ニュースレター

主筆:川津昌作
名古屋の不動産何でも相談室がお送りする、不動産・ビジネスに関するニュースレター「名古屋ビジネス情報」へのご登録ありがとうございます。
不動産にとどまらず、名古屋のビジネス情報、街づくり話題、不動産経済、市場トレンドに関するニュース、物件情報など時代の変遷とともに広くお伝えしています。

特記事項 弊社ニュースレターは、弊社の関係者及びお得意様に限定して、不動産ビジネスを行う上で注目すべきテーマをタイムリーに取り上げ、問題点を共有する為の ワーキングペーパーであります。公的機関を含む他のセクターへの提言、請願、上奏、不特定多数への拡散を目的としたものではありません。転用を禁止します。 取り上げる内容については、成熟した定説を取り上げるのではなく、早熟なテーマを取り上げるため、後から検証すると拙速な結論になってしまっていることもあります。 そう言った事を十分にご理解したうえで、ご参考にしていただきますようお願い申し上げます。

地方銀行「担保の95%なお不動産」

〈2025年2月25日〉

今回の議論の要点
1. 不動産価値は、地下公示など公的価格による足かせがあり、本 来の市場性価値評価を担保できない為、現在、担保の事業価値を正しく評 価できていない。
2. 金利がある世界は、また地代がある世界でもある。

前置き 英エコノミスト誌で、アメリカの国防の象徴であるペンタゴンの改修を取 り上げている。ドローンと宇宙からの攻撃に全く対処できないペンタゴン の建築様式にかみついたのである。いよいよ戦争はドローンと宇宙からの 攻撃の時代に向かって軍需の考え方が変わってきた。以上前置き。

日経記事(2/21朝刊)「担保の95%なお不動産」をお借りして議論した い。表題の記事の帰結は「岐路の地銀」と言う表現が使われている。地銀 においては、現在も融資のほとんどが土地を担保にした融資が95%以上 あり、これが問題であると言う論題だ。

本来、融資とは当該の事業の収益性、将来性、成長性を目利きしてそれに 対して融資を行うべきはずであるが、いまだに土地を担保にして担保価値 の優劣によって融資が実行されている。その結果事業の収益性および成長 そのものがないがしろないなってしまっていることが問題視されている。

記事が引用している知見によると、一定の条件下で倒産する確率は不動産 担保融資の方が高く、又、1−2行と取引する企業より10行以上と取引 する企業の方が倒産する。等が紹介されている。

記事の結論としては、担保価値の成長に胡坐をかいた融資は、事業本来の 成長性を求めることができず、結果として不良債権になる可能性も高い。 本来の目利きの能力が欠如していることが、地銀の成長の障害となってい る。と言うところである。

いろんな角度からこの論法を議論してみたい。まず、特にアメリカなどの 銀行史を見ても明らかなように、そもそも銀行融資に負動産担保融資は厳 しく制限されており、不動産融資はその期間も金額も制限されていた。

土地担保が拡大したのは市場ニーズから起きたのである。例えば一行の融 資の上限がある中で、優先劣後の融資が登場し始めた。今では当たり前の 抵当権順位である。これらのビジネスモデルの開発を通じて1920年代の 都市化バブルを生み出した。融資の成長をどのように実行するかと言うニ ーズに対して開発されたビジネスモデルである。

日本では、高度経済成長・バブル経済を通じて土地の価値が急成長し、そ の担保価値で日本経済の成長を支えてきた。当時から事業の成長性を土地 担保力の成長性に見出して融資を拡大し、非常に大きな経済成長を実現し た。

市場価値、当時の資本市場の仕組みで評価すると、事業の拡大より、土地 の価値成長の方が先行していたと言っても過言ではない。もし事業の成長 性を担保にして融資が行われていたら、当時の成長は実現できていたか疑 問である。

融資の本来の対象は、事業の収益性事が本来の価値で、土地の成長はまが い品でしかないとでも言わんばかりの論法だ。最近のエコノミストは本来 の不動産経済の理解が無さすぎる。

まず私どもの不動産哲学を紹介しよう。

不動産とは「あらゆる商いが行われる市(いち)、この市が立つスペース である場があり、この市と場がコラボして初めて市場が成立する。場では あらゆる商いが行われ、様々な属性の利益が取引される。この多様な属性 の収益を普遍化したものが地代(レント)である。場で行われる地代経済 が不動産と言う概念である。」

不動産価値の目利きは、普遍化した市場の商いの目利きでもある。この考 えからすると。日経新聞の論者の論法は土地担保価値を基準にした融資 は、そこで行われる商いの収益性の目利きとは違うと言う論法になる。

もちろん、この記事のような論者が市場に居ること事体を否定するつもり はない。むしろ市場経済が、私どもの哲学のように市と場がコラボレート せず、市経済と場経済が乖離し始めているのかもしれない。

何度も言うが、不動産の成長性に価値を見出した経済であったからこそ、 高い経済成長を実現できたのである。どの時代、どの国、どんなイデオロ ギーであっても土地からの収益が高い国は豊かで栄える。土地からの収益 が低い国は栄えない。これは歴史的事実である。

飢饉、災害、戦争、経済的失政、内戦なんであっても土地の生産性が低い 国は栄えない。衰退する。日本の江戸幕藩政治から明治維新に移行する過 程で不動産を有効活用できなかった殿様貴族は、金融資産を度重なる金融 破綻で運用を失敗しすべからく没落した。

イギリスの貴族はその多くが地主であり土地を手放さなかった。今でも無 記名のトラストなどを通じてイギリスの多くの土地が貴族階級で所有され ている。これはこれでまた一つの経済力である。

土地の収益の目利きができない人が、事業の収益の目利きができるのか? そのまた逆もしかりである。もちろん、日本の不動産市場には、市場性の 効率性の問題があり、地価が公示価格などに規制され市場性が弱いところ に重大な問題がるのも事実である。

アメリカのように地価の市場価格に効率性があれば、事業の成長性以外に 別チャネルとして不動産の市場価格に連動する融資は、市場の様々なファ イナンスチャネルの多様化と言う意味で、大きく貢献する機能である。

もう一つ重要なことは、30年にわたる金利の無い時代は、また同時に地 代のない時代でもあった。いや違う地代はあったと言われる方々がいるこ と自体が異常だ。確かに地代はあった。しかし地代は全く値上がりするこ となく下がり続けた。

事業をするうえで地代の上昇、変動を考量する必要が全くない時代であっ たわけだ。しかしこの先、利子がある時代になる。それは地代が上昇する 市場が正常に機能する時代である。直近30年間しかビジネスを知らない 世代には、未経験の市場となる。

低金利、異次元の金融緩和、マイナス金利と続く失われた10年、20 年、30年の間、地代はなかなか上がらなかった。それは物価低迷にもリ ンクし、経済低成長そのものにもリンクしていた。日本は豊かでない衰退 した国になっていた。

この地代の有効な機能こそが、地代経済であり、限界効用理論などの経済 理論のベースにあったものだ。金利のある世界は又同時に地代経済の復活 でもある。それが結果的に経済成長の時代となる。

以上

名古屋ビジネス情報不動産街づくり地価都市経済投資利回り金融