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主筆:川津昌作
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マッチング・シェアが大きく変える東京一極集中問題

〈2023年6月5日〉

子供の出生率が大きな社会問題となっている。特に東京などの都心 部で出生率が低下している。この問題が東京一極集中によって外部 不経済を増加するという議論の中核的要素ともなっている。

しかし、マッチング、シェアと言う新しい概念で考えるとまた違っ た景色が見えてくる。東京都心は日本で最も新しいマッチング機 会が多いエリアである。そして新しいマッチングにより生まれた 様々な互恵的、利他的な価値をシェアするのにもっと適したエリア が東京都心周辺の関東一円エリアとなる。

マッチングとシェアの概念で、新しい都市構造像を見ることができ る。日本大学の中川雅之教授などが最近新聞紙上で論議している考 えだ。

例えば、男女の関係で考えると、男女の新しいカップルがマッチン グする実効性ある機会が多いのが東京都心である。そこで生まれた 互恵的、利他的な価値である「家庭」「幸せ」「子供」を共有し、育 むいわゆるシェアするのが都心周辺の関東一円である。

このように東京都心・関東一円をセットにした東京メガロポリスっ という概念は、他の都心エリアである大阪、名古屋、福岡より、よ り社会の様々な活動の実効性、競争優位ある大都市圏となる。

つまり出生率の低下と言う考え方では見えてこない、新しい都市概 念、都市マネイジメントが見えてくるわけだ。

出生率と言うマクロデータを使い、出生率が安定的に適切な数字で 均衡する都市を目指す。これが従来の考え方で、いうなれば新古典 派経済学の均衡理論に等しい。適切な均衡が生まれるように障害を 取り除くのが都市政策であり、均衡が生まれればあとは自由放任に 任すという考えである。

古典派、新古典派あるいはケインジアンにしても、完全均衡すれば あとは市場が調整機能を持ち任せられる。自由放任主義だ。だから 均衡するように様々な政策を行う。しかし現代の考え方は均衡して も均衡自体が良いとは限らない。

合理性が正しい均衡を生むとは限らない。合理性以外に利他的、互 恵的な利益追求行動があり、そういった新しい行動経済の均衡がゲ ームの理論で決定される。

近年のノーベル経済学賞の関心も、古典経済、新古典経済、ケイン ジアン、マネタリズムの均衡経済から、利他的価値、互恵的価値に 基づく行動経済学、これらの行動経済学の均衡理論であるゲーム理 論に軸足を変えてきた。

従来の経済理論の均衡モデルでは、東京一極集中は、その成長性よ り、出生率低下などの外部不経済を生み、日本経済全体の足を引っ 張る「後退」均衡となる。従来の成長概念を妨げる都市が東京とな る。

アダム・スミスは高収益が生まれる経済は、高度に分化するとして いる。つまり東京ではより高い付加価値を求めて、高度にマッチン グ機能とシェア機能が分化してきているのである。そして東京メガ ロポリスと言いう新しい都市概念で、その優位性を問うている。

従来の日本の都市、街では、人の出会いなどのマッチング機能と、 そのマッチングにより生まれる成果・価値をシェアする機能が、同 じエリアで機能していた。それが従来の日本の豊かな街であり、都 市であった。それが変わったのである。

この東京メガロポリスが、これからの新しい都市経済の考えである とすると、都市のマネイジメントも大きく変わってくる。衣食住の 距離を単純に縮めるだけのコンパクトシティー政策も時代遅れとな る。

1.マッチングとシェアの機能分化が起きる高い収益が前提と なる。逆に言えば縮小社会問題にあがなうためには、高い収益を追 求する高度な機能分化必要となる。

2.これがもっと重要なポイントでもあるが、大都市都心部だ けでなく他の機能分化する都市との関係性、つまり広域メガロポリ スで都市を考える必要がある。

3.都心ではマッチング機能を高める政策が求められる。

4.その周辺でシェア、インキュベーターの役割機能が求めら れる。

まず都心部の政策としては、マッチング機会を増やし、マッチング ニーズに応える必要がある。都心部にマッチングを意識した高度な 集積エリアを再構築する必要がある。

具体的に、マッチング機能が高い回遊性のある集積商業地、職場だ けでなく、従来都心部から隔離されてきた大学、都市型アリーナ、 多目的ユーティリティスペース、スタートアップのためのオープン ソースを可能とさせるパブリックスペースなどが求められる。

目的が限定される、あるいはシェア機能をエンハンスする役所など の公共施設、病院などは、むしろ都心ではなく、シェアエリアで必 要となる。

この考えで、都心部の名古屋、その周辺愛知県、岐阜県、三重県、 静岡県、の東海メガロポリスで考えるとどうなるか?

まず名古屋市行政と愛知県行政の政治的な分断は全く逆行してい る。大都心部でマッチング機能を高め、その成果を周辺エリアでシ ェアする関係性が無くてはならない。

更に、周辺都市が自前でマッチングとシェア機能を持ち、大都市部 から独立して成長をしたいという従来の考え方は、これからの新し い縮小社会問題に直面し、ある程度の規模による高い収益性が確保 できず、全く時代遅れの考え方となる。

高度に機能分化し、マッチング・シェア機能を高めるためには、規 模の経済メリットで分化する必要がある。それを東京メガロポリス が示しているのである。

日本の社会の最も重要な社会的資本は「自治」である。各個のアイ デンティティーを形成するシステムが地方自治であった。しかし縮 小社会にあって独立した自治が機能しなくなってきている。

マンションの集合住宅の大規模修繕、建て替え問題がまさにその問 題に直面している。中小規模の都市の多くの首長が考える政策が、 縮小に対して、自前でマッチングとシェアの距離をコンパクトにし て、自治の喪失を防ごうとする政策だ。自治の喪失は都市の崩壊に なるからだ。

しかしそれは収益の低下となり、縮小社会の抜本的な対策ではな く、一つの崩壊過程でしかないかもしれない。縮小社会に直面し て、そのなかで高い収益を実現するには、東京のような高度に機能 分化したメガロポリス概念が必要なのかもしれない。

学際領域では、経済理論は新古典派経済による均衡理論から、新し い行動経済学・ゲーム理論による均衡理論に移行しようとしてい る。アカデミックの目的は、将来のフォワード・ルックである。

弊社のこれまでのニュースレターの論法も、古い均衡論に基づき、 低い出生率の均衡状態を問題にする論法が多かった。ただし、この 考えの変化で、東京一極集中が問題の全てが容認されるわけではな い。まだまだ多くの問題を含んでいる。しかし考え方を変えなくて はならないのも事実だろう。従来の均衡自由放任理論では解決でき ないのだから。

                            以上

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