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主筆:川津昌作
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名古屋駅の迷(めい)駅問題

〈2022年11月10日〉

名古屋前エリアの迷駅問題を議論してみる。とはいうものの帰結は 至極明快で単純である。迷路の問題は解りにくい通路、サインでは なく階段にある。他の大都市の地下街、地下駅舎通路を比べるな ら、規模的にも名古屋駅前の地下街以上の規模の地下街は東京、大 阪に普通にある。

名古屋駅と栄地下街の比較でもわかりやすい。問題は輻輳する通路 ではなく、階段の多さである。ただし地下の駅舎から地上の駅舎な ど、様々な条件の通路がありその高低差の構造を問題視しても解決 しない。問題は階段をどのように改善するかである。

筆者である私どもは、回遊性に関する考察論文の中で「戦略的に、 エスカレーターはアクセル、階段はブレーキ。」と言う考えに行き ついた。今では、戦略的に人の流量である回遊性をマネイジメント するうえで当たり前となっている考えでもある。

名古屋駅前が、特に地下街が迷駅と呼ばれるように迷ってしまうよ うな構造になっている問題の本質も、階段の多さにある。東京駅の 八重洲口の地下街、丸の内側の大手町まで広がる地下街などはあく まで平面で階段的な昇降通路が極めて少ない。決して迷路とはいわ れない。

大阪梅田の阪急大阪駅から三番街などを経て阪急百貨店に至る通路 は、上がったり下ったりして最終的に今いる位置が、地下街なの か、地上階なのか分か錯覚してしまう。しかし迷わない。

それは回遊の誘導性が明確でありエスカレーターと、歩く(動く) 歩道で、迷うことなく前へ前へと誘導してくれる。阪急梅田駅の改 札口を出て人が流れる方向に進むと、すぐに何機も並んだエスカレ ーターが断続的に続き、更に動く歩道が組み合わさり、迷う暇なく 西日本最大の阪急百貨店梅田本店に行きつく。

つまりエスカレーターが戦略的に組み合わされており、強い意図を 持って明確に回遊性がマネイジメントされている故、迷路とはなっ ていない。逆に言えば主張が強すぎる。

あえて、もう一つ迷路問題の本質的な問題を上げるなら、名古屋駅 前の迷路問題を評論しているマスコミはあまりにも他のエリアを見 ずに論議しすぎだ。特に最近の大都市都心部の戦略的回遊性の実態 を知らない。名古屋には回遊性の研究者が実は多い。研究論文も多 いが残念なことである。

「エスカレーターはアクセル、階段はブレーキ。」は戦略的な回遊 性の理論ともいえる。もちろん、災害、避難計画などの考えとは異 にしている。しかし逆に言えば戦略的な商業的回遊性がマネイジメ ントできているエリアは、災害時の明確な避難計画もできている。

そもそも、平時の商業的な回遊性経路と、災害時の避難計画とは違 うはずである。その区別ができていればエスカレーターには停電時 の階段を併設しなければならないという旧態依然の考えはないはず だ。

最近、新しく再開発されたエリアほど、多くの投資がなされその商 業的な価値が要求され、この戦略的な回遊性に主眼を置いた空間構 造の再開発が登場している。高島屋ゲートモール、KITTEなどが登 場した名古屋駅前北サイドもその一つだ。

本来、階段などの昇降通路がない平面な通路であれば、それに越し たことはない。しかし継ぎ足し的に発展拡大したエリアではそれも ままならない。しかも東京のように、いくらでもお金が集まり、何 回でも再開発ができる大都市でもなければ、平面的な構造は期待で きない。

大阪梅田駅前の地下街エリアは前述のとおり、エスカレーターの組 み合わせが非常に戦略的に成功した例の一つだ。名古屋駅前での最 近の新たなエスカレーターの設置を見てみると、ほとんど、が最近 再開で出来上がった高島屋ゲートモール、日本郵政のKITTEビル、 大名古屋ビルヂングエリアに集中している。

その結果、名古屋駅前では、回遊性の中心が、名鉄、広小路サイド から、今や高島屋ゲートモールを中心としたエリアに移行してしま っている。この移動を、単に新しい商業施設ができたことによると してしまうと、本質的な問題は見えてこない。

