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グラン・パリ

〈2016年 6月 10日〉

イタリアサッカーのトップリーグであるセリエAの象徴的なチーム であるインテル、そしてミランが中国資本に売却されるというニュ ースが流れている。日本で言えば巨人、阪神が外資に売却されるよ うなものだ。このニュースを聞いて皆さんは何を連想するだろう か?

最近一部英字新聞ではイタリア経済の疲弊がかなり危険な水域にな っていることを報道している。イタリア国内の大手銀行の不良債権 がかなり膨らんでおり、イギリスのEU離脱などのショックが起きる と爆破しかねない状況のようだ。リーマンショック以降10年近く経 とうとして新たな局面を迎えている。ヨーロッパ経済の綱渡り状態 が続いているわけだ。主要な資産売却の意味がこれである。

前置きを終えて、日経アーキテクチュアが、隈研吾氏の手掛けるパ リの鉄道駅の設計を紹介している。それに関連してパリの都市戦略 であるグラン・パリが紹介されている。当ニュースレターでも、グ レーターロンドン、グレーターマンチェスター等海外都市のグレー ター戦略を頻繁に取り上げてきた。グラン・パリは遡ることかつて のサルコジ大統領の肝いりで日の目を見た2010年法制化された計 画である。

現在のパリ13区に周辺イールドフランスなどを加えたパリ大都市 圏の広域化構想である。そしてこのグラン・パリ戦略の骨格となっ ているのは交通インフラなどの整備である。例えばシャルルドゴー ル空港との交通アクセス、パリ中心部からのネットワークだけでな く周辺都市の産業拠点、生活拠点間の交通ネットワークの整備が中 心になっている。

隈氏が携わる駅の設計も、これらに関連する鉄道整備の拠点造りで ある。これだけを取って考えると、単に平面的、規模的な拡大では なく、重要な生産、交通、生活、経済・行政の拠点を効率よく繋げ て域内の生産性を上げることが目的であることが分かる。その為の 器が都市の拡大に過ぎない。名古屋の議論は逆である。まるで国盗 り物語のようだ。

この考え方でグレーター名古屋を勝手にイメージしてみると次のよ うになる。極となるのは名古屋駅、セントレアン、トヨタの生産拠 点(元町工場辺り)の3極、三角形エリアである。これに航空産業 の生産拠点となりつつある県営小牧空港を加えて4極四角とする考 えもできるが、地形的に小牧を加えるのなら岐阜各務原あたりに拠 点を拡大するべきだろうが、少々不明確になってしまう。

3極で考えると、名古屋駅、トヨタ、セントレア間の直接的な交通 アクセスを整備することにより、この三角形の平面的域内の生産性 を上げることを目指す構想である。この三角形に含まれる市町村は 豊田、安城、刈谷、大府、東海、日進、豊明、常滑、阿久比、東浦、 長久手、東郷で人口にして131万人である。名古屋が226万人であ る。結果として1.5倍にの規模になる。

グラン・パリを手本に取るならば、このクレーター戦略は規模の拡 大ではない。主要な経済、生活、行政拠点の効率的な交通アクセス を構築し域内の生産性を上げることが目的となる。生産性を上げた うえで新たな資本、資源配分の最適化を促すことが目的となる。

タイミングとして非常に面白い。これから始まる自動車の自動運転、 リニア、高速自動運転交通網等の交通革命が始まろうとしている。 これら新し技術革新によるインフラを整備し、それによる域内の生 産性の向上が可能となるのである。かといって名古屋市交通局が豊 田−セントレアン間の交通アクセスを整備することはできない。そ の為のグレーター戦略である。

もう一つ、グラン・パリのケースから学び取れることは、この都市 戦略の旗振り役が、サルコジ当時大統領であった。つまり大統領く らいの権限があって初めて都市の大再編が可能となるのである。今 この地域の都市戦略は名古屋市長と愛知県知事という首長レベルの 構想である。これでは未来永劫成就できないことは明らかだ。大阪 のグレーター化を橋下市長がやろうとして失敗したのも同じ理由で ある。首長レベルではどんなに能力ある人を持ってきても国盗り物 語になってしまうわけだ。

安倍首相がもし地方再生を国家戦略の主眼に置くのであれば、名古 屋、大阪、福岡といった中核地方都市の成長を成長戦略の一つとし て考える必要があることは言うまでもない。リスクマネジメントの 精通者なら理解できるはずだ。成長させることによってリスクを軽 減できるカテゴリーと、救済しても費用対効果から再生できないカ テゴリーとがある。

東京以外の地方の中核都市は成長によって衰退のリスクを避けられ るレベルであるが、それ以外の主な産業がない地方都市は後者のカ テゴリーである。山間部落、地方都市をの再生を目指す地方再生担 当大臣レベルではなく、首相自らが大阪、名古屋、福岡のグレータ ー戦略に着手する必要があるわけだ。

ブッルッキング研究所の都市圏の域内総生産額を引用すると東京が 1,520Billionドル、大阪、名古屋、福岡の三都市圏合計が1,206 Billionドルである。東京一極集中によりさらに東京の生産性を今 以上に1割上げる努力よりも、三都市圏のグレーター戦略による2 割3割生産性が上がることのほうが地方再生から言っても望ましい と考える。

例えば、東京−名古屋間のリニア完成を前提とした、太平洋沿岸メ ガロポリス経済圏内を自由に自動走行の物流経済域も構想できるは ずだ。羽田とセントレア間1時間以内でも結びその経済域内を様々 な自動走行化するわけだ。

グレーター戦略は構想から整備開始まで早くても5−10年は要する。 ポスト・オリンピックとしても喫緊に国家的に構想を作り上げる必 要がある。交通革命(自動運転)、インダストリー4.0(ビックデー タの解析結果をIOTに応用する人口頭脳システムによる産業革命)、 ポスト東京一極集中(地方再生)など様々な観点から見ても中核都 市の新成長戦略が必要な時期ではないだろうか?

以上

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