ニュースレター

主筆:川津昌作
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均衡からの脱却

〈2023年7月15日〉

水害に罹災されておられる方々にお見舞い申しあげます。点と点が つながれば線になる。線と線がつながれば面になる。難しい話では ない。ほんの2−3年前までは「局地的」なゲリラ豪雨と言う言葉 が水害のキーワードであった。今は「線状降水帯」がキーワードで ある。極地と極地がつながり線状になったわけだ。

次に進めば、線状降水帯が輻輳して生じ、地域的規模で水害に見舞 われるだろうと言う事が想像できる。科学的推定をしなくても一般 人が誰しも想像できることだ。しかし今の災害防災は起きた過去の 災害を元にしか考えられていない。

既に、NYもヨーロッパの巨大都市も水害に瀕し水浸しである。地 球温暖化の急停止ができない以上、都市災害の想定を見直すことが 喫緊の課題だろう。名古屋市も今急ピッチで名古屋駅前に雨水排水 ポンプの設置工事を行っている。場所柄難工事でありまだ数年かか る。間に合うか?

さて当ニュースレターでは、従来の古典経済学、新古典経済学、マ ネタリズムに特徴づけられる経済の均衡理論の大きなトレンドを何 度か取り上げてきた。

従来の、財物・労働力・資金の需要と供給の均衡理論では、市場で これらの経済財物の需給関係が健全に均衡さえすれば、後は市場の 自動調節機能で経済が健全に機能するという考えである。

このような均衡概念下では、均衡を妨げる要因となる労働力不足、 需要不足、資金不足を最適にすることが経済政策であった。これが 従来の均衡論である。

しかしここ10年来均衡概念が大きく変わってきた。マクロ経済の 財物・人・マネーの需給の均衡ではなく、互恵的利益・排他的利益 に基づく均衡論である。互恵的利益・排他的利益の均衡をマッチン グ理論、シェア理論などを使い解明するいわゆるゲームの理論によ る均衡概念に変わってきた。

この概念の違いを議論したのが、前回のニュースレターの少子化問 題の低出生率問題である。出生率が東京都心で非常に低下してい る。少子化の進化が生産年齢労働力不足問題を引き起こし、健全の 均衡状態にならない。これが東京一極集中の弊害であるとされてい る。

この考えでいくと、東京都心で出生率をどうやって上げるかが?経 済政策となってしまう。東京都心でも出生率が高い。確かにそれは それで誇れることかもしれない。しかしそれが本当の解決だろう か。

出生率の高い低いも議論とは別に、東京都心は、様々な出会い、化 学変化、サプライズ等マッチング機会の最も可能性の高いエリアで ある。

そして東京都心周辺は、このマッチング機会によって生まれようと する互恵的・排他的利益をシェアするのに最も適したエリアであ る。このようにマッチング機会と互恵的・排他的利益の均衡で考え ると、東京一極集中問題はまた別の見方ができてくる。

今盛んに言われている、地方の都市政策の例えばコンパクトシティ 政策などは、中心市街地に距離を縮めてもすげて包含してしまう考 えだ。マッチングと排他的・互恵的利益のシェアを分化してその均 衡を考える方法とは明らかに違う。

以上のように、当ニュースレターでは新しい均衡理論の変化を議論 してきたが、その中でいろんな質問を受ける。

今回は、「悪い均衡から抜け出すためにはどうしたらいいか?」と 言う質問を議論したい。これも何度も取り上げているテーマである が、質問がある限り何度でも議論してみたい。

そもそも均衡には、良い均衡と悪い均衡とがある。例えば低成長し か実現できないデフレ経済の均衡状態もその一つである。少子化状 態の社会も一般的には望まない均衡状態である。お互い悪口を言い 合って戦争状態に陥ってしまうのも望まない均衡状態だ。ゲームの 理論でいえば囚人のジレンマと呼ばれるナッシュ均衡である。

今の社会、持ち得る様々な可能な選択肢で考え得る最適な互恵利益 は、子供を産まず自分に投資することであり、移民を受けず、純粋 民族主義を貫くことであり、ネット上の些細な問題を匿名で相手を 非難し続けること。物を買わずお金を貯金すること。・・・。

このような選択肢が短期的な最適解であるとして行使すると、最終 的に少子化社会になってしまい、生産労働力が不足して経済が成り 立たなくなる。又戦争状態になってしまうかもしれない。デフレ経 済からいつまでたっても脱却できないことになる。

このような望まない均衡状態にから抜け出すためにはどうしたらい いか?

