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主筆:川津昌作
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警鐘・グリーン資本市場がバブルとどうなるか? 

〈2021年10月10日〉

衝撃的なニュースが日経一面(8日)で報じられた。ENEOSが「再 生エネルギー関連新興企業 2000億円買収」したというものだ。 見出しは「脱・石油いそぐ」「成長にらみ巨額投資」と続く。

一方で事業内容を日本や台湾で太陽光、風力、バイオマスで年間合 計出力88万キロ。売上36億円、税引き利益6億7800万円と紹介 している。いくら成長、ノウハウ取得とはいえ6.78/2000億円は 0.33%の税引き利益率である。日経も巨額の投資であることを指摘 している。

しかも購入相手はゴールドマン・サックス、シンガポール政府であ る。内部留保の海外流出も甚だしい。そもそもJREの出資者が GS、GICであることが・・・・。モノ言う株主は一体いずこに?

地球温暖化による気候クライシスが危機的状況にあるのかないの か?たとえそれが百家争鳴しようが、現実の気候災害を見れば危機 的な変動が目の前に迫ってきていることを否定することはできな い。

さて表題の件であるが、気候変動を危機から守る為の環境支援の資 金仲介市場、いわゆるグリーン資本市場が近年急成長している。こ のままバブル化することは容易に予想できるが、グリーン資本市場 がもしバブル化して、破綻するとどうなるか?という視点で今回な 議論してみたい。

グリーン資本市場では環境に配慮した事業に資金を融資する環境債 所謂グリーンボンドを発行する企業、それに投資をする投資家で構 成される。このグリーンボンドに、社会貢献の“ソーシャルボン ド”環境社会貢献の“サステナビリティボンド”を加えてESG債と 呼ばれる。中でもグリーンボンドは最近10年足らずで世界で累計 1兆ドルを超える規模の市場になっている。

遡って日経(6日)で、NTTが3000億円記載するニュースが大 きく報じられた。昨年から日本の優良企業の多くが、このグリーン ボンドの記載を行っているが、その規模が数百億円であったのが、 いよいよ桁が増えて、数千億円規模の起債が登場してきたわけだ。

新聞によると、NTTは2040年までにグループ全体の温暖化ガス排 出量を実質ゼロにする目標で30年までに4500億円を投資する計画 の一環であるとしている。

このようなグリーンボンドの急成長成長を支えている市場ニーズ が、まず、起債する企業の気候温暖化ガス排出セロを目指すニーズ である。次にグリーンボンドを購入(投資)することで信用・イメ ージを上げさらに潤沢な投資マネーを呼び込もうとする投資ファン ド、機関投資家、大口投資家の思惑である。

更にその背景にあるのが、コロナ禍以前そしてコロナ禍でさらに急 増したグローバル市場マネーの、どん欲なまでの、優良な投資先ニ ーズがある。

これに対して国、中央銀行などの公的セクターの動きも、グリーン ボンドの成長を後押ししている。同じく日経の報道によれば、日本 の金融庁が、上場企業4000社を対象に気候変動を伴う業績などへ の影響を開示することの義務化の検討に入ったとしている。

国としても、差し迫った気候クライシスに対して、環境に配慮した 事業と、そうでない事業を分けて、配慮した事業に上質な資金が還 流するようにしなければならない。国上げて、資金面から環境配慮 事業を支える姿勢を見せる必要がある。

資本市場の改革も急速に進む。現在、日本の株式上場基準が変わ り、既存の東証1部、2部、下部の新興市場などの仕組み制度の改 革が行われている。最上位のプライム市上場企業が創設される。こ のプライム上場に入る為には、気候関連財務情報を開示する必要が ある基準が盛られている。

このようなビジネスの環境の変化に合わせて、日本の優良企業が一 斉に、温暖化ガス排出量の削減に舵を切りだした。新聞報道によれ ば2021年1−9月の国内企業などのESG債の起債が1兆4943億円 であり前年同期比の7割増しとなった。

産業革命以降の気温上昇を2度前後に抑えるために、2050年まで に既存の温室効果ガスを50-70%削減しようという目標が、グロー バル社会で現在認識されている。それに対してグローバル資本市場 も、グリーンボンドなどのSEG債に対して、他の事業債と比較し て、ある程度のスプレッドを認めるており、グリーンボンド市場に 追い風は台風のように吹きまくっている。

さてこのような状況にあえて、横やりを入れて問題点をあぶりだし てみよう。まず起債する企業は、環境に配慮した事業への投資を行 う事で直接温室効果ガスの排出削減に貢献することが目的のはずで ある。

その企業が温室効果ガスの排出量を削減するための業務改善のため の投資であるならば納得できる。しかし現実には、市場での価格競 争などを意識して、それがなされず、コアの事業に関係のない場所 で、違う例えば再生エネルギーなどの事業への投資を行い、その排 出削減量をもって、自社の排出量を相殺して、排出ゼロを目指した としたらどうなるだろうか?

