ニュースレター

主筆:川津昌作
名古屋の不動産何でも相談室がお送りする、不動産・ビジネスに関するニュースレター「名古屋ビジネス情報」へのご登録ありがとうございます。
不動産にとどまらず、名古屋のビジネス情報、街づくり話題、不動産経済、市場トレンドに関するニュース、物件情報など時代の変遷とともに広くお伝えしています。

特記事項 弊社ニュースレターは、弊社の関係者及びお得意様に限定して、不動産ビジネスを行う上で注目すべきテーマをタイムリーに取り上げ、問題点を共有する為の ワーキングペーパーであります。公的機関を含む他のセクターへの提言、請願、上奏、不特定多数への拡散を目的としたものではありません。転用を禁止します。 取り上げる内容については、成熟した定説を取り上げるのではなく、早熟なテーマを取り上げるため、後から検証すると拙速な結論になってしまっていることもあります。 そう言った事を十分にご理解したうえで、ご参考にしていただきますようお願い申し上げます。

「リスクを移転し始めた不動産投資市場」

〈2021年2月1日〉

さて年明けから、大手企業の不動産資産場売却のニュースが新聞紙 上をにぎわしている。その筆頭が電通の本社ビル売却である。その インパクトは、その額が3000億円というシングルアセットとして は過去最高額であることだけでなく、夏のオリンピックに深くかか わってきた電通だけに様々な憶測を招いてしまった。

  電通の名誉のために追記すれば、リモート現象下で、本社の8割が 未使用の状況にあり、経営的に不効率だと新聞報道されている。し かしタイミング、報道の在り方がまずすぎる。

  さて、表題は2008年の拙著の本のタイトルである。今でもアマゾ ンでリセールされている。実は昨年末にも、当ニュースレターでこ のテーマを取り上げた。その時は、ソフトバンクGが保有す優良資 産を売却したことを取り上げて、これからいよいよリスク移転競争 が始まる号砲が鳴ったという内容であった。

  今回は、市場が次のレベルに進んだことを議論してみたい。不動産 有識者間でしばしば使われる言葉がある。「景気の良い時に、本社 ビルなどに不動産資産を買った企業は、景気が悪くなった時にその 本社ビルを売らなければならなくなる。しかし不動産資産を買わな かった企業は、会社を売らなければならなくなる。」である。

  お前ら不動産屋の都合が良いことばかり言ってろ。と言われるだろ うが、けだし名言である。そして今が、優良資産を売り抜けて、こ れから予想されるリスクオフの市場で生き残ころうとしているプレ ーヤーが多くいるわけだ。

  新聞報道されている案件を見てみると、昨年から話題に上っている エイベックスの本社ビル700億円、日通の本社ビル1000億円超な ど、そのほかアパレル業界から三陽商会など業界分野を問わず、そうそうたる企業の優良資産ばかりが候補に 挙がっている。

  現時点ではこれら優良資産の売却は順調に進んでいるといえよう。 買い手があるわけだ。まだ売りやすい、環境が良いところでの売却 であり、業績自体はアウトでも、生き残る競争の勝ち組となるであ ろう企業である。

  リスクを移転する不動産市場のメカニズムは、景気がピークを過ぎ 調整場面に入るとき、特にそれがバブルの破綻などのハードランニ ングが生じるとき、投資ポジションの手じまいが始まる。これが第 一のフェーズである。

  早い段階で売り抜けられるプレーヤーは勝ち組となるが、そのため には、保有する資産の中でも市場が評価する最も良い資産から売却 し、しかもその売却にもかなりの体力がいる。つまり相当な体力と 優良資産がなければできない「投資行為」である。

  そもそも日本では「投資行為」というと、リスクを保有する行為の みをさす。資産を売却する行為は投資行為ではなく、市場からの敗 退行為である考える。当然、市場エコノミストの評価、マスコミの 論調も後ろ向きの評価でしかない。

  しかし資産の売却は立派な「投資行為」である。むしろイグジット のない投資行為こそ投資ではない。このような錯覚は、明らかに日 本の投資リテラシーのなさからくるものだ。

