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主筆:川津昌作
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株価30,000円時代の不動産バブル論

〈2021年4月5日〉

1990年代のバブル経済当時に、日本の画家ヒロ・ヤマガタの版画 (シルクスクリーン)が人気を博し、今とは全然グローバル度が違 うにもかかわらず、世界的にも認知度を上げて、高騰した。当時の 価格が数十万円から百数十万円であった。

今世界的に注目されている日本の作家が草間彌生である。彼女のか ぼちゃの版画が数百万円から一千数百万円である。桁が違うが、世 界中のマネーが世界GDPの倍の状況下で考えると、同じようなバブ ルと考えていいだろう。

株価30,000円の新常態時代における不動産バブルとは何か?今が バブルなのかどうか?不動産市場を俯瞰してみたい。東証のJ− REI指数が現在1900台の後半まで回復してきた。これはコロナ以 前の水準にほぼ匹敵してきた。株価がコロナ以前の水準を超えてい ることと比較するとまだまだと言う事になる。

日本では失われた10年以降、有識者の間では、1990年代のような バブルの生成およびその破綻は生じないといわれてきた。最近の若 い市場参入の方々は1990年代のバブルがどのようなものであった か、まず知らないだろう。

当時は、土地神話と言われて、地価が右肩上がりで上がり続けた。 その原因は地価の価格付けの方法にあった。隣の土地が坪100万円 で売れれば、理屈抜きでその隣は110万円・・・と言う世に取引事 例法による価格付けで、地価上昇の連鎖が止まらなかった。

しかし今は、ほぼすべての土地が収益率で評価され、収益還元法い わゆる利回りで評価される。坪単価の合計ではなく、その一段の土 地を利用したときの家賃収益の利回りで還元された地価になる。

土地が利回り%で評価されると言う事は、他の市場の利回りとの比 較も可能となる。結果的に資本市場の資本コストとリンクし、どれ だけ地価が上がろうとしても資本コストを超えてまで上昇すること はない。どれだけ下落しても、他の市場利回り。例えば金利、株価 収益率との比較で資本が流入してくるところで止まる。

つまり、現在は、利回りで資本市場とリンクしており均衡規律がで きているからだ。この資本コストを度外視して買いが市場に入れ ば、明らかにそれがバブルとなる。強い市場嫌悪が作動する。

オリンピック開催が期待された、2017-18年ころの東京におけるホ テル用地などはまさにバブルであったといえよう。年ごとに倍々で 上昇し続けた。資本コストを度外視した期待がそこにあり、抑制機 能を超えていた。しかしその期待が実現しないと破綻することにな る。

昨年までの、相続対策のアパート投資もバブルである。市場に何ら 規律もなかった。ただ銀行の融資獲得の為だけにプロパガンダされ たバブルだ。素人の高齢者に30年超のアパートローンを組ます金 融機関・デベロッパーは、不動産投資にプロから言わせれば、魑魅 魍魎の森に放り出されたか弱い羊を狙う狼のようなものだ。偽造さ れた期待に踊らされたバブルである。

要するに、資本市場と投資利回りでリンクされており、不動産市場 だけのバブル発生は起きえないわけだ。しかしその一方で、現在資 本市場で過剰なクレジットの積み上げがなされると、不動産市場の ファンダメンタルズに関係なく市場は成長する。

最近「デフレ神話」という言葉が聞かれるようになった。理屈もな くデフレが続くという信仰だ。コロナ禍前まですでに世界GDP合計 の倍のマネーが世界中を流動していた。IMFから何度も警告が発せ られていた。にもかかわらずコロナ禍で巨額のクレジットが追加供 給された。

そして今、アメリカ経済ではすでに金利が上昇し始めて新たな均衡 を求め始めた。将来インフレの匂いがしだしたといわれている。

1990年代のバブルと違うところをいくつか上げると、

1. 資本市場とリンクした利回りの規律が市場にできている。

2. 市場インデックスの整備が進み、市場のベンチマークが 登場した。

3.世界中の年金基金の5-10%が不動産市場に参入

4.不動産投資のスキームに選択肢がある。

5.マネジメントスキルが格段に上がった。



1は上記で説明したとおりである。2について解説しよう。凡すべ からく商いとは裁定取引である。もちろんそこには加工という付加 価値をつけて高い裁定機会を作り出すことがなされる。

