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主筆:川津昌作
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アニメ・漫画が映し出す社会風景

〈2021年3月20日〉

まず、最初に“アニメ”とは?言葉の定義が必要だ。アニメは広義 の漫画の英語風呼び名ではない。アニメとは動画を意味し、TVも しくはアマゾンなどで配信されるアニメ動画を意味する。週刊漫画 雑誌ジャンプなどのコミック誌に掲載された物が漫画と呼称する。

漫画・アニメは上位のハイカルチャに対して、下位のサブカルチャ ーに属し、都市のサードプレイス同様に、人の日常的、下心的な欲 望を満たす文化である。漫画・アニメはその作風において比較的模 倣など規律が緩く、人のちょっとした願望を満たすスペースとなっ ている。

筆者も漫画第一世代に近い世代であると自認している。週刊マガジ ンの創刊が1959年、週刊ジャンプの創刊が1968年である。団塊の 世代の後半から漫画世代1世となる。すべてではないが、筆者の考 える漫画、アニメ観を使い社会風景の変化を論じてみたい。

記憶が正しければ、週刊キングの創刊号の表紙がゼロ戦と戦艦大和 であった。まだ子供の夢が戦争の影響を強く受けていた時代風景 だ。1966年から週刊マガジンでスポーツ根性物の代名詞である 「巨人の星」の連載が始まる。1968から読売テレビでアニメ化し 社会文化の一つのピースとなる。

巨人の星は今更ながら解説するまでもなく、まだまだ社会全体が貧 しく、当然貧しい家庭にあって、根性・努力で巨人の星をつかむヒ ーローの立身伝である。この同時期に1965年から異国のアメリカ では、宇宙家族ロビンソンというTVアニメが人気を博していた。 1966年には宇宙大作戦(スタートレック)の放送が始まってい た。

この二つのアニメが映し出す社会風景が対照的だ。戦後の焼け野原 の貧乏で何もない日本では、根性・努力で巨人の星をつかむ成功話 が日本の憧れの成功話であったのに対し、アメリカでは、宇宙に家 族で探検に行き、壮大な宇宙というSFが人気を博していたわけ だ。

このような宇宙SFを見て育った世代がビル・ゲイツであり、日本 では団塊の世代だ。SFロマンVS資源がない分根性・努力で補うと いう社会が出来上がっていった。一方はOSで世界を制覇し、他方 は努力で世界第二位の経済大国にまでなった。甲乙ではなく、社会 が標榜したアニメが映し出す未来社会は。かくも違っていたわけ だ。

さて次に、今問題となっている男社会全盛期を象徴する漫画が“弐 十手物語”である。この漫画は週刊ポストに1978-2003年に110巻 にも上る長編漫画だ。この時代は団塊の世代がちょうどサラリーマ ンになる時代でもある。

週刊ポストの位置づけは、グラビアにちょっとエッチなアダルト写 真が掲載され、記載内容は芸能、社会のゴシップである。ハイカル チャー(サブカルチャーの上位)の新聞では書けないゴシップネタ を掲載し、サラリーマンが通勤の時に、駅のホームで買いカバンの 中に入れてこっそり読み、仕事先での世間話のネタを仕入れた種本 でもある。パワハラ、セクハラありの当時の男社会サラリーマンの バイブルであった。

ゴシップサブカルチャーの週刊誌に掲載された弐十手物語のストー リーは、容姿が悪く二枚目でもない、コネもない、お金もない、し がない奉行所勤めの下級役人が、話が進むにつれて、どこか憎めな いその人柄とまじめさから、多くの女性からもて、無駄遣いしない がお金には一切困らず、大岡越前や最後には水戸黄門と気脈が通 じ、まさに切り捨て御免のような権力をも手に入れ、裏世界で暗躍 する悪者を次から次へと征伐するヒーロー的下級同心のストーリー である。

金もない、コネもない、二枚目でもない、団塊の世代のサラリーマ ンの夢である、お金、女、権力を体現して、不正だらけの世直しを 行う主人公鶴次郎に、ヒーロー観を思い浮かべて人気を博した漫画 である。団塊の世代、男社会の夢をサブカルチャーで描き出し、社 会景色の一つのピースになった漫画である。

さらに時代を駆け上がり、ワンピース(1997年ジャンプ)・銀魂 (2004年ジャンプ)時代になる。現役のストーリーであり解説を 控えるが、分類としては主人公がヒーローであり、肉弾戦・腕力で 悪い奴らを“ぶん殴る”話である。話のストーリー、ヒーロー観に ぶれはなく、ゴールのヒーローの勝利は明白な話である。

又同時期に幽遊白書、ハンター×ハンターが登場する。この作者が 国立大学を出た富樫義博である。それまでは小さい時から絵をかく のが好きで、漫画にあこがれて・・という作者が多かったが、学士 であり、それまでのただぶん殴るだけでなく、そこに数学、化学、 物理の知識を生かしたいという画風が登場するようになる。

化学反応、物理的現象を模索した画風が、読者の多様性にこたえる ようにもなっていった。多様な多くの読者層の取り込みは、アニ メ、漫画市場が一気に成長期に入っていく黎明期ともなった。その 一方で理論理屈がストーリーに大きく影響し始める。この理論理屈 の十八番が男子の作家の左脳である。

そしてヒーロー物の漫画アニメに異色のアニメが登場する。それが デズニーアニメの「アナと雪の女王(日本公開2014)」である。こ の特徴はまず、日本の漫画を媒体としていないことである。そして それはハリウッドのアニメ産業に火をつけるものでもあった。

