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主筆:川津昌作
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空き家解消へ解体費用確保

〈2023年10月5日〉

日経(9月27,28,29日)の経済教室に日本の住宅現状、住宅問 題、住宅政策、都市問題について3人の論者が持論を展開してい る。非常にわかりやすく論じておりぜひ参考にしていただきたい。 今回は3人の論点の紹介と、私どもの考えを添えて議論したい。記 事内容を引用しながら議論を進める。

最初に登場したのが、大阪経済法科大学の米山秀隆氏である。論点 は大きく二つある。空き家の解消と解体費用の確保である。

まず空き家が発生する根本原因として、都市の新陳代謝が機能せ ず、かつ都市スペースを郊外に拡大する政策しか、してこなかった ことにより、既存の住宅が放置され、新しいスペースに新築される 住宅ばかりが増えた結果としている。

これに対してコンパクトシティ政策などを進めて、住宅を建てられ るエリアを狭めれば、新築が増えず、既築家の再生、立て直しが進 み空き家が生まれにくくなる。としている。しかし現実にはこの政 策通りになっていない事も論じている。

これには私どもも同じ意見である。コンパクトシティ政策は、現在 進行形の地方都市の中心的な都市政策である。しかしどこもうまく いっていないのが現実である。

コンパクトな都市づくりは、人口縮小時代に入って、かつて拡大し 続けた行政エリアを、従来通りの行政フルサービスでカバーするこ とができなくなった現実に対する政策である。

この政策の中心概念は、行政的なエリアの拡大を止めて、むしろ狭 めて、その代替として都市の中心に集積拠点を開発しコンパクト化 をする政策である。

しかし現実に行われているのは、まず中心に集積する箱を作るだけ で終わっている。肝心の周辺都市計画エリアの拡大阻止および収縮 が全く行われていない。地方行政の拡大こそが利権であった。従来 の行政システムが全く改善されていないからだ。

コンパクトシティの本質は地方の行政改革である。これがなされず まず中心の箱から作り始める。これは従来のていのいい箱もの行政 と全く変わりがない。これでは本来のコンパクトシティ政策は成り 立たない。

あえて言うならコンパクトシティ政策の唯一の成功例は、東京一極 集中である。日本と言う全国に都市を拡大成長させるのではなく、 コンパクトに東京に一極集中させた。結果的に高度な収益を生み大 成功である。

この東京コンパクト政策の成功の要因は、地方行政の力を削ぎ縮小 させ、東京にコンパクトに集めた、ある意味行政改革である。もち ろんそれは地方衰退と言う劇薬を伴っている。

さて米山氏のもう一つの論点が氏のメイン論点である。空き家にな ることを前提に、開発、建築に初めから空き家の解体費用を収めさ せる方法である。方法としては固定資産税などを利用して税負担と して収めさせる。あるいは分譲マンションのケースで、修繕積立と 同時に解体積み立てを行わせるというものだ。

これに対して私どもの意見としては、解体費用という出口コストを 概念化することは賛同する。しかしこれを固定資産税に合算するこ とは、住宅サイクルの仕組みを市場ではなく、行政にゆだねること になり、緊急性がない限り避けたい。

行政の非効率な仕組みにゆだねることは、上記のコンパクト政策同 様に失敗しかねない。本来であれば市場の仕組みにゆだねるべきで ある。

ただし、都心の高層分譲マンションのように、ライフサイクルが短 く、かつ老朽化したときの影響が大きいものは、強制的な解体費用 を都市計画税として割り当てることも一考と考える。

緊急性、必要性を鑑みて、政策を柔軟に対応させる必要があると考 える。以上、米山氏の論点は空き家を生まない政策と、生まれた時 に解体費用の捻出方法であった。

これについて私どもの考えを追記しておく。やはり住宅市場の市場 性を高め、市場原理で空き家がなくなる市場を整備すべきである。 それはまさにアメリカの住宅市場である。これは最後の論者である 吉田二郎氏の論点とその議論でも出てくる。

そもそもアメリカの住宅価格は、市場の様々なリスクファクターに よって乱高下する。代表がサブプライム住宅ローンバブル、その後 のリーマンショックも住宅価格の乱高下である。日本の土地バブル とは根本的に違う。

この乱高下と言う価格のダイナミズムを通じて、住宅の新陳代謝、 更には都市の新陳代謝が促進する。上記で論じられているような都 市の制度論、建築の民法、税制制度の議論ではない。

一般の方だけでなく、プロの方でもあまり見たことがないが、2012 以降国土交通省が出している住宅価格指数を見ていただきたい。日 本の住宅価格は全く変動していない。ただ上がりっぱなし。下がり っぱなしである。

日本の住宅市場が市場原理を取り戻すためには、借地借家権の民法 の大幅な改革、銀行の融資担保制度の改革、税制改革、地価公示な どの鑑定制度の改革等々日本の行政制度をすべてひっくり返さなく てはならない。

しかしこれを行うと、第二の日本経済の維新改革となるほどの経済 効果が期待できると考える。もちろんこれに真っ向から行うことは 混乱のデメリットも多いが、できるところから少しずつ日本の住宅 市場の市場を高める必要はあるはずだ。

でなければ、いつまでたっても同じ議論の堂々巡りである。住宅市 場を一元的に市場原理で解決することはできない。何故なら社会イ ンフラであり、社会的、環境的、衛生的、経済的影響力があるから である。

しかし空き家の放置問題は市場の中で起きている事であり、市場性 が高い東京、アメリカの大都市では、その多くが空き家問題化して いない。市場原理の正常な機能の中で修正することが本来と考え る。

今回の米山氏の論点はある意味日本の内在から見た問題点でもあ る。実は最後の論者である吉田二郎氏の論点と比較すると真逆の論 点である点が面白い。米山氏は日本の住宅の新陳代謝が起きないが ゆえに空き家が生じるとしている。

しかし吉田氏の議論では、アメリカに比べて日本の住宅市場は新陳 代謝がはやい。その結果東京と言う大都市の生産性がアメリカに比 較して高いとしている。この両者の論点の違いはもちろん前提条件 の違いでもあるが、日本の住宅市場を論じるうえで斬新な知見をも たらしている。

もう一つ現在のマンション管理の非常に大きな問題は、現代社会の 民主的自治の崩壊である。管理の基本概念は、従来から今に至に、 住民自治が大原則である。

しかし住民の多様性、経済格差、社会格差により自治が機能しなく なり、修繕、建て替えなどの意思決定が合理的になされなくなりだ した。であるならば自治に替わる方法を考えなくてならない。これ が次の斎藤氏の論題でもある。

次回は斎藤広子氏のマンション管理の「見えるか」を紹介しい議論 したい。

                         以上

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