例えばコアの事業で石油燃焼によるグレーエネルギを使用し、温室 効果ガスを大量に排出し続けながら、一方で再エネ産業にも投資 し、その排出削減量で、コアの排出量を相殺させ、トータル排出ゼ ロにして、弊社はグリーン企業ですと言い出したらどうなるだろう か。

これは明らかに、過去幾多になされたのと同様の資本市場での錬金 術でしかない。排出権の売買がまさにそれである。温暖化ガスの排 出枠の余裕のない企業が、余裕のある企業(グリーン投資事業)か ら購入することで、排出削減目標を実行できるわけだ。企業の排出 量の根源的な削減は後回しにされるかもしれない。

上記の3000億円のグリーンボンドを起債するNTTにおいても、今 後10年間で太陽光発電などの再生エネルギー発電設備の総額4500 億円の投資を計画している。もちろんNTTは電気を使用しているた め、直接その再エネを使えばコアの事業ともいえる。

この排出権もコロナ禍以前に比べて、2倍に高騰していると言われ ている。企業にとってみれば、購入する排出権が高くなれば、それ は消費者に転嫁すれば済む話である。この辺の規律のなさが、安易 な高騰を招いてしまっているわけだ。

温室効果ガス排出削減のための新たな投資事業は必要である。しか し資本市場サイドの排出権の高騰と言う市場ニーズで、投資事業に 過剰の投資マネーが急速・急激に流入するとどうなるか?

まず、排出削減のための環境資材の高騰が予想される。バブルであ る。資材の高騰は適切な資源配分を歪めるだけでなく、性能などの 効率化・技術革新の妨げとなる。再生エネルギーなどの新たなグリ ーン投資事業は、まだまだこれから技術革新を進めて効率を上げる 必要がある。

日本の太陽光発電買取政策における、価格40円の高額功罪は、結果 的に資材の買取高騰をよそに、国内パネルメーカーが価格に引き下 げ競争を怠り、技術開発を放置したことにより、海外メーカーに駆 逐されてしまったことにある。

技術革新、効率性の改善を時間をかけて行うことを待てず、あふれ 出る資本市場の余剰マネーで起債した投資マネーで投資事業を爆買 いし続けば、いずれは破綻する。住宅バブル、ITバブルであれば 破綻しても、残骸が市場に積みあがるだけである。税金で償却すれ ば金融不安すら生じない時代だ。

しかし温室効果ガス排出量削減ビジネスが破綻したらどうだろう か?産業革命以降の気温変動を2度に抑えることに失敗して、世界 の多くの場所で熱帯・亜熱帯になり、今以上に巨大な水害・土砂災 害リスクにさらされ、自然界のエコシステムが崩壊し食料不足など が生じ、世界中で資源を奪い合う騒擾が起きるかもしれない。

要約すれば、企業は温室効果ガスの排出を削減しなければならな い。しかしそれをせず、他の環境配慮型事業に投資をして、コアの 事業の排出量の相殺に走れば、温室効果ガスの絶対量の削減にはな らない。そのためのグリーンボンドの起債が今盛んにおこなわれよ うとしている。

背景には世界的な金余りがある。冒頭のENEOSのように売り手市場 となり再エネ資材が高騰しつづけ、もしバブル化すれば、本来必要 とするセクターへの適正な資源・資本配分はゆがめられる。

投資家サイドにおいても、環境配慮型事業への投資は市場評価が高 くお金を集めやすい。このような投資家サイドのニーズが高くなり すぎると、かつて投資ニーズからサブプライムローン証券を多く組 成するためにサブプライムローン付の住宅を実需以上に売らせたよ うに、グリーン産業の実市場の需要と駆けはなれた、グリーンボン ド市場の成長となる。そのバブル化は避けられない。

サブプライム住宅ローンバブルでは、サブプライム住宅論証券の信 用格付けが偽証された。同様にグリーンボンドの資金の運用が本当 に環境配慮なのかどうか?といった信用格付けに対する信頼はどの ように担保されるのかと言った問題が山積みである。

資本市場に、バブル化しない規律が求められるわけだ。と言えば簡 単であるが、資本市場に規律がないのは明らかである。数々のバブ ルとその破綻を経験しても、その学習を超える新しいビジネスモデ ルが開発されて、更なる住宅バブル、ITバブルを容認してきた。 リーマンショックでは、あれだけの公金を注入したにもかかわらず 処罰された金融関係者はたった一人(格付け業者)だ。

ただし、市場でもこれらに対する様々な疑心暗鬼が全くないわけで はない。日銀は金融緩和の一環として、市場から大量のリスク資産 の購入を継続しているが、そのMMTの実践者である日銀ですらグリ ーンボンドの購入には躊躇している。日銀の思惑は何処に?

さてどうやって、このバブルに冷や水をかけるべきか?問題は、地 球温暖化を止めるという重要な大義を人質に取られていることにあ る。

ここでシナリオクイズ。次のシナリオの内どれになるでしょうか?
1.闇取引をして、身代金を支払って人質を解放してもらう。
2.誘拐犯を逮捕投獄して、人質を解放する。
3.人質が殺されてしまい、誘拐犯も取り逃がす。

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