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主筆:川津昌作
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世界一の都市形成に寄与(吉田二郎)

〈2023年10月15日〉

日経新聞経済教室(9月27-29日)に登場した、3人が展開した日 本の住宅市場問題について論評を行っている。今回は最後の吉田二 郎氏の論点に対する論評である。記事内容を引用しながら議論を進 める。

吉田氏は、弊社のニュースレターに登場する回数がおそらく最も多 い先生である。現在ペンシルベニア州立大学に席を置いているが、 本来日本のアカデミック・論壇でもっと中心的な役割を担ってほし い方だ。

私どもが、もし今後の日本の不動産経済研究の中心的役割を担う3 人を上げるとしたら、清水千弘(一橋)、中川雅之(日大)、吉田二 郎氏になるだろう。

今の日本の東京一極集中問題、住宅問題、都市政策などに対する議 論の多くが、私も含めて、内住する者として考えがちなある意味ス テレオタイプの不満をそのまま社会問題化してしまうところがあ る。

しかし吉田氏のように、アメリカ等国際比較から見ると、内なる不 満だけで問題化しているポイントが全く違った論点となって理解で きる。まさに目からうろこの感である。吉田氏は冒頭から、日本の 住宅環境がアメリカから羨望のまなざしで関心を持たれているとい った論調で始まる。

吉田氏の論点をまとめると、「都市は集積度をあげれば、経済の生 産性が上がるが、それは反対にその域内の交通・住宅の供給に制限 をもたらす。しかし日本は、優れた交通・住宅システムを作り上げ たことによって、世界一の規模を誇る都市圏(関東圏の4千万人都 市)を築き上げ維持している。これは世界に比類のない成大功であ る。としている。

つまり都市の集積度をあげれば、そこから住宅など非集積インフラ が排除されてしまう。これが世界の一般的であるが、日本は優れた 住宅、交通システムを持ち、優れた住環境を維持し、世界に比類な き大都市圏となっているという評価である。

日本の関東一円の大都市圏の意味を私なりに解説しておく。日本で は東京一極集中の批判が大きく、東京都市圏を世界のトップに君臨 してきた四千万人規模の大都市圏で表記することにすらためらいが あった。たいてい都道府県単位の東京都の1千万人規模の表記が使 われてきた。

国連で人口問題が論じられる様々な報告書をはじめ、世界のシンク タンクでは、実際東京圏(関東圏)は、1960年代から世界の断ト ツのトップに君臨する4千万人前後の規模で論じられる。

同様に太平洋沿岸メガロポリス(東京-大阪5千万人)の経済基軸 は、いま世界の最も熱いエリアである中国の深?エリアに並ぶ世界 を代表するメガロポリスとして高く期待されている。

しかもこの大規模都市圏は、共産国家、絶対王朝国家のように強制 移住によって作られたものではなく、市場原理もしくは市場性を促 す行政政策によって実現したのである。

と言う事は、そこに市場性を高めるメリットがデメリットより高い がゆえに実現できたはずである。このメリットこそが吉田氏が論じ る論点である優れた住宅システムと交通システムである。

吉田氏が最初に指摘する良好な住宅システムとは、アメリカと比較 して絶対的に少ないゾーニング規制の在り方にある。日本は全国一 律13余りのゾーニングであり、アメリカNYCだけで400にも上る と指摘しており、そこでは、開発の不確実性を解決する弁護士など を必要とし、経済コストが非常にかさむと指摘している。

確かに、日本では様々なゾーニング規制があるが、住宅そのものを 完全に排除するエリアは工業専門地区などごく一部に限られてお り、実際13の内多くのエリアで住宅開発が可能となっている。更 にその規制の多くが、住宅開発規制ではなくむしろ住宅を保護する 規制とも考えられる。

