ニュースレター

主筆:川津昌作
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2023-2024年末年始特別号

〈2023年12月25日〉

今年も1年、弊社ニュースレーターにいろんな情報をいただきあり がとうございました。一年の総括を行いたいと存じます。

何度も取り上げている話題ですが、我々がかつて東南アジアに出向 いたとき、強い円、高い可処分所得に物を言わせて、弱い現地通貨 の国でなんでも買えるような気がして、大変余裕のある大きな態度 が取れた。

それは逆に、彼らを発展途上国とみなし見下した現実であった。今 の円安がまさにその逆である。円安で日本にやってくる海外の人 は、円安、自国の高い可処分所得を背景になんでも買えるような余 裕がある。

それはまさに、日本を発展終焉国とみなし、マウンティングを取る ことを意味する。日本が貧しい弱い国と評価される号砲が鳴ったわ けだ。通貨の番人であるはずの日銀は機能していない。今何とかし ないと日本は本当にアルゼンチン化してしまう。なのに来年は政治 がどの沼化しそうである。

*直面するマンション大改修時代
さて、今年の不動産ビジネスで大きな動きがあったのが、マンショ ン大規模修繕および建て替えに関連する法整備の動きである。東京 の状況としては、築50年以上になる分譲マンションが急増する状 況で、効率の良いスムーズな建て替え、大規模修繕が喫緊の問題と なってきている。

現状すでに、市場的に価値があり、大きな問題がない案件は、現状 下の制度でも建て替え、大規模修繕が進んでいる。今後懸念される のは、建て替え・大規模修繕が効率よく民主的自治が機能しない、 市場原理で意思決定できない状況に陥ってしまっているマンション が急増することである。

分譲マンションの建て替えおよび、修繕に関する制度の原点は、住 民自治である。民主的な住民自治が有効に機能することが大前提で あった。50年前の日本の同質性の高い、成長に支えられた暗黙知 の高い民主主義が機能していた時代だ。

これが高齢化、格差社会、低成長、多様化と言った初期の建築時の 民主自治の想定を超えた諸事情により機能しなくなると、一気に都 市のスラム化が進む懸念があるわけだ。今はまだ東京の問題である が、10年後には大阪、名古屋で問題が顕在化することになる。

日本がいろんな面において、従来の単一民族主義的な村社会の民主 主義に対して、風通しの良い公開性のある、必要に応じて規制・制 約により自治に法律的な制限を加え、合意が停止することなく進化 が効率よく進むことを考えなくてならないだろう。

大阪万博が、建築コスト・人手不足の問題に直面している。この問 題もリアルな都市建設の効率性、生産性の無さが根本にある。都市 建設部門が、問題解決、根回し、調整、許認可など手間がかかりす ぎる。

人手不足に直面すると何十年も前から言われながら、全く効率の良 い社会運営に対する改善がなされなかった。問題を連呼するだけで 放置されてきたわけだ。

マンション問題は、建て替えなどの出口を要するときに民主的に解 決できないのであれば、事前に解体出口の方法を規定しておかなけ ればならない。あるいは既存のマンションに対しては、新たな規制 による公的な介入を要する。いずれも従来の民主主義に対する問題 提起である。

*新たに求められる国土のグランドデザイン
今、不動産経済の有識者の中で、コンパクトシティー政策への失望 と東京一極集中政策の再評価が起きている。以下の議論の結論を先 にあげるなら、サイズの問題ではなく高収益を生むかどうかが問わ れなくてはならないわけだ。

コンパクトシティー政策は、現在の少子高齢化・縮小経済に対応し 特に衰退の激しい地方都市の中心的政策となっている。ところがこ の政策に対する失望感が出ている。正確にはコンパクトシティー政 策で成功している事例がないわけだ。

コンパクトシティー政策とは、高度経済成長、バブル経済時代を通 じて拡大肥大した都市圏、つまり我々の不動産ビジネスの領域であ る都市計画区域を、少子高齢化・縮小経済に合った縮小しようとい う政策である。

高度経済成長時代に多くの人が都市に流入した。これに対して都市 計画区域を拡大し、新たな都市参入者に住宅などの開発利権を与え た。もしくは既存の都市人口に対し、建蔽率、容積率を緩和して都 市計画区域内での開発利権を拡大付与してきた。

この新たな利権を「付与」することが行政サービス、政治サービス の高評価につながった。1960年代全国に宅地造成を実施し、無地 の調整区域を新たに宅地化し、地域地権者に開発利権を付与し続け た。

新たな利権を付与する見返りに、政権政党の自民党の集票を実現し た。当時の宅地開発組合事務所にはたいてい自民党の候補者のポス ターが張られていた。自民党の集票モデル。60年モデルともいわ れた。

