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主筆:川津昌作
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いよいよ栄エリアに東京資本降臨 「なぜ今になって東京資本のスイッチが入ったか?」

〈2021年9月15日〉

先日、名古屋駅前で歴史ある銀行支店が閉店した。貸金庫の大移動 が行われた。他の地域にもないではないらしいが、名古屋らしい特 徴として、貸金庫ボックスが古いもになると桐の箱だという。ご当 地を表す歴史を感じる話だ。

栄における再開発構想が賑やかしくなっている中で、錦三丁目25 番街区私有地等活用事業の話題が急浮上してきた。見切り発車の感 もあるが、栄の将来オプションへの期待は大きいはずだ。そしてこ の事業の栄エリアに対するインパクトも大きい。

この事業のインパクトの大きさは、この事業がいわゆる三菱不動産 部門の御三家と言われる、三菱地所、郵政、明治安田生命による栄 への本格的な投資であり、名古屋のみならず東海地方のランドマー クを想定していることだ。

その意気込みがヒルトンホテルグループの最高ランクカテゴリーの コンラッドを持ってきたことだ。ただこれにも、現在伏見にある名 古屋で稀有の外資系のヒルトンホテルが、すでに老朽化してその代替が 必要なところへ、タイミングが一致した感もある。しかしこれで、 トヨタへの世界の要人訪問のホテルが確保できたわけだ。

ついに東京資本が降臨したわけだ。名古屋の栄エリアは、元来名古 屋の地元資本と、名古屋の行政資本によって形成されてきたエリア である。名古屋駅前が東京資本で形成されてきたのと大きく対峙し ている。

1990年のバブル経済が崩壊して以降、金融の自由化により日本 国内の資本配分が激変した。従来どんな地方にも、銀行、生損保、 百貨店など広域企業の支店が各県、地方都市に機会均等に配置され ていた。それが投資効率を求めて、多くの地方の資本が東京に吸収 されてしまった。現在なお東京が推し進めている金融センター構想は、 今後一層地方への適正な資本配分をゆがめることは明らかだ。

地方の衰退の始まりである。名古屋も地元資本が東京に逃避し、行 政資本が縮小する中で、地元資本と行政資本で形成されてきた栄エ リアの地盤が沈下し始めた。

代わって、東京であふれ始めた資本が、東京資本で形成されてきた 名古屋駅に還流投資された。これが名古屋駅前エリアの隆盛となっ たのである。弊社はことあるごとに、東京資本に栄への投資を問う てきた。なぜ栄を買収しないのかと?

これは郷土愛でも何でもない。今その時、栄が安いから買い時だっ たからだ。支店サイドも「本店にレポートは送っているのですが、 本店は関心がないようです。」と言う声が聞こえた。

痩せてしまった名古屋地元資本、行政資本で栄エリアを動かすこと は無理である。東京資本の誘致こそが栄の再起の起爆剤であったと 考えていたが、東京本社は動かなかった。

それがここへきて、三菱本家の不動産シンジケートが動いたわけ だ。「なぜ今になってスイッチが入ったのか?」このシンジケート に近い東京の有識者に問いかけてみたが、「時期到来」「東京に建 てる場所がなくなってきた」と笑っていた。

軽い中にも真実が見え隠れする。東京ではポストオリンピックと言 えども、オリンピックで積み残された再開発案件が目白押し状態 だ。しかし現実にコロナ禍の中で選別もされる事であろう。その中 で、目線を変えれば名古屋という案も当然でてくるわけだ。

時機到来説から見れば、ライバルの三井不動産主導による久屋大通 公園の再開発が高評価を得ている。そこで三菱も動かなければとい う極めて日本的なインセンティブも動いたはずだ。

冒頭の伏見にあるヒルトンホテルの建て替えも必要になってくる。 興和による名古屋キャッスルホテルの建て替えなど、名古屋のホテ ル業界もバージョンアップの時期に入ってきている。いろんなタイ ミングが重なり合っている。

