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主筆:川津昌作
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名鉄、ザイマックスと資本提携

〈2023年5月30日〉

「小売業と不動産業界の境界領域に関する研究」(2023池澤威郎) これは不動産ビジネスと百貨店ビジネスの化学反応に関する学術書 である。名古屋出身の池澤氏の永年の研究成果でもある。

彼は流通業である百貨店業界出身である。しかし百貨店ビジネスを 極めるにつれて不動産業界の造詣を高めていった。様々な流通、マ ーケティングだけでなく不動産学会で研究研鑽をしている学者だ。

この著作を紹介するまでもなく、百貨店業界と不動産業界は非常に 強いリンクをもち、時には高い利益を生み出し、時には百貨店業界 の存亡ともなるような高いリスクを生み出してきた。

1990年代のバブル時期には、水島氏率いるそごう百貨店が地価の 上昇による含み益で百貨店店舗を全国展開し、高い業績を上げた。 流通業界の風雲児と呼ばれた。しかしバブル崩壊とともにそごう百 貨店が破綻の危機に追いやられてしまった。 大丸松坂屋グループのJフロントは、旧松坂屋銀座店を百貨店ビジ ネスではなく不動産ビジネスで、GIZASIXとしてよみがえら せ、グループの旗艦ビジネスとした。高島屋は、不動産ビジネスと してグループの東神開発により二子玉川をはじめ、様々な都市開発 を行ってきた。

同様に鉄道ビジネスも不動産開発、不動産運用ビジネスとのかかわ りは、百貨店以上に深いつながりがある。鉄道の沿線不動産開発は 鉄道ビジネスの核心的収益だ。歴史的にも鉄道王と呼ばれた偉人は また不動産王でもあった。

国鉄から民営化された民間鉄道会社であるJR東海が、名古屋駅前 の再開発で百貨店ビジネスに手を付けたJR東海高島屋は、日本の 百貨店ビジネス史に残る大成功の事例だ。

改めて言うまでもなく、鉄道、百貨店、不動産ビジネスはその境界 を侵すべくしておかし、様々なマッチングを行い、時にとんでもな い化学変化を起こし、その成果を互いにシェアしてきた。そして市 場に新しい均衡をもたらした。

その中で、近年元気がなかったのが名鉄である。東京では私鉄各社 が都市の再開発の担い手として名を上げ、同じエリアの鉄道ビジネ スであるJR東海が手掛ける百貨店ビジネスが大成功するのをしり 目に、隣接する名鉄百貨店が思うように業績を伸ばせず、百貨店、 不動産、鉄道のビジネスの境界を、何の戦略もなく、侵すことな く、低迷していた。

名鉄の名誉のために、この企業はかつて、メルサを東京銀座にまで 展開した流通業界の風雲児でもあった。名古屋でも早くからグルー プの名鉄協商が不動産の遊休地の駐車場ビジネスを展開し、成功を 収めてきた企業である。

当時の鉄道、流通業、不動産ビジネスの相乗効果は名古屋を代表す る財界企業として君臨するにふさわしい社会資本の蓄積および業績 を上げていた。流通、不動産ビジネスに決して奥手ではなかった。

しかし、いやなことを言うようであるが、近年の名鉄百貨店と言う 流通ビジネスの低迷は、関連する不動産ビジネスの低迷となり、鉄 道収益のお荷物ともなり、それは百貨店、不動産ビジネスの自信喪 失ともなり、かつての自信に満ちた面影がなくなってしまった。

さてそんな名鉄が、ザイマックスと資本提携を行い、不動産管理ビ ジネスのテコ入れを図ろうとしている。本来なら、上記Jフロン ト、東神開発、自身のメルサのように企業内プロパービジネスとし てそのノウハウを育てるべきであったが、時間をかけられず一気に 挽回を図ろうと言う事であろう。

ザイマックスは、日本で不動産の証券化が始まった当時から、革新 的な不動産ビジネスを展開してきた企業である。現在はリートの運 営も行っておりそのノウハウには、東京の競争に勝ち抜いてきた実 績があり定評がある。

鉄道ビジネスとして老舗の名鉄と革新的なザイマックスビジネスが マッチングすると、どのような化学反応を起こすか、非常に期待で きる話題だ。

新聞報道によると、不動産投資ファンドの組成を目指すとある。本 来、名古屋くらいの規模の都市であれば、もっと多くの不動産私募 ファンドが組成され、リートが上場され、質の高い運用スキルで、 高い収益を上げていてもおかしくないはずである。

名古屋市場はすべからく中途半端に不動産収益が悪くない。その分 新しいビジネスイノベーションが生まれにくい保守的なところであ る。私どもは以前から不動産の名古屋ファンドが一つでもあれば、 それがベンチマークとなり、一気に名古屋の不動産投資市場の改革 が起きると言ってきた。

名古屋の不動産投資は、名古屋在の老舗企業が、古い考えで低利用 のまま保有している物件が非常に多い。東京程地価が高くなく放置 していてもそれほど気にならず、歴史がある故逆にその資産の運用 を他人にゆだねることができないわけだ。

投資市場が整備されれば、これらの企業がオリジネーター、スポン サーになりファンドを組成し、時にはそれらをアップリートさせる などして革新的な運用が期待できる。企業はリスクのある保有運用 収益ではなく、財務リスクの少ないマネイジメントフィー収益、カ ウンターパーティ収益を得るわけだ。

名古屋在の老舗企業は、コアの事業に対して不動産ビジネスは邪道 と下に見る経営者が多い。明らかにリテラシーの無い時代遅れだ。 企業に不動産は欠かせられない。そういった企業は往々にして不動 産管理は保守的な総務に任せっきりで、企業の低収益性の一因とも なっている。

しかし保有不動産がいつもタイミングよくコアビジネスに貢献する かと言えばそうではない。財務の非常に大きな部分を占める資産に 対するアセット戦略なくして企業戦略は成り立たない。財戦略のエ グゼクティブチーフはアセットマネージャーである。アメリカの著 名なMBAでは必ず不動産投資コースがある。

同時に、これらの企業の低利用不動産が、私募ファンドなどを通じ て名古屋の不動産投資市場に出てくることは、また市場としても活 性化され、より高い投資スキル、投資ビジネス、投資マネーを呼び 込み、その相乗効果は非常に大きい。

東京標準の不動産投資マネイジメントスキルのザイマックスが、名 古屋資産を運用したときの運用利回りが、これから名古屋に投資を しようとする東京資本・外資などのベンチマークとなる。これによ り、より多くの東京資本、外資の投資を誘発できれば名古屋の不動 産市場にとっては維新となる。

あえて名前を上げるが、今回の名鉄も含めてトヨタおよびその関連 企業、中電、東邦ガス、旧東海銀行、更には地域金融機関等が保有 し、ある意味塩漬けされている不動産資産を、外部のより高い投資 スキルで運用する財務戦略に踏み来る時代だ。

ちなみに、福岡にはすでに福岡リートが組成されている。名古屋に ご当地不動産リートがないのは、極めて遺憾な状態である。今回、 名鉄が外部スキルを入れて、遅きに附け先駆け的に戦略的なアセッ トビジネスを始動し始めるニュースは、さすが名鉄と言える。

名鉄が先駆けとなり、再び、名古屋経済圏の不動産投資市場をけん 引役することを期待する。

                            以上

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