このような土地利用規制によって、都心でも上質な住環境が保たれ ている。それは結果的に住宅コストをアメリカなどと比較して低く している。と吉田氏は指摘している。

私どもはしばしば、日本のコンパクトシティ政策の失敗を取り上げ てきた。あえて言えば、日本のコンパクトシティの唯一成功例は東 京一極集中でしかない。しかもこれは都市政策、行政手続きによっ てなされたものではなく、市場原理によって実現したものである。

逆に言えば、日本のコンパクトシティ政策の失敗は、高度に分化し た集積を促し市場性の促進をするのではなく、間違った行政手続き によって行おうとした結果であるといえよう。

行政サービスが行き届かなくなるほど伸びきった都市計画エリア を、実効性ある縮小政策を機能させてないにも拘らず、先に集積施 設を中心に作ってしまう失敗である。中心に回帰する市場性を何も 生まずに、中心に集積の箱モノを作っても、何の役にも立たない。 むしろ未利用のビルが残るだけである。

東京の交通システムは確かに優れている。10分以上歩けば隣の更 にその隣の最寄り駅にアクセスできる。内住する人にとっては様々 な際限のない混雑、不便があるだろうが、アメリカなど他の国から 見れば比較優位な成功例であるわけだ。

以上の吉田氏の論点からもわかるように、従来東京一極集中問題 は、憲法の一票格差問題に象徴される地方との格差的社会問題、あ るいは空間デザインの過密問題などの外部不経済問題、一部の市場 性が阻害されている市場の失敗問題などからステレオタイプで批判 されてきた。

当ニュースレターでも今までは、東京一極集中問題を批判し続けて きたのも事実である。しかし、このような東京一極集中問題の批判 は時代にそぐわなくなっていると考える。

もちろんそれを理由に、通勤時の乗車率200%の鉄道で、妊婦、高 齢者など弱者が利用することがほとんど不可能なほどの過密問題を 容認することはできない。まだまだ改善の余地はある。

しかし、むしろ少子化・ダウンサイジング社会実現のために、東京 圏に集積して高度の収益性の高いコンパクトな社会を実現できてい る意味で、東京一極集中を評価しなおす時代になったのではないか と考える。

日本のグランドデザインも、日本各地に地方都市を散在させ拡大さ せるのではなく、日本全体の中でコンパクトな高度の集積性の高い 拠点を育てる政策になる必要がある。

具体的には、太平洋沿岸メガロポリス(東京-大阪経済基軸)への 都市部のコンパクトな集積である。コンパクト・高度集積の目的 は、高度な収益を生むことにある。高度な収益を生みための高度な 分化でもある。

少子化によって縮小することが悪いのではない。縮小自体が悪ので はなく、それによって低成長、低収益に陥ることが一番問題であ る。その意味でコンパクト化、高収益化、高度な分化が実現できて

いる東京がコンパクト政策の成功例となるわけだ。

日本大学の中川雅之氏が、以前、日経の優しい経済学で解説してお られた。東京都心は日本一マッチング機会の高いところであると。 そしてその成果をシェアするエリアが都心を取り囲むように一円に 広がっている。

マッチング機能と、シェア機能の高度な分化は、高い収益によって 実現されている。今後日本が縮小経済に入る中で、そのまま低成長 を受け入れるのではなく、むしろ高い収益を生む拠点づくりが必要 となる。

その答えが今の東京一極集中であるかもしれない。明確に言えるこ とは、有力な不動産経済学者の中に、従来のような東京一極集中 を、過密による外部不経済的な発想で問題視するのではなく、新し い考え方でコンパクト概念を考えている点だ。

最後に、今回の米山氏、斎藤氏、吉田氏の日本の住宅問題の中で、 米山氏の住宅の新陳代謝の在り方が空き家を生んでいるという論点 があった。これに対して日本は住宅の新陳代謝の速さこそが、東京 と言う大都市の生産性を高めている。というのが吉田氏の論点でも ある。

私どもがこれら論争で感じたことは、日本の住宅市場の新陳代謝は 日本固有のものがあり、そのメリットが東京の生産性を高め、一方 でそのデメリットが空き家を生んでいるとも解釈できると考える。

                         以上

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