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主宰:川津商事株式会社
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社会・市場の重層化(商業学会全国研究大会より)

〈2018年6月1日〉

グローバリゼーションによってボーダーレス、つまり国境がなくな る時代になると思われたが、実際には、消すに消せられない国境が どうしてもあることを、世界が気が付きだした。グローバリゼーシ ョンの限界である。

弊社は不動産ビジネスである。不動産は“市場”の場であり、その 上で行われるすべての商(あきない)を普遍化したものである。し たがって、すべての商業を受け入れなくてはならない。というわけ で商業研究は不動産ビジネスに必要不可欠な分野である。

今年の日本商業学会全国研究会のテーマが“重層化するマーケティ ング”であった。結論から言えばグローバルとローカルは二律背反 すものではなく、何層にも重なり合うことによって市場、社会が形 成される。

マーケティングの歴史は1980年代、まさにマイケルポーターの競 争優位論による競争力ある世界標準を作ることが優先された。この 標準化こそがグローバルスタンダードになるわけだ。しかしその後 グローバルに対する批判がでて、それに対してローカルとの2分法 的思考が登場する。

しかしリアル社会とかけ離れたイデオロギーならともかく、現実の 市場社会ではこの2分法は意味がなく懐疑的なものとなる。そして 今、現在セミ・グローバリゼーションと呼ばれる時代となる。セ ミ・グローバリゼーションこそがグローバルとローカルが重層化す る市場の現場である。

しかし、それでもどうしてもグローバルとローカルを二律背反で考 えようとするセクターがある。「ポピュリズム」という言葉を使用 してグローバリゼーションの不都合批判を、反グローバリゼーショ ンとして対立をあおるセクターである。

イデオロギーの世界ではなく、リアルビジネスの世界ではグローバ ルの不都合(無視できない国境問題)を反グローバルで説明するこ とはできない。日本のビールメーカー、アサヒ、キリン、サッポロ は、日本市場で同じ標準化した品質を売っているが、その缶のデザ インには地域に絵柄を取り入れ、地域の流通店のしきたりに従って 販売している。

スタバはグローバルスタンダードのコーヒーを開発したが、各国の 店舗にはそれぞれローカル色を出した店構えデザインを打ち出して いる。グローバル企業ネスレのチョコレートのキットカットは、宇 治茶、番茶、神戸プリン・・・ローカル味の商品を次から次へと打 ち出し販売している。

かつてイオンがプライベートブランドでナショナルブランドを標榜 し日本全国で同じ商品を売ろうとしたが失敗した。海外に進出した 日本のスーパーが、海外での商品仕入れルートを開発することがで きず、ただひたすら日本製品を販売するだけのビジネスモデルはこ とごとく失敗した。

リアルビジネスあるいは社会では、ローカルを無視してグローバル を押し付けるモデルはことごとく失敗してきたのである。無視でき ない国境があるわけだ。

それでも産業別にみると、グローバル化(標準化)が効果があるケ ースと、ローカル化(適応化)が優れているケースがある。現在グ ローバル市場で検証されているのは、研究技術開発、財務などは標 準化する傾向にあるが、販売、カスタマリレーションは適応化する 傾向にある。

研究開発、財務戦略に重きを置き、このセクターが重厚で時間がか かる産業例えば自動車、化学薬品などはグローバル戦略に大きなウ エイトが置かれている。一方販売、顧客とのコミュニケーションを 必要とする食品などはローカル化が求められる。

そして現実にビジネスの現場では、どちらの産業も、グローバルと ローカルを対立させることなく、ウエイトこそ違うが重層化せて成 功している。この現在の状況が2000年代のセミ・グローバリゼー ションである。

商品開発はグローバルに行われ、販売はローカルに行はれるビジネ スンモデルである。これが今回の商業学会の全国研究会で様々な事 例が報告され、様々なテーマで議論がなされた。その中でいくつか 筆者なりの理解で加工して紹介しよう。

まず、ソニーとアップルである。もともと技術革新を行い、それを 特許で守りながら市場を独占するビジネスモデルは、アメリカの十 八番であった。しかしその中でソニーが斬新なアイデアと高品質、 廉価を組み合わせて市場を席巻した。この時代の競争優位の指標が 技術特許取得の数であった。