このように都市計画区域と言う行政政治利権領域を拡大し、市民に 利権を付与することによって政治的、行政的支持を獲得したわけ だ。そして今現在、この行政政治評価システムは変わっていない。

しかし縮小経済、社会のコンパクト化に対して、従来の利権の付与 をやめて、今まで付与してきた利権をはがし、奪い取らなくてはな らないわけだが、付与ではなくはく奪が政治的行政的高い評価につ ながる社会にまだなっていない。つまりコンパクト化は実効性がな いわけだ。

都市行政の現場では、既存のゾーニングの見なおし、縮小には一切 手を付けず、新たに住居誘導地域と言う規制区域を設定し、新たな 開発が生じた場合それを抑制し、都心に誘導する政策である。

新たな開発に対してのみ抑制をするという、極めて時間のかかる政 策である。この実効性が、今、日本社会が直面している経済の縮小 化のスピードについていけないのは明らかである。政策としての有 効性がないわけだ。

更に、コンパクト政策下で、行き場を失った人・物・金と言った社 会資本の受け皿として、都市中心部に補助金をつけて新たな箱モノ を作る政策が行われている。しかし現実に縮小が実行されないの に、先に箱ものができてしまうと、入居がなく、新たな不良債権と なってしまう。

このような、補助金をつけた従来の箱もの行政の失敗と同じ政策 が、コンパクトシティー政策の名の下で、地方都市で展開さている のである。これが、成功例がなかなか出てこない実態である。

しかしこのようにコンパクトシティー政策の行き詰まりを考える と、実は日本で唯一コンパクトシティー政策が成功している都市が ある。それが東京である。

東京は現在、日本全国に伸びきった地方都市の「縮小」政策、言葉 を変えるなら「衰退」政策下で、行き場を失った人、モノ、金と言 った社会資本を吸収し続けている。

今東京都心部では、再開発の名の下で大量の箱モノが整備されてい る。これらの箱モノは、コンパクトシティー政策下の不良債権と違 い、非常に高い収益性を実現している。

日本全国に間延びした都市を縮小させ、行き場を失った社会資本を 吸収して、なおかつ高い収益を実現しているわけだ。そしてこの成 功している東京のコンパクト政策こそが従来から言われている東京 一極集中政策である。

しかしこの東京一極集中政策は、東京一極集中問題とされ、批判さ れ続けてきた。この批判の内容を精査すると、その多くが内住する 住民の際限のない不満がそのまま社会問題視されてきた。

まず過密による窮屈さである。交通渋滞、朝夕の乗車率200%とも いわれる鉄道の乗車率である。この過密によるストレス社会が一極 集中による外部不経済と連呼されていた。

さらに社会格差問題である。選挙投票一票に対する地方との重さの 格差である。内在者の際限のない不満となっている。地方都市のせ いにされても致しがたい問題である。

更にマクロデータを使い、東京は日本一人口密度が高いところであ る。これだけ人を集めておきながら、日本一出生率が低いのが東京 である。この東京の出生率の低さが、日本の出生率の足を引っ張 り、低下させている張本人であるという理屈だ。

しかし最近、この東京一極集中政策の再評価が不動産経済の有識者 の中で登場してきている。日大の中川雅之教授は、東京都心は日本 全国で最もマッチング機会が多いところであるとしている。

マッチングは人と人の出会いである。人が出合いそこで何らかの化 学反応が起きれば、新たな付加価値が生まれる。つまり東京は、 今、日本で一番マッチング経済による新しい価値が生まれる可能性 が高いところとなっている。

そして新しく生まれた価値をシェアする都市経済が、周辺関東一円 に広がっている。つまりこの新しい行動経済学のマッチング経済、 シェア経済で考えると極めて成功して投資政策であるわけだ。

更にアメリカペンシルベニア在住の吉田二郎氏は、東京の住環境が NYC、ロンドンなどの高度の集積した都市の中でもっと良好な住環 境が維持されており、世界中で高い評価を受けているとしている。

住環境が優れているとは、具体的は住宅コストが低いことで説明さ れている。吉田氏の報告では1Rマンションの賃料がNYC、ロンド ンの1/2、1/3である。

話がそれるが、今欧米で商業不動産市場の金融危機が懸念されてい る。これはNYCでもそうだが、コロナ禍で在宅ワークに移行した が、アフターコロナになっても、在宅ワークから都心のオフィスに 人が戻らず、都心の商業不動産の入居率が下がり、商業不動産モー ゲージの破綻が急増しているものだ。

東京では、既にアフターコロナの回復が進み、テレワークはなくな り都心オフィスへの回帰がほぼ終わっている。これは日本が対コロ ナ政策に成功したような論評されているが、その原因は住宅環境に ある。

コロナ禍において、日本の矮小な住宅では、在宅ワークスの生産性 が非常に落ち込んでしまった。反対にアメリカでは住宅が大きく、 在宅ワークスの方が都心へ行くより生産性が格段に改善された。

