ニュースレター

主筆:川津昌作
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2022-23年年末年始特別号

〈2022年12月25日〉

このニュースレターの作成中に日本の長期金利がついに均衡を壊し 上昇し始めた。「10年間の金融緩和がようやく終わりを告げる」趣 旨の論調が新聞報道を駆けまわった。果たして若い世代には未経験 の金利上昇時代が始まるか?

しかし現実には、まだまだ国債を日銀が買い続けて、イールドカー ブをコントロール下に置いている。それを見透かしたように、来年 度予算の予算案が114兆円になろうとしている。防衛費など一旦は 削減されるが、最後には復活して政府予算案が成立することになろ う。年末恒例の政治ショーの幕開けだ。

筆者バブル世代が経験した金利上昇は経済成長による金利上昇だ。 今のアメリカの金利上昇だ。しかし今日本が迎えようとしているの は大量の国債消化のための金利上昇かもしれない。それは日本の誰 もが経験していない領域だ。

*世界の潮流
筆者が選ぶ今年を象徴する言葉は「FRB(米連邦準備銀行)の完 勝」だ。昨年2021年秋から日米の長期金利差の均衡が崩れ、一気 にドル高円安が進んだ。110円台から一気に150円までドル円レー トが変動した。

FRBはアメリカ国内のインフレ対策に出遅れた。明らかに失敗であ り、その責任を議会で激しく追及された。この激しい批判を背景 に、フェデラルレートを一気に上昇させた。さらに金融引き締めを 一気に行った。金融引き締めの大義を逆に得てしまったのである。

この金融引き締め政策の前までは、トランプ-ポピュリズム政策、 コロナ禍と不連続的に大規模金融緩和により、世界のGDPの倍とも いわれるクレジットをグローバルな資本市場に流し続けていた。

通常大規模な金融緩和はバブル経済を生み出す。その後バブル退治 で金融引き締めを行う。そこで金融引き締めには経済の大規模なバ ブル破綻が伴う。しかしFRBは何ら大規模な経済破綻を経ることな く金融引き締めをし、これまでの大規模な信用供与を処理できるこ とになる。次のステップに堂々と進めることができ、歴史上稀にみ る大勝利を収めたのである。

かたや日本はどうだろうか?過剰な信用供与の処理、国債の償還ど ころか、冒頭の漸く長期金利の低金利均衡の終わりが見えた状態 だ。まるで駆け込みのような来年ロ予算の肥大を容認し続けてい る。これから始まろうとする金利上昇の備えは、どのセクターもで きていない。

それどころか旧態依然した収益性の低いゾンビビジネスがそのまま 残り、景気後退を怖がって誰も修正ができない。まだこれらの大規 模な破綻を経なくては、金利の健全の市場が見えてこない。アメリ カに比べて完全な周回遅れだ。

日経新聞の報道では、日本のゾンビ企業はアメリカの5%の割合に 対して、11%もあるとしている。新聞の論調でもコロナ禍で貸さな くてもいい融資を貸し続けてきたとしてきしている。

世界の著名な経済人たちの「大量の国債債務を抱える日本経済は、 このまま沈没する。」類の談話ばかり目立つ。キセキのリカバリー はできるのか?

今年のニュースレターでも取り上げたことであるが、物価は経済成 長の一部である。フィッシャーの方程式、名目成長率は実質成長率 に物価変動を加えたものである。もちろん名目成長を一定と考える と、物価の上昇は実質成長率を押し下げる。

だから物価が目の敵にされ物価高退治がなされる。しかし実質成長 率が期待できない時にはせめて物価分だけでも成長に寄与すること になる。物価も実質成長率もコントロールできて明確な名目成長率 を経済成長として感じられるアメリカと、両方とも期待できない日 本との差は明らかだ。

アメリカのインフレの本質は食品及び人件費だ。食品は環境問題、 ロシア侵攻が原因だ。人件費である賃金は安いところと高いところ で裁定が起きやがて均衡する。つまり安い賃金しか払えない生産性 の低いビジネスが市場から退場し、高いビジネスが残る。経済の新 陳代謝だ。

日本は逆で、人件費が安く、円安による輸入コモディティーが高い ことによるインフレだ。人件費の裁定も起きず必然的にビジネスの 新陳代謝すら起きない状況だ。

最近日経新聞で面白い表現を見かけた。「2030年までに世界中で 8520万人の高度人材が不足する。」というものだ。これは新しいビ ジネスプラットフォームで必要とされる、IT、AI、データーに精通 した熟練労働者が今後不足するというものだ。