この東京資本の波及効果によって、名古屋の地元資本の奮起を期待 したいと言いたいところだが、名古屋と言えどもそれは難しいだろ う。そのくらい地場産業資本、地元金融資本がやせ細り、経済基盤 が地盤沈下してしまっているわけだ。

このプロジェクトが起爆剤となり地元資本のプロジェクトが立ち上 がることより、他の東京資本の名古屋への投資が活発になることを 期待したい。これは逃避した資本の還流にもなり本来の姿だろう。

そして最後に言及しておきたいのが、冒頭で明記した「見切り発 車」論だ。栄は栄本来の根本的な欠点をいまだに克服していない。 確かに栄は冠たる名古屋の中心商業地であるが、東海地方、中部地 方、そして日本、東洋、アジアの中心地にはなりえない。

それは栄の交通ネットワークが、地下鉄バスによる名古屋地元の生 活インフラの中心でしかないからだ。地下鉄はすべて各駅停車で、 都市間交通の機能を持ち得ていない。つまり商業地栄の商圏はあく まで、人口200万人の名古屋市内でしかなく、これは昔から変わ っていない。むしろ縮小している方かもしれない。

名古屋で数少ない外資メジャーホテルヒルトンは伏見である。なぜ、 栄でなく伏見にあるのか?トヨタとの導線があるからだ。栄は確か に、名古屋駅、中部国際空港そしてトヨタによる中部経済のトライ アングルの中にあるが、いずれからもアクセスが中途半端である。

栄からトヨタ本社への経路をグーグルマップでググってみると、電 車利用で1時間30分かかる。海外からの要人の朝一番でのトヨタ 本社での商談には時間がかかりすぎる。リニアができれば40分で 東京名古屋間を移動できる時代だ。

名鉄は、現在名古屋駅から既存の路線を改良して40分で豊田までのア クセスを実現しようとしている。これは重要で意義があることであ るが、この構想こそ栄が、東海地方の産業トライアングルの拠点構想 から外れていることを意味にしている。

都市間ネットワークは、ただ規模・量のメリットでつながればいいと いうのは、前時代的な都市計画の考え方だ。生産・投資・消費活動が有 機的に関係性を持つことが、都市間ネットワークに求められる姿である。 こう考えるとおのずとどことどこのネットワークが必要かは明らかである。

弊社は、かねてよりトヨタ本社と、栄、名古屋駅を30分で結ぶ新 交通システムの必要性を説いている。最悪、金山駅から、名鉄が地 下を延伸して栄に乗り入れ、瀬戸電にジョイントする案でも面白 い。名鉄にとってもいろんな意味で投資のタイミングがいいはず だ。

中部圏の産業トライアングルの中心、都市間交通ネットワークの拠 点に栄がなれば、名古屋の中心だけでなく、中部圏、太平洋沿岸メ ガロポリスの中心にもなりえるわけだ。それだけの可能性がある。 いまだ大いなる田舎の名古屋の中心でしかない栄であるが、将来の 可能性を見込んでの見切り発車論だ。

話がそれてきた。元に戻そう。なぜ今スイッチが入ったか?松坂屋 の動きも大きいはずだ。大丸松坂屋になり、Jフロントリテイリン グの不動産ビジネスモデルも名古屋に大きなインパクトを与えよう としている。

現時点では、久屋大通公園の広小路通り南サイドの再開発がペンデ ィングになっている。まだまだ難しい利権の調整が横たわってい る。しかしこのスペースと三越、松坂屋、パルコのデパート群が一 体化して大化けし、更に都市間交通の拠点となれば、東洋、アジア の中でも大化けする可能性がある。

利権の調整は、ゲームの理論だ。参加者が全員協力すれば結果は大 きなものとなるが、自分だけの最適な解を求めると、名古屋全体の スキームは成り立たない。栄の資本の多様性の難しい問題である。

最後に、完成するとおそらくこの商業施設は栄のランドマークにな るだろう。プロジェクトの立ち上げから、もっと関心を高めるネー ミングで、プロジェクト自体をプロモートしなければならない。こ のような戦略性のなさが、長いことスポットライトから外れてきた 栄の弱さだ。“サカエ RenaissanceプランI”なんてどうかね?

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