結論は、目先の利益を実現する選択肢ではなく、もっと大きな利益 を生み出す選択肢が求められることだ。しかしそれがないため、目 先の適当な利益を選択してしまい、望まない均衡状態に陥ってしま うわけだ。

結論から言えば、市場に新たな非常に大きなエネルギーとなる選択 肢があれば、従来の均衡を打ち破れれるわけだ。過去の事例でいけ ば、ソニーがウォークマンを市場に出したとき、他のメーカーが一 斉に新しいソニーも技術モデルを模倣し、停滞した市場均衡を打ち った。

アップルがアイフォーンを出したことにより、その新たな利益の可 能性に向かって一斉に市場が動き出した。新たな市場ダイナミズム が生まれたわけだ。

ナッシュ均衡に落ちっていると言われる日本の住宅市場。アメリカ では家をリフォームし続け、常に価値を高めることによって住宅市 場が非常にアクティブになり、一大投資市場を形成し、世界中のマ ネーを集めている。時には過熱し住宅バブルを頻繁に起こしてい る。

日本は真逆である。日本は土地バブルは起きるが住宅バブルは起き ない。それどころか空き家率13.5%ともいわれ、市場の体をなし ていない。それは一度購入した住宅には、一切再投資をせず、住宅 価値を高める行為をしないからだ。

日本の多くの住宅が、手入れなされず、最低限の水漏れ、塗装修繕 のみで新たな価値は付加されない。勝手に改修したら管理組合から 訴えられたりする。戸建てでも建築基準法違反になり不適合建築の レッテルが張られるだけだ。

50年も前に立った集合住宅が、ネット環境すら改善できない、電 気自動車の急速充電すら設置できない状態で、当たり前のごとく放 置されている。持ち家者の最適な利益は、何もしないことで実現す る。結果、新たな価値を生まない中古住宅を買いたがる人は少な く、新築ばかりにニーズが偏る。これが日本の住宅市場の特徴であ る。

この背景には、住宅をリフォームしても、市場がその価値を評価し てくれない。高機能になっても大して税制上メリット、住宅ローン メリットがない。であるならば誰も再投資しなくなってしまう。こ れが望まない日本の中古住宅市場の均衡である。

この均衡から抜け出すためには、中古住宅に投資をして価値を高め ることが最適な選択肢になるような、ビジネスモデルが市場に必要 となる。アメリカで言えばサブプライムローン、ホームエクイティ ローンなどがそのビジネスモデルとなる。

これらのビジネスモデルは、日本ではリテラシーがなく、残念では あるがリーマンショックなどを引き起こしたポイズンビジネスと言 うレッテルが貼られている。リーマンショックは証券市場の破綻で あって、住宅市場が巻き込まれたというのが私どもの考え方であ る。

望まない均衡を破り抜け出すためには、大きなエネルギーを生む革 新的な商品、ビジネスモデルの開発が必要となる。具体的なそのよ うな革新が生まれる規制緩和、革新を育てる市場デザインが必要に なる。つまりこれが経済政策である。

従来のマクロ的均衡政策論では、住宅ローン金利の政策的運用など しかなく手詰まりとなるわけだ。そもそも東京都心の一部以外では 中古住宅市場は成立していないと言わざるを得ない。

現状の市場では、築50年経過しようとしている集合住宅を投資的 付加価値の創造ではなく、大規模修繕すらままならない。市場でこ れらを玉にしたビジネスモデルも登場しない。規制で自由度をなく した市場の成れの果てだ。スラム街になるのを座して待つだけとな る。

                         以上

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