ただ単に商業施設ができただけでなく、エスカレーターの設置数が 格段に増えたことにより、回遊性の戦略的な効率性を上げる工夫が なされているからである。

名古屋駅の南サイドにも、名鉄バスセンター、広小路ビル群、名 鉄・近鉄駅など重要インフラがあり、人の流量は決して減っていな い。昔からあるJR名古屋駅前からテルミナ、ユニモール地下街に 通じる左右二つの通路がいまだに階段である。

ちょうど、JR東京駅の丸の内側から階段で地下鉄丸ノ内線に通じ る階段と同じである。しかし違いは最近になって東京駅ではこの階 段にエスカレーターが増設されている。

名古屋駅の場合、そのさらに西に行った、高島屋ゲートタワーに通 じるエスカレーターが複数新たに設置されると、一気に西側へと地 下街の通路の回遊性が広がった。このエリアは新しい商業エリアが 増えただけでなく、回遊性の効率性を加速する工夫がなさ、その効 果が出ているわけだ。

名古屋駅前アリアの迷路問題は、そもそもどのように人を回遊させ るかと言う商業的な戦略がないこと。更にはどの通路をとってもす ぐに階段に突き当たり、人に心理的な行き止まり感を与えてしま い、どこへ行ったらいいのかと迷子にさせてしまう事にある。

エスカレーターの設置が進まない要因に、「停電時の通路として階 段を併設しなければならない。」という、意味不明確な考えが邪魔 をしている。

観光客の多い北海道のJR北海道の小樽駅でも、ホームから階段で デッキに上がり駅のメイン改札口の通じる、ホームの中央の一番人 が利用する昇降通路がエスカレーターのみになっていた。階段の併 設がなくなった。

平時の人の流れは中央の改札口に集中優先して通し、むしろホーム の左右端の階段は使わないようにし(階段でブレーキ)、人の流れ を商業的な集中と、災害時の分散と言う人の流量の管理がなされて いる。

効率性から言えば、エスカレーターと階段を併設することほど無で 危険な事はない。エスカレーターと階段が併設されている昇降通路 では、ますます階段の使用率が落ちている。かえって矮小な不便な 昇降通路になってしまい利用客は減る。減ると言う事はブレーキが かかると言う事だ。

通路を狭める行為は、先の韓国での過密回遊性による事故にみられ るように、災害上非常に大きなリスクを持っている。通路をエスカ レーターと階段の共有で狭めてしまうのではなく、それぞれ別の用 途目的の通路とすべきである。

残念ながら、ありがちなエスカレーター増設は、この危険性をはら んでいるケースが多い。エスカレーターはあくまで「階段の補助」 と言う古い考え方だ。「回遊性の戦略的なアクセル」と言う考え方 がないわけだ。

平時の回遊性、災害時の人の流量の管理が明確になっており、その 人の流れがイメージできていれば、むしろ平時には人をこちらに通 す、非常時にはあちらに人を通す考えができるはずだ。平時、非常 時の考えが明確になっていれば、必ずしも輻輳する必要はない。

にもかかわらず、判で押したように「エスカレーターの単独設置は 非常時の際に問題がある。」という考えが、どっちつかずの利用し にくい通路(ブレーキ)となってしまう。

結論として、従来の名古屋駅前回遊性の中心であった、名鉄、近 鉄、JR東海の古い駅舎部分におけるエスカレーターの設置がほと んど見られず、名鉄地下、サンロード、ミヤコ地下街は規模的に小 さくても迷路のごとく言われる。その結果、各鉄道会社間の連絡の 不便感だけでなく、地下街がシャッター商店街になりつつある。

継ぎ足し地下街で、継ぎ足し通路が迷路の問題ではない。回遊性の 戦略がなく、人の流量の効率的な空間デザインができないわけだ。 階段は人のブレーキのプレッシャーを与える。すぐに階段にぶち当 たる構造、戦略的な商業的回遊性、災害時の避難プランが明確でな いことが迷駅問題の本質である。

ただ現実な、ビジネスの場においては、様々な事業者がそれぞれの 利益を優先して、明確な回遊性、災害計画が立てにくい。そこで強 い都市管理者のリダーシップが必要になる。都市管理者は大変なん だ。

以上

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