裁定取引については、話せば長くなるので拙著「プロの為の不動産 投資利回り」を参照していただきたい。裁定機会は市場の均衡と自 分のリスクポジションの差額であり、それを取引して利益を上げ る。市場の均衡つまり、ベンチマークが不明確な市場では投資は成 り立たない。

実効性はともかく、従来市場インデックスと言えば鑑定制度の公的 地価しかなかったが、現在では民間、パブリックも含めた多くの市 場インデックスが機能し始めている。

3.昔のバブルは、銀行の過剰な融資によってレバレッジを効かせ ていた。本来リスクが取れない銀行のデットマネーは逃げ足が速 く、市場がおかしくなるとすぐに引き上げられて、リスクポジショ ンが崩壊してしまう。砂上の楼閣でもあった。

現在は、長期にわたりリスクを取る年金資金などが、流入するファ ンド市場がリスクマネーを市場に供給している。日本の市場で言え ば2,000兆円ともいわれる不動産資産の1-2%である30兆円以上 の規模で、上場、非上場のファンドが運用されている。しかも日本 の都心部にあるトップクラスの不動産資産ばかりである。

4.リストされたファンド、ノンリストのファンド、いろんなSPC、 SPV、基金などが組成されており、市場ニーズに応えようとしてい る。日本の年金基金などが投資を始めたのも、その市場の信頼性の 表れだろう。

5.当然それに伴って上質なアセットマネージメント、プロパティマ ネージメントが存在し市場の質の向上がなされている。

当ニュースレターで何度も紹介するが、原油市場は、1900年代初 頭イランでクルド原油が発見されて以来、石油資本のメジャー、オ ペックなど入れ替わり価格を決定してきた。この特定資本によって 決定されてきた間はほぼ一定の右肩上がりの価格上昇であった。

しかし2000年以降、YNマーカンタイルなどで石油価格の決定がな される市場価格に移行して以来、1バレル40ドルから100ドルの間 を短期間に乱高下している。つまり市場ではあらゆるリスクを織り 込んで価格が変化する。

従来のバブル論では、市場で原油価格が100ドルに近付いただけ で、コモディティバブルとみなされたが、市場のあらゆる変動ファ クターにリンクし、それぞれが規律を保っていれば、いくら高くて もバブルとは呼ばない。

もちろん市場の思惑は身勝手で、必ずしも市場のフェアマーケット バリューを表しているわけではない。効率的ではあるが弱い市場で ある。しかしただ価格変動が高いからと言ってすべてそれがバブル になるわけではない。

同様に、地価が高くなったからと言って、そのままバブルという考 えは、あまりにもリテラシーがなさすぎる。しかし最近危険なニュ ースが入ってきた。報道によると野村証券が2200億ドル、三菱 UFJ証券、みずほ証券もそれぞれ数百億ドル単位の損失を出した模 様である。

米ヘッジファンド、アルケゴス・キャピタルマネジメントの破綻に 起因している。報道によるとこのヘッジファンドは、規制をかいく ぐって非常に高いレバレッジを効かせ、1億5000億ドルの資産を 運用していた。利回りを上げるためには外部からお金を借りれば簡 単にできる。これが毎度おなじみのレバレッジである。

かつて、ノーベル経済学賞受賞者を集めたLTCMと呼ばれるヘッジ ファンドが、やはり50−100倍のレバレッジを組成して破綻し、世 界の資本市場を混乱に貶めた。以来レバレッジに対する規制が幾重 にも設けられたが、その規制を逃れる手法こそ現代の錬金術ともな っている。

つまり規律を失えば、根拠のない期待であり、ノーベル経済学者ロ バート・シラーいうところの“根拠なき熱狂”バブルとなる。不動 産市場がリンクしている資本市場が規律を失っても、当然不動産市 場もバブル化してしまう。

現時点報道されている野村証券の損失額だけでも、過去の事案の海 外の投資バンクならこらえることができず破綻し、そこから資本市 場への影響は多大なものになるはずである。

野村は、過去にもロシア危機におけるSMBCの巨額損失などを乗り 越えた経験がある。そこら辺のメガ投資バンクとは違う。しかし一 切関連の情報が出てきていない。

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