東京では、住宅と職場の交通移動の生産性が高く、都心へ回帰した 方が生産性の改善がなされた。アメリカでは鉄道網が発達しておら ず、アフターコロナに関係なく在宅のワークスが定着してしまって いるわけだ。東京の交通システムの生産性の高さがテレワークを解 消したのである。

これほど、アメリカと東京の住環境が違うわけだ。このように東京 一極集中政策の再評価、東京の住環境の再評価が一部有識者の間で なされているわけだ。

しかしここで、このような今の東京都市の均衡状態が今後どう進化 するかと言う議論も必要になる。今、中国だけでなく、NYCはじめ アジアの諸都市ではマンションのタワーマンション化が進んでい る。

NYCでは、今100階建てのペンシル型タワーマンションが整備途中 も含めて10棟ほどある。有名なのがNYCパークアベニューマンシ ョンである。2017年竣工当時基準階で1700万ドルであった、現在 の円ドルで25億円である。最上階で200億円と言われている。

現在最も注目を集めているセントラルパークタワーの最上階が300 億ドルともいわれている。最近の大谷の生涯賃金が700億ドルと比 較すると、NYCのマンションが高いのか、大リーグの生涯給金が低 いのかどちらだろうか?

今年大阪のタワーマンションで、日本で最高価格である24億円が 報道された。価格だけを見れば、東京のマンション価格が、まだま だ伸びしろがあるわけだ。ただし、NYCの高額マンション購入者は ユニコーンの創業者、世界的トップクラスのスーパースター、アラ ブの王子様である。NYの住民ではない。

東京のマンションの価格が上がるためには、NYCやロンドンのよう にサウジの王様が都心を闊歩し、ロシアのオイルマフィアが闊歩す る都市でなくてはならない。東京都民だけの都市では、限界がある わけだ。

従来のマクロデータによる均衡経済では、東京一極集中政策は、外 部不経済を生む市場の失敗と言う事になる。しかし新しい行動経済 学の考えによれば再評価できる点が多いわけだ。

もちろん、行動経済学がすべてではなく、過密によるストレスは放 置できない問題である。しかしその収益が低い均衡状態に落ち込む のではなく、新しい収益を生む均衡を生み出さなくてはならない。 東京の成功例を拡大したグランドデザインが必要になるわけだ。

議論すべきは都市のサイズの大きい小さいではない。高収益を生め るか?低収益で消滅の過程を速めるかである。上記の東京一極集中 の再評価も、東京の都市サイズが成長している点が評価されている のではなく、高収益、新しい価値の創造に対する期待が再評価され ているわけだ。

コンパクトシティ政策がもし失敗であるとすれば、サイズのみをコ ントロールしようとしている点にある。都市サイズが大きければ 是、縮小は否、では社会の大きな循環自体を否定することになり、 そもそも持続可能性が全くない。

小さくても大きくてもサイズに関係なく、収益が低ければ持続性が なく消滅への加速でしかない。高収益が期待できる政策が求められ るはずだ。サイズだけのコントロールであるコンパクトシティ政策 も衰退を速める政策でしかない。

むしろコストをかけずに、無策で衰退を待った方がいいくらいだ。 日本全体で高い収益をあげられる地域を集中と選択で育てる。これ が縮小経済、少子高齢化社会のグランドデザインだろう。東京だけ でなく、大阪、名古屋、福岡と言う拠点の高収益都市政策が必要に なる。

デフレからの脱却もまさに高収益経済への移行が、その本質にある はずだ。東京を除く地方を見れば、デフレ脱却遅延要因は明確であ る。例えば賃貸マンションの賃料がなかなか上がらない。建築費の 高いマンションが高い賃料を設定しても、やがて低い賃料に収束し てしまう。

賃料が上がらない低いレベルで均衡してしまっている市場だ。この 構造的デフレを、構造改革ではなく、金利政策だけで対処すると、 更にワンルームなどの供給過剰を生み、構造的過剰感が増えるばか りだ。

デフレ脱却を金融政策だけで行うことに対する限界だ。労働市場に おける人手不足にもかかわらず、低い賃金が高くならない均衡にへ ばりついているのも、市場構造改革の明らかな遅れである。構造改 革は政治の仕事だ。

先の東京でのアセアン首脳会議でも、日本に対して、しっかりアジ アの経済成長についてきてくださいよと言うメッセージが出ていた ようだ。

一番残念なのは、次回の総選挙は、経済成長・構造改革が争点にな らず、政治資金だけが争点になりそうだ。その間にアジア周辺諸国 がどんどん高い経済成長を実現していく。政治が一番日本の足を引 っ張っている。全く残念な一年の締めくくりだ。

                         以上

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