その一方で、すでにAmazon、Twitterあるいは生命保険会社、金融 機関などで余剰労働者の整理が始まっている。歴史から学ばなけれ ばならないことは、この失業者が次なる新しい熟練労働者に簡単に はなりえないことだ。

18世紀のイギリスの産業革命は、そのことを我々に明確に示して いる。イギリスでは産業革命期間とされる70年余りに、ロンドン の都市部に大量の失業者がホームレス化し、劣悪な格差問題が社会 問題として顕在化した。

古い産業に革新が起き、それまでの熟練労働者が失業してから、新 しい革新的な職種が定着し、社会の生産性を上げる新しい多くの熟 練労働を必要とするまでには時間がかかり、最初熟練労働者の失業 と新たな熟練労働者の登場にはタイムラグが生じる。

このタイムラグを最小限に抑えたことが18世紀のイギリス産業革 命を成功させた。反対に失業者に寄り添い産業革命にブレーキをか けた周辺諸国は、イギリスのような産業革命の栄誉を享受すること はなかった。

今回のIT・情報デジタル革命による社会の激変も、同じことが起 きる可能性がある。ここで必要な対処、はこのタイムラグを縮める ことである。間違っても、産業革命を遅らせてこのタイムラグを引 き延ばすようなポピュリズム政策は間違いとなる。

タイムラグを縮めるためには、日本企業がGAFAのような革新的な 企業を生みだす、産業革命の最先端のポジションになることだ。間 違ってもデジタルIT・情報革命にあがなうポピュリズム国家、社 会、市場になることはあってはならない。

ポピュリズムにならないと言う事は、社会のデジタル化、デジタル 革命の障害となるセクター、世代、企業を社会、市場から一度退場 させなくてはならないことを意味する。もちろんそれが長引けば社 会は大きく疲弊する。

*デジタル化
ニューヨーク・シティの社会風景を紹介しよう。NYCと言えばエン ターテイメントの人気があり、世界中から観光客が集まってくる。 一年MLB、NBAだけでなくアメフト、アイスホッケー最近では格闘 技も人気である。

そのほかブロードウエーのミュージカル、JAZZからワールドミュ ージックのライブハウス、クラブ等々あの狭いマンハッタン島の中 で非常に多くのエンターテイメントが見られる。

昔であれば、旅行会社とか様々なカードなど旅行支援会社にチケッ トを頼めば簡単に手配できたが、今はそうはいかない。メジャーな スポーツイベントから小さなライブハウスまですべからくネットで 個人が直接チケットの手配ができるようになっているからだ。

一見簡単そうで、便利そうでもある。しかし様々なセキュリティ ー、個人認証システムが要求されてくると、ネット上でチケットを 買って、その買ったチケットを特定のアプリでスマートフォンチケ ット(バーコード)で、当日入り口の機械を通す必要がある。

そこへきてまた、このアプリが日本では対応していないとくる。つ まりダウンロードすらできないわけだ。さぁーどうする。こういう 事と言いう筆者自体がデジタル弱者であることの証明でもある。凡 そ日本のようなデジタル化が遅れた国からすると、NYに行くにし ても上級のスキルが求められる感は否定できない。

現状、日本がすでに、デジタル弱者の国家に成り下がり、デジタル 革命の熟練労働者にはなることに対して、はるか周回遅れになって しまっているわけだ。しかもそれに指導者の誰もが疑問を全く持っ ていないことだ。マイナンバーカードの汎用性の議論すら進まな い、思考停止国家だ。

不動産の賃貸マンション市場で、最悪のシナリオが登場している。 賃貸マンション市場と言えば、ずいぶん前から過剰が言われている にもかかわらず、いまだにマンションが作り続けられている。銀行 が融資し続けている。

これだけ物価高が懸念されていても、今後家賃の上昇は起きないだ ろうと言われている。つまり余剰の空室が、入居させるために安い 賃料で募集し続けるからだ。空室が過剰にある限り市場は均衡しな い。

ケインズ経済学の財政政策で考えるとわかりやすい。失業者がいる 限りどれだけ需要が増えても労賃が上がらず景気も良くならない。 失業者を使えば賃金が上がらないからだ。労働者の需給が均衡する には、失業者がいなくなるまで有効需要を作り続ける必要がある。 これがケインズ経済学の長期均衡理論だ。