日本でこれほど人気になったことに一番驚いたのがハリウッドのデ ズニーであった。この作品は、従来であれば主人公的位置のアナに 対し、従来であれば主演女優になる雪の女王エルザが存在した。し かし日本では、ファンをアナ派とエルザ派に人気を二分し、その相 乗効果で作品の人気が盛り上がった。

明朗快活な妹のアナに対しエルザは過去につらい思いをし、心に影 を持ち、心を閉ざし、氷の世界にひきこもった女性である。その影 のある姉のエルザを、明るい妹がその心を癒し開放する話である が、本来であるなら明るい主人公に、影を持つ助演という関係で、 ストーリーのヒーローも一人であるはずである。

しかしアナ雪では、影を持ち、ひきこもるエルザのマイナー性に、 多くの女性ファンが共感した。特にこの現象にデズニーが驚いき、 再度アメリカでプロモーションをかけるということになった。つま りヒーローは必ずしも一人で、マスプロダクトによって用意された ものではなく、読者、聴衆が自分のヒーローを決めればいいことが 成立したのである。

ヒーローは、完全無欠の明るい健常者である必要がなく、むしろ影 のある不完全な者いわゆるマイナーの方が共感を呼ぶことになる。 作品の制作サイドが決めたヒーローではなく、オーディエンスが決 めるヒーローである。いろんなヒーローが存在することになってい く。

アニメの完全無欠のヒーロー型でない、オーディエンスが決めるそ れぞれのヒーローは、まさに多様性の社会の風景を反映させたもの である。アニコメ型のハリウッド映画のアベンジャーズなども、初 めの取っ掛かりのヒーローはいるが、多様な形態、容姿のサブ役が 多く登場し、多様なオーディエンスの嗜好を反映できる作風になっ てきている。多様性社会時代のアニメである。

それは最近日本ブレイクした“鬼滅の刃”を見れば明らかである。 絶対的なヒーロー一人の為のストーリーではない。呪術廻戦を見る と、誰がヒーローであるかは制作サイドからの特定は非常に弱い。

多様性ニーズでは、特に女性的なキャラの多用が特徴的である。従 来であれば男性キャラが中心のスポコンでも、攻撃的対戦的なスト ーリーであっても、登場キャラは女性的な作画が多い。しかしその 一方でストーリーは感傷的感受性だけのストーリーではなく、むし ろ理系、工学的な用語を用いた男子が得意とする左脳の作風が多く なっている。

アニメ市場の成長は、他の市場とのかかわりも強くしていく。アニ メ産業が急成長し、アニメ業界の声優になりたい若者がこぞって上 京してしまう。トヨタを抱え就業率の高い東海地方であるが、若者 が製造業に関心がなく、東京のアニメ産業に職を求めるケースが多 くなっていく。

そしてアニメ、声優産業はガールズファッションなど新しいファッ ション市場なども融合し進化していく。さらにその市場の成長はゲ ーム業界などともコラボし始めている。ゲーム業界は、ドクターマ リオなどのように、本来独自のキャラクターを作ってきた。しかし そのキャラクターに、アニメの多様性の影響が表れてくる。

あるハンティングアクションのゲームがある。ソニー、任天堂のゲ ーム機を使い、カプコンから出ており2004年より累計販売本数が 何千万という世界でも人気のゲームソフトである。正確なデータに 基づく話ではないが、ハンティングアクションという性格から、ユ ーザーの一割が女性と言われていた。

しかし、実際にプレーをしているゲーム上の女性キャラクターが3 割ぐらい見かけるという。つまり男性が女装(In drag)して女性 属性としてプレーしているわけだ。

今人気のTVタレントのマツコ・デラックスの登場するTV番組で取 り上げられる話題にも、男性が女装してシューティング競技を楽し む姿の映像が、人気を得ている。

特別視されてきたBGLTと呼ばれるマイノリティではなく、普通の 社会人男性が日常とは違う特別な世界(サブカルチャー)で、女装 を楽しんでおり、それで自分の願望を満たしており、その姿が普通 に映像になっている。

いうまでもなく、最近のアニメの中のキャラクターの多くが外観は ほぼかわいい女性キャラクターばかりだ。アニソンの多くは女性で もある。声優もノージェンダーのキャラクターは、多くが女性声優 だ。

リアルな現代社会では、恋愛が成立する機会が少ないことが、結婚 ができない原因の一つであり、少子高齢化社会の原因にもなってい る。昔のように男性が女性に声をかけると、パワハラ、セクハラ、 ストーカー、不倫行為になってしまう。

もし同じ職場でそれを行えば、即自分のポジションを失いかねない 大きなリスクとなる。オフィスラブのような昔あった男女関係の曖 昧な水域がなくなり、危険視され危険水域では間違うと社会的生命 を絶たれる。その結果男女の関係になる機会がないのがリアルなカ ルチャーである。

その一方で、サブカルチャーでは男性が女装して、In dragな世界 で、一人で何かを楽しんでいる。シニア世代にとっては理解できな いが、これが現代社会の風景である。今後、社会的な男女の間のボ ーダーがなくなりジェンダー・ボーダーレスになる。生態的な両生 類化と言ってしまう、と言えば、あまりにも荒唐無稽な話ではある が・・。

アニメに見るように、従来の男子型の理論理屈、理系思考、左脳文 化に対するニーズは決してなくならない。しかし多様性特に女性キ ャラがアニメの世界を席巻している。そこで女装文化が現実的にな ってきている。それを一番楽しんでいるのが男性である。これがア ニメが映し出す社会の原風景である。

今後、国会議員総数の3分の一は女性枠のような制度ができてもお かしくはない。しかし女性の不得意な理論理屈しがらみに対しるニ ーズは決して消えない。となると男性が女装して女性枠に潜り込 む・・・なんてことはありえない。しかし“In drag”がやがて社 会記号になるときがやってくるのかもしれない。

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