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主筆:川津昌作
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マンション相続税評価の変更

〈2023年8月1日〉

マンションの老朽化が急速に進んでいる。急速にとは、主に東京都 心部で、老朽化したマンションが大量に発生することを意味する。 これら老朽化したマンションをスピーディーに建て替え、なくては ならないことが、制度上想定されておらず、その多くがなんとか局 所修繕で対処している状況だ。

これに対し、産官学で分譲マンションの大規模修繕および建て替え 要件の緩和が検討されている。現状所有者の5分4以上の賛同がな ければ前に進めない。これを4分の3に引き下げるとか、更に所有 者ではなく、総会出席者を母数とするなどの改革案がさくそうして いる。

極端な言い方をすれば、憲法改正に必要な国会議員の賛同が3分の 2であるのを、なかなか決められないから2分の1に要件基準を引 き下げようかと言うものだ。もちろん憲法とマンション建て替えを 比較しては怒られるが。

民主主義は多数決で意思決定を行う。しかしそこには様々な機銃の レベルが設定されてきた。賛同要件の基準を下げると言う事はどう いうことか?いい意味で言えば、民意が多様化していることにな る。

しかしこのケースは、マンション住民の経済基盤の弱体化から、民 意の様々な選択肢を行使できないのが現状だ。一部の経済基盤の維 持できている者たちだけの賛同で建て替えが可能となるように基準 を下げざるを得ないわけだ。

「民主主義は中間所得層に都合のいいイデオロギーであるが、中間 層が崩れた時に成り立たなくなり、ポピュリズムにとってかわられ る。」このアンチテーゼに打ち勝てるのだろうか?

前置きが長くなってしまった。表題のテーマを議論しよう。現在、 とくに東京都心部で、高層階のタワーマンションの相続評価と実勢 価格とのギャップを利用して相続対策が盛んにおこなわれている。

しかし行き過ぎた、相続対策が租税の公平性を阻害するとして、新 たな改正が行われようとしている。これがマンション評価の新ルー ルである。問題は、現状タワーマンションの高層階部分の相続評価 額が、実勢価格より低いため、高いタワーマンションを買うなどし て相続課税逃れができたところにある。

改正点は、高層マンションの相続評価を引き上げる新たな手法の導 入である。この評価の仕組みが非常にユニークであるため今回はこ れを議論したい。

新しい仕組みは、従来の相続税評価の仕組みを変えるのではなく、 既存の評価手法で割り出した低い評価に「乖離率」をかけて、実勢 価格に合うように高額に修正するものだ。そしてこの乖離率の算出 計算式(案)が以下のとおりである。

乖離率=築年数×(-0.033)+総階数指数×0.239+所在階×0.018+ 敷地持ち分狭小度×(-1.195)+3.220

昨今データサイエンスがトレンドなる昨今、研究者でなくとも大学 の教養課程の統計を習った者、あるいは単にExcelの使い慣れたも のでも理解できる式だ。多変量解析のモデル式である。不動産では ヘドニック法と呼ばれる回帰モデルだ。

被説明変数Y=説明変数X1×a+説明変数X2×b+X3×c+・・・・ +Xn×z + 定数項

解りやすいモデルを紹介しよう。東京都心で募集されている賃貸マ ンションの家賃を被説明変数Yとして、この家賃を物件の属性であ る占有平米数X1、築年数X2、主要駅徒歩分数X3・・・などの属性 を説明変数として回帰分析する。説明変数(X1・・・Xn)はい くつあってもいい。

東京都心にある大量の賃貸マンション物件のデータを上記式で回帰 分析をすると、各説明変数の係数a,b,cが割り出される。この係 数が割り出された式に、欲しい物件の想定平米数、築年数、徒歩分 数を入れてやると、その欲しい物件の市場の理論的賃貸価格が割り 出せる。

難しいことを言っているようであるが、パソコンのワンクリックで 答えを出せる。きわめて初歩的なモデル式だ。

今回の乖離率を求める式も、乖離率が被説明変数となり、築年数、 総階数指数、所在階、敷地持ち分狭小度が説明変数となる式だ。市 場にあるデータである被説明変数Yではなく、逆に係数をはじめか ら与えることによってこのYを求める式となっている。

回帰分析では説明変数Xにかけられる“係数”を求めるのが分析と なる。今回の式はこの係数を求めるのではなく、初めから係数を与 えることによって、逆に被説明変数であるはずのY、つまり乖離率 を逆算する手法だ。

これらの係数は、事前にどのくらいの係数であれば、どのくらいの 乖離率になり、実際に相続評価がどのくらい是正されるか?がシミ ュレーションされていることになる。つまり目標の相続税額をとる ための式だ。

問題は、この「とる」ための式ではない。そもそも課税は国会で審 議された、これだけ必要とされた税収の徴収である。その課税の仕 方は課税当局にある程度裁量権が持たされている。もちろん裁量に は説明責任が必要であるが。

課税ベースが必ず時価でなくてならないという縛りが問題を大きく している。この評価額があたかも実勢価格であるかのような説明が なされることによって、時価が前提の市場のメカニズムにバイアス が生じることだ。

景気が悪くなると、当然不動産の実勢価格も下がる。しかしここで 実勢価格イコール課税ベースとなると、当然固定資産税税収も下が る。税収を増やしたいと考えると公示価格を操作する必要がある。 何故なら税収入は国会で審議されたもので実行されなくてはならな いからだ。

課税ベースが実勢価格であるという縛りをすればするほど、実勢価 格がゆがめられ、市場メカニズムが機能しなくなる。景気が悪くて も不動産資産の価格が下がらなくなる。

市場のメカニズムが正常に機能していれば、本来の都心部のマンシ ョンの老朽化がもっと早く市場で顕在化し、市場或いは社会に適合 しない物件があぶりだされていたはずだ。このメカニズムが機能せ ず、放置されてきたがために、一度に大量に老朽化となり大きな外 部不経済となってしまった。

課税に必要な課税評価額に、実勢価格が引っ張られることによっ て、市場の価格メカニズムが機能しなくなってしまう。「課税評 価」と「市場メカニズム」の弊害リンクと言う問題の解決が求めら れるわけだ。

                         以上

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