ニュースレター

主筆:川津昌作
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どうする、Z世代!

〈2023年1月30日〉

前回のニュースレターで日本の社会構造を「長兄家族」に根差した ものだという議論を展開した。これに対して現在よく言われるZ世 代に象徴される核家族化に関連した反論を読者からいただいてい る。

いただいた反論にもいろいろあり、シニア世代の方のご意見は、直 系家族ありきでその矛盾を説き、若い世代はそもそも直系家族を知 らず、私どもの議論がそもそもおかしいというご意見をお持ちのよ うだ。このような議論を通じて、次世代であるZ世代の社会の理解 を議論してみたい。

日本の長兄家族制度は、今の日本の天皇家に象徴される。長兄男子 が権威を継承し、組織の象徴的規律の保有者となる。この家族組織 をベースにする日本社会も長兄的ポジションをとる後継者が次の権 威を掌握することになる。

そこでは、長兄的ポジションを形成する様々な行為・しきたり・慣 習そのものが日本的社会を特徴づける。例えば長兄的後継者になる ために、時の権威者に時には忖度し、あるいは絶対的な服従を表明 し、後継者たる信任を得る。

このような社会・組織では、前任者を否定することができず、前任 者の間違い、不正、非効率性が解明、改善されない非合理性が生ま れる。海外から見れば「汚職」と同じくらい不正である「忖度」が 「すべてを推し量る」「根回し」文化として、清き日本文化として 容認されてしまっている。

一方で、継承に敵対的な状況が少なく、事業の継承性が安定・信頼 のおける社会・組織となる。「和をもって貴し」とする美徳文化に も合致するわけだ。例えば内燃系の自動車産業の様々なガス、燃料 の連携技術が優れ、非公式な根回しによる仕事のスムーズな流れな ど、他国・多文化に比較優位ある成果もあげてきた。

この長兄家族社会を異なるのがロシア社会の共同体家族組織、欧米 の核家族組織があげられる。欧米の核家族社会では、子供が結婚す ると親元を離れ新たな家族を形成する。この家族組織の「核」化が 欧米社会のベースとなっている。

核家族間は互いに独立し、平等である。親家族が子供の家族に対し て信条、ビジネス、支持政党等影響を及ぼすことなく、忖度のない 独立した関係にある。この各々核家族が独立した社会における絶対 的権威者の選出方法は、競争、公開募集等の透明性・市場性ある決 定が行われる建前である。

これが欧米社会の、効率的なそして時には過剰な、あるいは暴力的 な競争原理が組み込まれた社会となって行ったわけだ。この欧米の 競争原理を、隣の芝生が日本より青いからと言って、そのまま真似 しようとしても、簡単に受け入れられる話ではないわけだ。そこに 至るまでの社会背景が違う。

以上が前回のニュースレターの要約である。これに対して今日本で 将来のイシュタブリッシュメントとなるZ世代の家族構成がどのよ うな影響をもたらすかが今回の議論である。

手っ取り早く結論を急げば、Z世代は明らかに長兄家族ではなく、 核家族化する。そこでは密室継承、忖度社会が忌み嫌われ、公開で かつ納得ができる仕組みによる権威者の継承が望まれるようにな る。

Z世代でも、もちろん長兄的家族は存在する。しかし少し様子が違 う。教育投資など十分になされた長兄は東京に出て東京的キャリア の成功を果たす。地方に残された家族は長兄ではなくセカンド承継 者が引き継ぐ。

東京で成功した長兄は、地方の価値の下がった家族資産に興味がな く、家督承継をセカンドに任すか、もしくは廃棄、放棄する。いず れにしても核分裂した兄弟間(東京VS地方のような地域間)には 絶対的権威関係はなく独立した関係になる。これが東京の地方放置 システムとなってしまっている。

近い将来、欧米社会同様核家族組織による社会構成になるかどうか は別として、現在の日本のイシュタブリッシュを構成している忖度 社会を、認めることがない社会文化がZ世代中心に明らかに大きな 存在感を示していることは確かである。

その証拠が、新聞紙上、特に企業において人材登用を公開の推薦、 エントリー、トレード、社員間選挙などの人事制度を取り入れた企 業の話題が、頻繁にニュースになっている。現実的な問題として、 この変化にあがなおうとするシニアセクターは居場所をなくすかも しれない。

ただしZ世代が核家族化している事だけを取れば、確かに社会が変 わることは必然性があるが、今後大きく日本がこの核家族的社会構 造になるかどうかを見定めて議論しなければならない。

