ニュースレター

主筆:川津昌作
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三菱UFJ vs 地銀 さらばグローバリゼーション

〈2022年1月10日〉

昨年年末、この地域の金融システムの非常に大きなパラダイムチェ ンジを象徴する出来事が起きた。名古屋の産業経済史の象徴であっ た広小路の旧東海銀行本店の建物が建て替えられ、新しい三菱UFJ 銀行の名古屋支店として、現三菱UFJ銀行の東京幹部が集まり竣工 式が行われた。三菱の名古屋のシンボルの完成である。

その一方で、三菱UFJ銀行が39%を保有していた傘下の中京銀行 の持ち合い株を手放した。同時に中京銀と愛知銀行の統合が発表さ れた。この事案で重要なことは愛知銀行と中京銀行の統合が原因で 三菱UFJとの資本関係との解消と言う結果が生じたのではない。逆 だ。

資本関係の解消が原因で、その結果地銀同士の統合が進んだ。今回 のニュースレターの議論のテーマは、グローバル市場に君臨するメ ガバンクのさらば地域経済and地域経済のさらばグローバリゼーシ ョンである。

年末12月24日の日経新聞は、これを「親密地銀はいらない」と 言う見出しで、愛知銀行と中京銀行の統合を論評した。

この地域の地域金融の現代史は、東海銀行の歴史そのものであっ た。日本の大正・昭和史は金融恐慌・バブルの繰り返しであった。 その中で多くの銀行が生まれては去っていった。そういった不安定 な金融システムの中で銀行同士が統合を繰り返し、資本増強を行 い、生き残り安定化を目指した。

安定化の成熟は、そのまま地域経済そして日本経済の安定化とつな がったことは言うまでもない。その中で名古屋の地場銀行の名古屋 銀行(津島銀行、笠松銀行、金城銀行が統合)、愛知銀行(第十一 国立銀行他、一宮銀行、枇杷島銀行、大垣銀行、関戸銀行他統 合)、伊藤銀行が統合して東海銀行が1941年に生まれた。

弊社にある1966年の古住宅地図の裏表紙の広告に「チエをお貸し します。あなたの会社がもっと?栄するために、今どんな手を打て ばよいか そんな時ぜひ東海にご相談ください。経営相談所の経験 豊かな専門家が、あなたから直接お話を聞いて、いつでも力になり ます」とある。

相談内容が、「マーケティング、人員適正配置、債権管理、法律・ 税務相談、在庫管理、資金繰り・・・」とある。時代背景が違う が、地域に目指した地域密着金融の様がうかがわれる広告だ。前述 の日経新聞が論じた「親密銀行はいらない」の方向性とは真逆であ る。

言うまでもなく、地元地場資本の金融機関である東海銀行が、地元 ビジネスのリスクを取り、そのもうけを地元地域に還元し投資を行 うという地域とともに成長するビジネスモデルで、東海地方の経済 の発展とともに都市銀行へのステップを進めていった。

まさに今隆盛を誇るトヨタの黎明期に、下請け中小零細企業の資金 繰りを支えたのも東海銀行であった。

話が脱線するが、現トヨタの取引に東海以外に三井銀行が関与して いたのに、三菱銀行がなぜヨタに関与していなかったのか。三菱は なにをしていたのか?この問題が筆者の永年の悩みだった。この問 題に、一つの知見をご教授していただいたのが、名古屋学院大学の 笠井雅直教授である。

戦前戦中から戦後にかけて、名古屋の基幹産業の象徴はトヨタでは なく、三菱(電気、重工)製作所であった。製作所と言えば名古 屋。名古屋と言えば三菱と言われるほど戦前から戦後にかけて名古 屋市内の物づくり産業の中核にあった。

当然モノづくりの現場のすそ野の広い下請け、中小企業の資金繰り を支える必要があった。この資金繰りを当時日本の産業資本の中核 となっていた三菱製作所内の資金運用部が非常に大きく関与してい たという知見だ。そのため三菱銀行がわざわざ名古屋で店舗展開す る必要がなかった。

これは、特別なことではなく極めて日本的な慣行である。例えば松 下電器などでも販売・仕入れの取引先との間に代金のやり取りが、 そのままファイナンス関係に発展していた。多くの企業が系列を組 み雁行経済システムを構築し、それが日本の成長エンジンの象徴で もあった。

その後、三菱重工、電気跡地がナゴヤドームになるなど、名古屋経 済のグローバル化とともに産業の空洞化が進み、直接的な三菱の産 業資本の影響が薄くなる中で、三菱がトヨタへの関与を東海銀行、 三井銀行の後塵を拝してきたと私どもは邪推する。

東海銀行を統合吸収して、トヨタ企業群はじめ東海地方の経済にメ ガバンクとして関与することができたわけだ。しかし三菱UFJと言 うメガバンクの成立は、冒頭の地場資本を統合した東海銀行を統合 したようにすべからく、メガバンクの成り立ちは地場資本の集合体 である。

その結果、メガバンクとしてグローバル経済を闊歩するマネーシン ジケートに加わる一方で、愛知銀行など多くの地銀と資本関係を持 ち、地域経済への関与を補佐しながら持ち続けた。時に岐阜銀行の ように過小資本の陥りそうな地域金融に対し、間接的に十六銀行と の橋渡しをし、この地域の金融システムをサポートした。

このメガバンクでありながら地域金融にも関与しなければならな い、ある意味中途半端な金融システムそのものが、2000年代の日 本の経済の金融資本の脆弱さを表していた。つまり地方銀行の過小 資本を改善できず、地方経済の衰退につながっと同時に、メガバン クとしても収益を落とした。

