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主筆:川津昌作
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指導者、絶対的権威者の輩出

〈2023年2月10日〉

電撃的にトヨタの社長交代と言うニュースが流れた。市場はこの絶 対的権威継承をどのように受け止めたであろうか?今年の初めか ら、シリーズで国、組織の絶対権威者の創生・排出の社会的背景に ついて議論をしてきた。議論の発端は1月13日の日経新聞朝刊の 経済教室の議論である。

日本の経営者のトップには、他社を渡り歩き様々な経験値の高いプ ロの経営者が少なすぎる。生え抜きの純粋培養の経営者ばかりであ る。経営者の排出の新しい仕組みが必要であるという論者の議論で ある。

私どもでは、この議論に真っ向から反対し、正鵠を欠く議論である とした。日本社会は長兄家族主体が社会の骨格となし、家族の長男 が絶対権威を継承することに歴史的必然性があったからだ。新しい 仕組みは確かに必要であるが、欧米の競争的な権威者の創生システ ムがそのまま適用できる簡単な議論ではない。

しかしこの長兄主義には、継承候補者が現権威者に、その地位を認 知してもらうために忖度し、どうしても前任者の間違いを正すこと ができず、時には忖度の度が過ぎ、その組織にとって弊害が多くな るリスクがある。

忖度は、日本的に見れば美しい和の精神かもしれないが、海外から すれば汚職にも等しい汚い行為である。そしてこの忖度の裏返し が、いじめなどの行為の根源ともなり、現代社会にそぐわない仕組 みになっているのも事実である。

そこで次の権威者候補世代であるZ世代の核家族化という社会トレ ンドから、前回、長兄家族主義の矛盾を議論してきた。

冒頭のトヨタの次期社長のケースにおいても、豊田章夫社長が次の 後継者を育てることは、当然社長の責務とされてきた中での出来事 で、何か大きな敵対チェンジが突然起きたわけではないはずだ。そ の中で、社長の意にかなう人の人選がなされたはずである。

トヨタのケースでも、邪推するに社長の子飼いのグループからの排 出であり、日経新聞が主張するところの他社を渡り歩いたプロの経 営者が、何らかの権威者排出プログラムで誕生したのではない。広 義の長子・長兄が指名され継承されたわけだ。

歴史的にこの長兄継承システムを少し見てみよう。解りやすい例 が、江戸時代の徳川家康が2代将軍秀忠の長子家光を三代将軍とし た継承問題である。誰の目にも明から愚鈍に見えた長兄家光より、 側室次男の国松を推す声が多かった。

しかし周知のとおり、絶対権威者徳川家康の判断は、才覚で登用す れば組織が乱れるとして、長子である家光が三代将軍を継承した。 8代将軍吉宗の後継者家重においても、身体に障害があり将来を懸 念されたにもかかわらず、家重を後継者候補を正室の子を理由に継 承者として吉宗が決めた。(筆者:表現が不適切であれば謝りま す。)

これらは、いずれも日本の長子、長兄家族制度の象徴であり、日本 では「美談」として長く語り継がれている話だ。一方でこの長子・ 長兄家族制度にあがないケースも多くある。日本の歴史にはむしろ 兄弟による継承争いの方が多いのではないだろうか?

何度も話が飛ぶが「美談」と言う言葉は、安定した社会、美しい背 景における談が美談になるイメージがある。乱世、醜聞、妬み恨み を表現したり背景とした談は「醜聞」となる。

古くは、天智天皇と天武天皇の兄弟争い。天智天皇が自分の子供に 継承させようとしたが、天智天皇の実の弟であり実績のあった天武 天皇との争いである。あるいは兄源頼朝と異母兄弟である源義経の 戦い。戦国時代の織田信長、豊臣秀吉の後継者争い等々。跡目争い の方が多いのは単に面白いだけかもしれないが。

さて話を元に戻して、現在の日本の抱えている継承システムの問題 は、現行の長子・長兄継承制度には、忖度と言う大きな問題があ る。これを改善する必要がある。しかし効率性を追求する競争原理 による継承者排出制度はこれまでの社会背景から拒絶感がある。

単純に、自分が所属する組織の長たる絶対権威者が、忖度のリスク があるが和を持って貴しとして排出された長子長兄か?因襲を無視 し、何らかの競争的排出によりより生産性の高い長たるべきか?ど ちらを望むかと言う議論である。

話はそれるが、自民党の総裁選出における派閥争いは、長子長兄継 承か?否か? 派閥争いで敵対する長が生まれれば、過去の因襲を 踏襲する必要はない。この意味においては生産的であるが、派閥争 いはなぜかマスコミが忌み嫌う。日本ではやはり長子長兄制度が是 であるのだろうか。

日本の歴史にみる長兄・長子継承制度と、兄弟げんかによる権限者 決定制度の違いは、時代背景に求めることができる。江戸の泰平に 向かう時代と、戦国乱世の常に新しいものをどん欲に欲した時代で ある。(兄弟げんかも長兄継承と同じ形態だろうという考えもあ る。)

今の日本は1990年以降デフレ経済基調にある。明らかに低成長社 会であり、常に物欲に走ることなく、実質金利が高い中でお金さえ 持っていれば何得な生活ができた、非常にぬるい社会であった。争 って改革・成長をする必要もなかった。

ある論文研究で、過去10年20年単位で調べた結果、日本の同族会 社の方が非同族会社よりROAが高いという事実がある。これもデフ レ基調の30年間を象徴する要素ではないだろうか?

しかし、これからインフレ基調になれば、ただお金をため込んで、 一切生産性のあるものに投資をしなければ、貨幣と言う資産価値が 劣下し没落する。日本の維新後の華族社会の没落がまさにこの没落 である。唯物主義的社会のなかで成長を競わなくてならない社会に なる。過去を大事に継承する時代でなくなる。

インフレはあくまで名目ではあるが、経済成長に他ならない。学 者、有識者は実質成長ばかりに関心を寄せるが、我々が現実に生活 している社会は名目社会である。

インフレ社会は、実質であろうが、名目であろうが後から振り返れ ば高い経済成長社会である。成長を実現するのに名目も実質もな い。これからの成長競争に勝たなくてはならない。こういった状況 下で、絶対的権威者の排出システムはどうあるべきか?

                         以上

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