  話を戻して、資産を売却する体力のない、優良資産の売り惜しみを するプレーヤーは、劣下する市場環境下で、手をこまねいてまだ頑 張れるとばかりに、静観すしかない。状況が悪化すればするほど、 優良な資産の買い手はますますいなくなり、最後には会社自体を身 売りする羽目になる。どんどん買い手は少なくなっていく。これが 第二のフェーズである。

  さらに次の第三のフェーズになると、市場から買い手がいなくな り、身売りもできなくなる。そもそも市場がクレジットクランチを 起こし、流動性がなくなる。市場は破綻プレーヤーばかりになり、 しかも彼らは自力で再生することを放棄し、公的な再生を居直り的 に要求するゾンビであふれる市場となる。

  以上三つのフェーズが、調整局面のリスクを移転する不動産投資市 場のメカニズムである。現在は、かなり従来と状況が変わってきて いる。まず上記のような市場メカニズムが市場で十分に理解されて いることだ。冒頭の「景気がいい時に優良な不動産を買っていない 企業は、不景気に会社を売らなければならない」という迷言が聞か れること自体がそれを物語っている。

  昔と違って、政策当局の政策においても、経験則から公的資金の投 入、金融緩和などの手法がとりやすくなっている。緩和・救済政策 の必要性、そのタイミングの取り方が理解されている。

  さらに、資本のボーダレス化が進み、ディストレスアセットビジネ スのマネーが効率よく機能している。不景気下で投げ売りされる資 産を安く購入して、やがて景気が良い時に売り抜けようとする、オ パチュニスティック投資マネーが、グローバル市場で資産の投げ売 りを虎視眈々と狙っている。

  パンパシフィックセンチュリープレースという物件を紹介しよう。 これは不動産の有識者間では、市場のベンチマークとなっている物 件である。1997年大不況の中で、東京丸の内の一等地である国鉄 用地が売却された。国内では誰も買えなかった。パシフィッ・セン チュリー・グループが869億円で落札し開発した超優良物件であ る。

  平成のいざなぎ景気越えのピーク時、2006年に日本の風雲児ダビ ンチに2000億で転売。しかし2009年リーマンショックで破綻し、 香港のエクイティファンドが1400億円で拾う。2014年1800億円 でシンガポールの公的基金に売却。

  このパシフィックセンチュリープレースはマンダリンホテルが入る 超優良不動産資産である。国鉄の破綻、リーマンの破綻いずれもリ スクをとっている資本は外資(アジアマネー)である。これら外資 マネーによって優良資産が維持されているわけだ。

  しかし現実に、破綻するたびにリスクを取り安く拾い、巨額な利益 を上げるマネーは、いつも日本マネーではなくアジアマネーであ る。私どもは以前から声を上げていっている。日本国内で公的イン センティブをもとに不動産再生ファンドを作り、日本の優良資産の 再生受け皿を行うべきである。

  上記の例でもシンガポールの公的基金とは政府系ファンドのことで ある。日本はあまりにも馬鹿正直すぎる。日本の不動産市場に、実 効性ある不動産再生ファンドがあり、いざというときに受け皿にな る信頼性があれば、今以上に日本の不動産市場に投資マネーを呼び 込むことができる。

  不動産の再生ファンドは、タイミングみてJリートに上場させるこ とも可能である。証券のリスク資産を買い込むより、よほど可能性 と実がある。非常に大きな資産効果を生み、景気刺激策となる。

  この手の話を、権威ある学者さんに話をすると「日銀は不動産屋で はない。」とおしかりを受ける。日本の国富のうち不動産が200 0兆円ある。このリアル資産を扱える“不動産や“が政策当局にい ないことが日本の政策の最大の汚点である。

  世界中、歴代統治者を見ても、都市開発、不動産戦略がうまく扱え た時代は、世界中どこでも?栄している。マネーの小手先の政策は 単なるバブルを生むだけである。

  東京都知事の唱えるオールドエコノミーの金融センター構想より、 都市再生、不動産投資市場の整備は、よほど実効性のある政策であ る。政府の経済諮問会議に、不動産の精通者がいないことが全く残 念なことである。

       

名古屋ビジネス情報リスクリスクトレランスパシフィックセンチュリー再生ファンド