東海銀行と言う地域の中核銀行が姿を消し、より大きなメガバンク として地域に姿を現した。その結果融資のロットとしては事実上無 限大になったが、名もない名士でもない、一階の弱小の借り手はメ ガバンクに相手にされず、地域金融銀行に頼っても制度融資ありき のレベルでしか話ができないわけだ。

私どもは、昔からこの話をする。昔の話であり今は違うと言われる が、大きな改善は進んでいないはずだ。名前は控えるが、例えば東 海地方に拠点をおく地方銀行が単独で、名もない一つの企業に5億 円以上の融資ができるか?である。

5億円と言うと本店をひっくり返すぐらいの大きな融資案件であ り、過小資本の地域銀行単独ではリスクが大きすぎるロットであ る。従来であればシンジケートローンを組み複数行でリスクを分散 していた。しかしこのシンジケートもトラブルが多くなかなか進ま なかった。

となると5億円以上の案件になると、メガバンクか、地方銀行の資 本大手となる。名古屋で言えば外様の京都銀行、静岡銀行である。 しかしメガバンクは本来グローバル市場でのマネーゲームが主軸で ある。地域の10億円以下の案件に力を入れているわけでもない。

1960年代の東海銀行の広告のように、地域金融として細かく地域 の相談窓口になることは期待できない。こういった話をすると、そ もそも空洞化する名古屋経済で5億円以上のビジネスがそんなにあ るのか?と言われる。

それが都市開発、不動産開発である。似非相続対策の賃貸マンショ ンビジネスではない。例えば、名古屋駅で開発された超高層ビル群 の周辺にある敷地100-200坪の中層オフィスビルの多くが、バブル 以前に建てられたものでも、築40年にもなろうとしている。

これらの建て替えには10億円以上の建設費を要する。今の金融シ ステムではこのファイナンスが付かない。ファイナンスが付かなけ れば、つまり今言われている、脱炭素・環境性能の高い都市施設へ の更新ができないわけだ。

このような現実の中で、非常に大きなゲームチェンジが起きた。新 聞などでも報道されているが。グローバル経済の憲法ともいえるバ ーゼル規制がゲームを変えてしまった。

バーゼル規制はBIS規制と呼ばれる、グローバル経済で行い金融機 関が過剰なリスクを取りすぎ重大な金融破綻を起こさないように、 資本規制するものである。この規制バーゼル3の中で銀行が他の銀 行の資本を持つことに圧力(リスクの過大評価)をかけた。

つまり前述のような、地場資本の集合体でそのために地域金融の銀 行と持ち株関係を持ってきた、日本のメガバンクの在り方に規制を かけたわけだ。そして三菱UFJがこれに従って、愛知銀行の資本関 係を解消したことになる。

またまた話が脱線するが、昔、ある学会の懇親会の席で、業績の良 い有力な地銀の特質について、お酒が入った状態で冗談話に花が咲 いた。それは地銀上位行の資本が太い銀行は実は、地元地域で人 気?がないというものだ。

人気と言う言葉が炎上するかもしれないが、あくまでお酒の上での 裏話である。例えば前述の地銀ながら資本状況が優秀な京都銀行、 京都では京都銀行より京都の信金、信組の方が地元のつながりが強 い。静岡銀行は静岡地元ではスルガ銀行や信金の後塵を拝してい る。

これは明らかに言い過ぎではあるが、この話の結論は、地域金融は リスクのわりに利益が薄い金融ビジネスであることを示している。 地元でリスクをとっていない、つまり人気がない金融機関の方がビ ジネスとしては成功しているケースが多いのではないかと言うお酒 の上の話である。

かくして、メガバンクの地域への関与は薄くなる。一方でグローバ ル経済の低成長下の中で、地域に再生が資本主義の再生につながる 時代となる。となると、その中で改めて地域金融の真価が問われる こととなる。仲良し財界、横並び金融ではなく、リーダーとなりえ るバンカーが出現に期待したい。

かつての東海銀行がそうであったように、地域経済のリスクを取 り、そのもうけを地域経済に還元投資して、地域経済を還流する金 融システムだ。そのためにはある程度の規模地域金融が必要とな る。

「銀行の合併は時にタスキ掛け人事を生むなど、非効率で非常に難 しい。それでも地域金融を守るために、必要ならば合併統合を進め なくてならない。」。以前、日本金融学会中部部会の報告のコメント で、現在愛知産業大学で教鞭をとっておられる奥田真之氏の以前バ ンカーとしての気迫のこもった発言が思い出される。

城山三郎氏の著書「中京財界史─創意に生きる─」では、名古屋経 済人は、日本の政治家に気脈を持つようなことがへたで、国からの 払い下げで大儲けするような政商にはなりえない。しかしそういっ た利権から距離を置いた質実な商人が生まれ出る。としるされてい る。

メガバンクの大看板が外れることをチャンス考えるべきだろう。た だ不動産ビジネスから言えば、ファイナンスの出し手が上場ファン ド、私募ファンドなど多義に代替し始め、不動産スペースの事業者 が百貨店になる等もっと大きなゲームチェンジが起きている。金融 システムのゲームチェンジは、外から見ていると遅かりしといえよ う。

地銀の再編はすでに言い古された考えである。問題は、再編によっ て資本を安定させたうえで、地域のどのようなリスクをファイナン スするかである。

以上

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