢に直面しているわけだ。

本来不動産投資の本場の欧米では、資産を保有して運用するのでは なく、資産をむしろオフバランスして、他の出資者、投資家に保有 させて、自分は運用のマネージメントフィーを得るスタイルが主力 である。いわゆるカンターパーティービジネスだ。

保有でその資産との関係を持つのではなく、強固なマネージメント に関与することで、その資産との関係を持ち続ける意味は、保有し ないがゆえに保有リスクを被らず、高いマネージメントフィーで収 益を稼ぎかつその資産との関係を維持できることにある。

企業にとっては、本業以外の財務リスクをなくし、様々なカウンタ ーパーティーとのビジネスチャンスを得、また多用の収益を拡大で きるわけだ。今の新しい胎動が一気にこのレベルまで進むことはな いが、企業が資産をオフバランスし始めた先には、このような素晴 らしいビジネスモデルがあるわけだ。

このようなレベルの高い私募ファンド、上場REIT市場が成長する には、それなりの質の高いマネージメントスキルが要求されるわけ だ。このスキルこそが、いま起きている宅建士市場の新陳代謝の向 こうに広がる風景だ。

宅建士市場は、AI革命、デジタル化、ビックデータ化によりマッ チング、リーガルアドバイザー業務が大規模な不動産仲介プラット フォームに統合されつつある。プラットフォーム上では単なるオペ レータしか必要なくなる。

従来の人の人間関係によるマッチング作業は消失する可能性が高 い。希望を入力すれば、それに合った物件がいくつか提示されるエ ンジンを要したプラットフォームに替わられる。もちろん気に入ら なければリセットし続けるリセマラ、無限ガチャ等々マッチングの 手法もどんどん新しいものが開発されてくる。

既存のビジネスが主張する従来の豊かな経験値も、ビックデータに より新しく構築される経験値にとってかわられる。その一方で、新 たにデータそしてリスクをマネージメントできる上級キルが新たに 台頭する。

市場には質の高いセットマネージメント、プロパティマネージメン トスキルを持ったシニアジョブが君臨することになる。アセットマ ネージャーとは、別の言い方をすれば企業のCOOに相当する呼称 だ。当然作業時間でなく、能力結果成果になる。

解りやすく言えば、プラットフォーム側の人と、運用スキルである バリュー─アッド、オパの戦略投資ができる人材は生き残り、コア の不動産投資しかできない人、AIに相当するプラットフォームを 持たない人は淘汰されることになる。

プラットフォームを勘違いする人が多いが、プラットフォームの本 質は決済である。そこでお金が独占的に決済される他より効率の良 い仕組みがあるから、そのプラットフォーム上に参加しなくてなら ないのである。

アップルに頼らなくても稼げる課金ツールがあれば、アップルのプ ラットフォームに乗る必要はない。

あとがきではあるが、データの仕分け法令暗記、判例の丸暗記が税 士試験、弁護士試験の大きなウエイトが占められていた。これらが AIにとってかわられるとなると、試験内容はどのように変わるの だろうか?

3方のシナリオ分析で弁護士業界の現状を俯瞰すると、勝ち組の高 度な司法法務アドバイザー、新形態のサラ金・肝炎などのシステム 的ビジネスモデル開発型弁護士、零細負け組弁護士の3つに分けら れるのかな?

アダムスミスは、「高度な分化こそが高い収益を支える。」と言って いる。宅建士も古い概念ではなく、新しいジョブに分化してさらに 高い収益を生まなくてならない。しかしそれは勝者、敗者、現状維 持の岐路でもあるわけだ。

                         以上

名古屋ビジネス情報不動産街づくり地価都市経済投資利回り金融