ここで少しZ世代の理解を深めてみよう。ネット上ではZ世代の特 徴を4つのキーワードで表している(引用:日経トレンド)。
1) 透明性・プロセス重視
2) サステナブルな「イミ消費」
3) コスパからタイパ(タイムパフォーマンス)
4) 正解より納得解  

「透明性」はまさに忖度社会システムに対する反抗だろう。イミ 消費は少々説明が必要だ。「イミ消費」に対する言葉が、車などの財 物を買う「モノ消費」、体験など何かする事を買う「コト消費」な どに対して、社会的意義がある事、地球環境に意義がある事、何か 自分にとって意味(イミ)がある事を消費する言葉だ。

「タイパ」がZ世代の最も特徴的なトレンドかもしれない。これだ けモノ、コト、情報があふれ、これらをすべて十分に消費すること ができない状況下で、時間を如何に効率よく使いたいというニーズ である。

最近のAIなどで作曲され、音楽アバターなどで歌われる音楽は、 従来の歌謡曲のヒット作より何十倍、何百倍のスピード、ボリュー ムで登場してくる。そんな音楽を楽しむのに、すべてのイントロを 飛ばし、サビだけを楽しみたいというニーズがZ世代だ。

これは単にエンタメだけでなく、社会に大きな影響を与える政策、 世論、コンセプト、概念そして人としてのリーダーも含めて賞味期 間が非常に短くなってしまっている。人に影響をもたらす従来のリ ーダーは、インフルエンサーにとってかわられ、短い期間に次から 次へと移り変わっていく。

そして最後の「納得解」は、まさに何が正解で、何が不正解かわか らない社会で、とにかく立ち止まらず前に進むためには、自分を納 得させる何かが必要なわけだ。立ち止まれば社会に置いてきぼりに される恐怖感を持ち、無意味に社会を追っかけているZ世代の姿を 垣間見ることができる。

さて以上から、筆者が考える今回の結論は、Z世代のトレンドは確 かに現社会構造の非効率な部分にあがなうトレンドはあるが、その トレンドは必ずしもファンダメンタルズの変化ではなく、あくまで 短期的な、リスクファクターでしかないように思える。

透明性、イミ消費、タイパ、納得解と言うのは、これから始まる情 報革命の激変で生産性が一時的に上がり、かつデフレ経済により一 時的にもの財物の実質コストが下がり、モノがあふれ、一億総中流 社会の名残で、かつものを入手するのにハードルが低くなり、誰で も何でもアクセスできるようになった、非常に恵まれた贅沢な一過 性の社会模様でしかない。

社会が均衡状態に陥ってしまい、絶対的モノ不足、インフレ、戦 争・環境問題など様々な制約が課せられた社会で通じる話ではな い。縮小経済・均衡社会になり、欲しくても入手できず、選択肢は 限られ、努力するチャンスすらないような制約が今の特に日本はな さすぎる。

真実を探求する努力をすることもなく、自分を納得させる理由探し に終始している。適材適所で転職するのではなく、上司・雰囲気が 気に入らないかだけで転職をする。社会に適合できなければ何もし ない。いじめられたら逃げればいい。と言った社会背景だ。

逃げられない世の中、何もしなければ生きていけない世の中、選択 肢が全くない世の中になった時、失われた世代になりかねないトレ ンドではないだろうか?もちろん忖度社会がその背景にあるわけだ が、少々Z世代に忖度しすぎではないか?

忖度はいじめの根源でもある。なくさなくてはならない。忖度社会 は、美しい和の世界ではなく途上国の汚職社会と同じであることを 認識する必要がある。これをもっと効率の良いものに変えなくては ならない。

しかしかと言って上記4つのZ世代のムーブメントが、新しい社会 の安定の礎になるようなファンダメンタルズの変革とは思えない。

中国の儒教的家族体制、ロシアの平等家族、欧米の核家族、日本の 長兄家族は、礎に礎を重ねた歴史そのものである。ファンダメンタ ルズそのものである。そんな簡単に変われない。しかしその中で日 本の効率の悪い忖度を改善しなければならない。

半世紀以上社会を俯瞰して思う事は、やはりデフレ局面は手を緩め てもなんとかなりどうしても社会が緩い。インフレ局面は成長につ いていかなければ落ちてしまう厳しさがあった。日本で、規律のあ る権威育成システムが生まれることを望むばかりだ。

以上

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