現在の経済学は簡単に言うと均衡経済学だ。財物、労働力の需給が 均衡すれば市場は正しく機能する。しかし失業、不景気、破綻、市 場のミスマッチ、不自由な貿易などによって均衡がしない。である ならば、この様々な問題を取り除いて市場が均衡できるようにして やろう。これが経済政策である。

しかし残念なことに、空室がなくなるまで人を生み続けることはあ りえない。それどころか最悪のシナリオは、円安で外国人留学生、 労働者が一気に減ることだ。更に日本人の生産労働者世代が賃金の 安い日本を飛び出し、海外の賃金の高い国に転出してしまう事だ。

今後さらに、国内の賃貸マンションの空室率が急激に高くなりかね ない。最悪のシナリオはここから始まる。新築需要入居が一巡する 築5−10年目の高い賃料の物件が入居を落とし、いよいよ破綻しだ す。

破綻してもマンション自体が破壊償却されることはない。民事手続 きへて、安い金額で市場に再登場する。これらが安い賃料で市場に マンションをさらに供給しだす。負の連鎖の始まりだ。

相続対策として、金融機関にそそのかされてマンションを作った日 本の高齢者富裕層の富を食いつぶすことになる。日本から、唯一の 富裕層すらいなくなる、ますます貧乏な国になる。賃貸マンション 市場が長期停滞均衡に陥ってしまう事だ。

賃貸市場が長期停滞均衡状態に陥ると、投資マネーが回らなくな り、日本全体の住居水準を悪くする。賃貸マンション、アパートに 再投資などがなされず、住環境レベルが上がらない。日本社会のレ ベル水準の低下だ。

そんな社会環境で、新しいデジタル新産業を生み、新しい熟練労働 者を多く育てて、彼らが所得を増やし日本経済を成長させるとい う、日本経済の再生プログラムが成り立つだろうか?そのための人 をつなぎとめることができないだろう。

現在温室効果ガス問題で効果を示している政策が、投資の監視であ り、投資のガバナンスである。つまり温室効果ガスを排出するセク ターへの投資、融資の監視だ。過剰なマンション市場への融資、投 資を監視し、市場の規律を守る政策が必要なわけだ。

間違いを修正するのに、早い遅いはない。いつでも可能だ。このよ うな最悪のシナリオにならないことを願うばかりだ。国の債務、少 子高齢化問題、エネルギー問題、東京地方格差問題・・・どれも思 考停止ばかりだ。

思考停止の高齢化人口減少問題で議論が隠れてしまっているが、円 安による日本人の海外への転出超過、海外からの転入減少問題が、 日本の人口自然減少問題より、喫緊で強烈な打撃となるだろう。

日本の労働生産性の問題をうんぬんする前に、生産年齢人口の日本 からの社会流出、海外からの転入不足問題が来年以降カギとなるだ ろう。一時的な円安による内生回帰も、労働者流出が起きていては 不可能である。

*名古屋の話をしよう。
セントレア空港は、今、出発の最終がハワイ行きの22:00であ る。しかもこれが周一便しかない。平日夜の8時を過ぎると出発フ ロアーの照明を落とし、人影がいなくなる。

フライトレコーダーのアプリを見ていても、ほぼ駐機している飛行 機すらない。24時間空港の意味がない。それどころか節電の為 に、夜の発着をどんどん早めている。

名古屋のポジションは、東京−大阪の経済基軸にあって、それに豊 かな産業インフラスペース、熟練論動力、質の高いリスクマネーを 提供して高い報酬を上げてきた。そのビジネスモデルは交流、付加 価値創造だ。

東京−大阪の経済基軸がグローバル経済のサプライチェーンに組み 込まれれば更にその役割は大きくなる。交流は名古屋経済圏へのア クセシビリティーであり、付加価値創造は熟成機能だ。

東京に成田空港しかなかった時代、わざわざ名古屋からセントレア を利用していた国際人がいた。名古屋駅―セントレアのアクセシビ リティーが優れていたからだ。しかし羽田ができてからは魅力が色 あせた。

交流のバージョンアップは、名古屋経済圏の浮沈キーワードだ。名 古屋にとってリニア効果は、大阪の万博開催以上のインパクトがあ る。時間がかかればかかるほどリニアに替わるものができてくる。 リニア効果もどんどん色あせていく。もっと時間を意識する必要が ある。

今年も、稚拙な文章にお付き合いいただきましてありがとうござい ました。日本に残された選択肢がどんどんなくなっていくのが見え てくる一年でした。来年は儲かる話をしたいなと思っております。 皆様の健勝を祈念して筆をおくこととします。

以上

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