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主筆:川津昌作
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祝日本不動産学会賞
「小売店と不動産業の境界領域に関する研究」池澤威郎著

〈2023年12月5日〉

先の日本不動産学会学術大会において本年度の学会賞が発表され た。私どもと古い付き合いがある研究者である池澤氏の著作が学会 賞を受賞した。

以前も紹介したことがあるが、氏は名古屋の出身で、JR東海高島 屋の開発立ち上げに参加し、社会人ながら名古屋の大学で学位を取 り、実務・学際の両領域で、名古屋の商業マーケティングに精通す る研究者である。

私も多くのことを彼から学び、彼が学会賞を取ったことは、全く僭 越ながら自分のごとくうれしい限りである。今回は彼の著作をもと に議論したい。

氏は、高島屋と言う流通ビジネスに携わりながら、研究の対象で主 に流通業で先行していた。流通関連の学会で多くの業績を残してい る。しかしその彼がどうしても不動産領域に踏み込まなければ流通 の様々な事象、理論が説明できないという壁にぶつかり、不動産領 域に踏み込み、多くの知見を探求したことが今回の業績成果となっ ている。

逆に我々不動産領域の出身の者からすれば、過去に、百貨店流通業 者の不動産領域での時に蛮行ともいえるビジネスモデルを、目の当 たりにしながら、ある意味流通業に知見を持たないゆえに、ブラッ クボックスとしてきた百貨店実務に対する興味が高くあった。

蛮行とは、バブル経済時期のそごう百貨店を率いた水島氏、或いは 西武百貨店グループの堤氏、ダイエーの中内氏、そして現代のJフ ロント、高島屋、伊勢丹・三越等が作り上げた、不動産ビジネス領 域で非常に高い収益を実現するビジネスモデルである。

蛮行とは、不動産ビジネスサイドから見た、ある意味やっかみかも しれない。

今回の著作では、上記のような、切った張ったの不動産投資戦略で はなく、まさに流通の現場の流通ビジネスと不動産ビジネスの有様 を理論的に解析されている。

百貨店は在庫を持たない。しかし商品が百貨店に陳列されている。 この陳列された商品を、百貨店のお客が手に取りお買いあげると同 時に、百貨店は仕入れ業者から商品の仕入れを立て、かつ売り上げ を計上する。これが百貨店特有のビジネスモデルである消化仕入れ である。

このような消化仕入れをはじめとする様々な独特の売り上げ計上の ビジネスモデルがある。すべての商品売り上げの利益を総計する方 法から、一定の売り上げを固定しておいて更にフレキシブルに売り 上げを計上する方法等々。

そしてこの一定の売り上げ計上が固定の賃料化し、その延長上に場 所貸し、テナントビジネスへと続く。このような様々な流通業特有 のビジネスモデルを理論的に体系化した研究がこの著作のベースと なっている。

しかしその過程で、百貨店の収益が個別商品の売買益から場所貸し テナント料への移行の結果実現した利益が、逆に不動産ビジネスに おける地代決定理論との整合性が問えるのかと言う疑問にぶつか る。

当時、氏が多くの不動産有識者に様々な知見を求めて、不動産ビジ ネスの研究に入り込んでいた時期である。もちろんの当時彼が籍を 置いていた高島屋は多くの不動産開発案件を実現ており、その知見 からも多く影響を受けている。

その結果、氏なりのある程度の流通業と不動産ビジネスの整合性を 見つけ、それに基づいて流通業、不動産ビジネスを理論的に検証し なおし、氏自身の既往の研究を再検討し体系化した文献である。

私自身も専門は不動産ファイナンスであるが、学位はマーケティン グである。この一見矛盾に見える研究は以下の私なりの不動産哲学 で説明できるが、やはりある意味氏と同じ帰結に到達する。

ここで私の不動産哲学を紹介しよう。 「不動産と言うのはスペースであり場(ば)である。この場の上で あらゆる商いが行われる。この商いの集合体が市(いち)である。 この場の上で行わり市と場が融合して初めて市場が成り立つ。市場 で行われる商いはそれぞれ様々な属性の収益を生む。この様々な属 性収益を普遍化したものが地代である。不動産経済はこの地代を対 象としている。」

不動産ビジネスに携わる方々は、ぜひこの著作を精読されることを お勧めする。最近の現実にコミットメントしているのかどうかわか らないモデル式を使った、実証不動産経済理論よりはるかに読みや すいはずだ。それはリアルなビジネスにコミットメントしているか らだ。

ちなみに氏は「場」のことを「床、ファシリティ」と説明してい る。

次に、あえて私どもからこの著作に対する疑問を議論したい。私ど もの中心的な哲学は、上述したように「市」と「場」の融合であ る。それに対して氏の著作では、流通業と不動産の境界領域を融合 のレベルまでは押し上げていない。

意地悪な表現で失礼ながら、ある意味流通業の研究を不動産ビジネ スの理論と整合することにより、流通業の研究をより高めるため に、研究の手法としてあえて線引き行っただけと言う批判も成り立 つはずだ。特に百貨店とショッピングモールビジネスの領域を線引 きするための手法である。

なぜこのような、意地悪な質問をするかと言うと。実はわたくし自 身、回遊性に関する研究で、リアルなスペースである場が、バーチ ャルなスペースであるネット領域に領域展開したときの一考で、安 易にリアルとバーチャルの間に線引きをしてしまったことが、結 果、稚拙な結論しか導けなかった失敗がある。

リアルな場とバーチャルな空間領域の融合に行きつくには、むしろ 線引きを外さなければならないというのが私の考えだ。勝手な議論 を吹っかけてしまったが、またいつかお酒を酌み交わしながら笑い 話をしたいと考えている。

最後に、またこれも僭越な主張ではあるが、日本不動産学会が先ん じてこの著作に学会賞を与えたことには、非常に戦略的なものを感 じる。学際領域を超えて流通領域をも不動産ビジネスがかかわって いることを高らかに宣言したことになる。

日本不動産学会学会賞おめでとうございます。これからも不動産ビ ジネス領域でご活躍されますことを祈念しております。

                         以上

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