しかしやがてソニーにとって代わるアップルは、特許数で明らかに 劣勢であったにもかかわらず市場を席巻した。アップルの後塵を拝 したソニーは、現在に至っても特許の数では決して見劣りしていな い。しかしソニーはアップルにとってかわられた。

アップルは、時間の要する特許の取得による生産よりも、他社が持 つ特許を如何に市場ニーズに合わせて、早く実用化するかに特化し たモデルである。特許自体はグローバル戦略である。特許だけ、つ まりグローバル戦略だけでなく、それを如何に市場にあった使い方 をするかという、マーケティングのローカルな戦略が求められたわ けだ。

しかし最近、アップルが保有する特許の数が急増しだしたと言う。 最近ここへきて、アップルの業績が下降しだしたことは周知の事実 である。特許の数が増えグローバル戦略に軸足が移り始めると今の 市場では業績が悪くなる状況が、これで説明されるわけだ。グロー バル戦略とローカル戦略の重層化が重要になるわけだ。

このソニーとアップルのケースを報告したアメリカテンプル大学の 小田部氏が面白いことを言っていた。日本の産業の生産性はアメリ カに比べて低い。これは周知のとおりであるが、氏の指摘は日本の 製造メーカに限って言えば生産性は決して劣っていない。

しかし日本のサービス産業の生産性が悪すぎる。この製造産業とサ ービス産業を合計すると生産性が落ちてしまう。そして、日本のサ ービス産業の生産性が悪い根本的な理由こそが、過剰な“おもてな し”にあるとしている。

生産性がグローバル戦略であり、おもてなしがローカル戦略である とすると、それを対立構造にするのではなく、重層化することが求 められることになろう。ローカルを否定するのではなく、重層化す ることによって日本の生き残る道があるわけだ。

食品産業で考えると、グローバリゼーションとローカリゼーション の2分化に懐疑的なり始めた1990年代から、日本では例えば名古 屋飯と呼ばれるような、ご当地のソウルフードが芽を出し始めた。

そもそもソウルフードは昔からあったローカルの食文化である。し かしグローバリゼーション(和食)が市場を席巻して逆に、ソウル フードが市場で再認知され顕在化したのである。これこそが食品産 業の重層化である。和食とソウルフードを対立させても成長はな い。

最近名古屋飯が突然登場したのではない。グローバル化が進む中 で、マーケティング、コミュニケーションに軸足を置く食品産業に おいて、ローカル化が際立つ仕組みが理論的に説明できるわけだ。

グローバルとローカルの重層化が理解できないと、今の世の中の仕 組みが理解できないだけでなく、ビジネスにおいては大きな失敗を することになる。例えばネットとリアル店舗のオムニチャネルだ。 ネットは全国に一斉に商品・情報を配信する標準化だ。しかしリア ル店舗は顧客との関係を構築するローカル戦略が求められる。ネッ トとリアル店舗を二律背反で考えても成長はない。

グローバリゼーションの中で、まるで蚊やハエがわき起きるように ローカル化が姿を現したのではない。にもかかわらず反グローバ ル・ポピュリズムとしてその対立をあおることは何の解決にもなら ない。グローバル化が進めば進む程ローカル化が重要になる。それ を重層化する必要があるわけだ。

トランプをポピュリズムの象徴として論じることが多い。しかしト ランプはグローバリゼーションを破壊しようとしているのではな い。グローバルの都合の良い所と、ローカルの良い所の両どりを狙 っているのである。まったく虫のいい話ばかりであるが、しかし言 葉を変えるなら、ビジネスマンならではのグローバルとローカルを 重層化するビジネスモデルである。

今ヨーロッパで起きている反グローバルも対立ではなく、行き場を なくしたグローバル化が、社会の重層化の組みなおしを求める過程 と考えるべきだ。「ポピュリズムの台頭」という言葉を使って対立 をあおる限り解決は見いだせないと考える。

注:上記内容は2018年商業学会全国研究会での報告を参照にして いる。

以上

グローバリゼーションローカリゼーション重層化ポピュリズム