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長期停滞均衡化する貧困

〈2019年10月20日〉

Nature記事“SEA CHANGE”より、「海が変わってしまった」。酸性 度が高まって酸っぱくなっている。当然海の生物に与える影響大き く、海洋生物が生きにくい環境になってしまったとしている。それ だけではない。

従来、海は多くの生物(人にとっては食物)を育み、大きな気候変 動を吸収する、地球の生態系を安定化させる非常に大きな機能を果 たしてきた。

しかし今、酸性度が高まり食物連鎖を破壊し始め、酸性度の高い水 分を陸上の人間社会に還流させ、更に水温が高まり直接的に巨大な 台風を発生させる等リアルに人間生活に脅威をもたらしはじめた。 海に溶け込んだマイクロプラスティック等汚染が大気圏を通じて人 間社会に押し戻し脅威となっている。

本来地球を育んできた海を、長い時間人間が汚染し続けてきた。今 海から人間社会への反攻が始まっている。海は今や、人間社会にと って脅威をはぐくむ源となってしまった。

さて今年もノーベル賞ウイークがやってきた。めでたく日本人が受 賞することができた。そしてノーベル経済学賞が、貧困問題の解決 の貢献した研究者にスポットをあてた。残念だが小職にして論文は 読んだことがない。と言うか、やはり日本では貧困問題と言うとど うしても他所の話のような距離感がある。対象の実証研究もケニア が舞台となっている。

今回はこの距離感がどのようなものかを議論してみたい。冒頭の環 境問題にしても、最近世界中で大きな問題となっている貧困問題、 社会格差、民族問題等は、どうしても「日本は、識字率が高いか ら、高学歴だから、礼節があるから“特別だから大丈夫論”」が正 当化される故に、むしろタブー視しされ、議論がなおざりになる社 会問題である。

「日本人は清潔で、街も十分に綺麗」という都市伝説は、どうした ら日本の都市をもっと綺麗にできるかという議論の妨げになる。日 本よりきれいな都市はいくらでもある。旅行ブックで観光客が立ち 入らないように説明があるドラックなどのイメージがあるエリアに 行くと、たばこの吸い殻などが落ちている。

しかし日本では、普通にどこにでもたばこの吸い殻が落ちている。 日本中が立ち入ってはいけない危ないエリアということになる。 「日本はきれい」と言う都市伝説がある限りこの議論は進まない。 と同じである。日本人は高学歴である、欧米に比べて礼節が高い、 という都市伝説が貧困の議論に距離を置いてしまう。

ちなみに、日本の貧困研究の論文を覗いてみると、まず、日本の貧 困の状況は、貧困の原因の格差の広がりが落ちつてむしろ縮まって いる。これは全体的に所得が下がり特定の所得の低下が希薄してい るそうだ。そして新たな貧困の要因に離婚女性がある。(「高齢期の 新たな相対的貧困リスク」山田篤裕)

次に貧困政策の重要な所得再分配が異世代間で行われている。つま り若い世代から高齢化世代への移転である。同じ世代間での再分配 がなされていない。これは若い世代の貧困対策がなされていないこ とにつながっている。(「2000年代前半の貧困化傾向と再分配政 策」小塩隆士他)

TV映像を見ていると、ヨーロッパで生じているデモには若い世代 の参加が多い。日本ではデモも少ないが、若者が主体となるデモも 少ない。では、ヨーロッパの若者は暇なのだろうか?スマホゲーム よりデモの方が好きなのだろうか?日本の若者との違いは?

日本でも非正規労働に従事している若者が多くなってきている。彼 らは、確かに将来に対する夢はないかもしれないが、今は決して困 窮しているわけではない。月15万で年間200万円の所得があれば 表面上は正社員と同じTVを見て、ゲームを行い、ユニクロのファ ッションを楽しめられる。

直接デモに参加して生活困窮を訴える必要はない。何よりも仕事を 選べる選択肢があり、生活に切迫した窮屈感はない。しかし、若い 世代の非正規就労の低所得者は、残念なことに年を重ねてもそのま ま低所得が改善されることがない。そして非正規の職も選択肢がな くなりはじめ、やがて本格的な困窮となり、切迫した窮屈感が出て くることになる。

今まだ、低所得をそれほど感じない若い世代が、今後5年先、10 年先になりと、社会に大きく不満を持つ人たちが今以上に増え、ヨ ーロッパのように、貧困、格差、差別を根源的な理由とするデモン ストレーションが増幅する。そしてグローバル社会でなくナショナ リズムファーストの要求がたかまる。これは貧困先進諸国の格差の 生成だ。

格差貧困が生まれる要因は諸説ある。しばらく前のトーマスピケの 新資本論もそうだ。資本収益率が経済成長率より高くなる現象だ。 資本を持てる者がますます富め、持てない者はますます貧する。

グローバル経済のおかげで、資本財が安くなったことによって資本 収益率が高くなったという説もある。IT革命のより生産性の向上 志向が、一部アナグロ仕事に従事する正社員を非正規に追いやり、 貧困層が拡大したと言う説もある。中産階級の貧困層への没落がポ ピュリズムの拡大の要因でもある。

筆者が上げている要因はエクイティビジネスのイノベーションが 1980年以降多く生まれた。ブランディングなどの資本に価値を蓄 積するビジネスの革新的な進化が起きた一方で、資産収益率、労働 者所得に関するイノベーションが生まれていない点である。

技術革新等が起きると一時的に排除される正社員層が生じる。それ が既存の中産階級が貧困層に格下げする要因でもある。一番疑問に 感じるのが「高齢化社会に対処するための生産性向上」である。学 者が言う生産性の向上は、今いる労働者が全員1.5倍の労働成果を あげれば、生産人口が7割に減っても問題ないという考えである。

しかし実務で生産性をあげようとすると、一部の正社員を非正規に して賃金を抑え、また一部の質の高い正社員に報酬を高めて、より 高い成果を求めることになる。結果的に格差が広がり、一部正社員 は貧困層に格下げされ、一部正社員は高級外車を乗り回すことにな る。このような生産性向上こそが格差経済の元凶ともなう。

いずれにしても、今の日本だけ見て、日本における貧困問題の軽視 は間違っている。今の将来の夢を語れないが困窮まではいっていな い非正規社員の若者が、今後年を重ねるにしたがって、今ヨーロッ パで起きている以上にデモ、騒じょうを通じて不満が顕在化してく る社会になることは間違いない。

ヨーロッパの貧困の特徴を見ると、貧困問題は失業による貧困が原 因だけでではない。仕事があって忙しいがそれでも最低所得水準に 達しない問題がある。仕事をしても貧困から抜け出せられない不満 が社会にたまる。

以上 以下蛇足

理論的に言えば貧困は一つの長期停滞均衡状態である。何か大きな 失敗をしたわけではないが、ある一定のパターンにはまるとそこに 陥ってしまう。一度陥ると抜け出せられないのが今の社会の現実で ある。極端なことを言えば、社会の何割かが必ずこの均衡にいるな ら、この均衡をぶち破り、若者が貧困から脱することができる社会 が必要になる。

それは何か?炎上覚悟で言えば、一獲千金のような人生を容認する 社会である。例えばアメリカのサブプライムローンのようなラテン のビジネスモデルである。現代の貧困の特徴が、まじめにコツコツ とやっている人が陥る均衡であるなら、均衡を破壊するエネルギー が必要になる(MMT的発想。)。

以上

貧困若者名古屋ビジネス情報