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主宰:川津商事株式会社
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祝ワールドカップ開催地豊田、名古屋の落日

〈2019年10月5日〉

豊田スタジアムがワールドカップ開催の役割を見事果たしている。 「祝ワールドカップ開催」とたたえられよう。名鉄豊田駅を降りて スタジアムに向かって歩く沿道に飲食店が並び、スポーツイベント 時にはスポーツバーに早変わりだ。

海外からのお客は、競技のプレー前イベントとして酒盛りで大いに 盛り上がる。スタジアムまでの沿道が格好の場所となっている。ち ょうどNYの旧ヤンキースタジアムが地下鉄を降りて高架下の沿道 にスポーツバーが並び、野球開始前から大いに盛り上がるシーンを 思い出す。

東海地方を代表する大きなスポーツイベント都市としてその名をあ げ、スポーツイベント機能を持ち始めている。今回のラクビーワー ルドカップの開催した主要な都市は東京、横浜、埼玉、大阪、神 戸、福岡、札幌その他である。残念ではあるが「名古屋」という呼 称が入ってこない。

名古屋という市場で開催しているのだが、結果的には呼称な名古屋 ではなく豊田だ。言うまでもなく名古屋の世界での認知度は低い。 海外で名古屋(ナゴヤ)をセントラルジャパンと説明してもピンと こない。むしろ冬季オリンピック開催の長野(ナガノ)と間違えら れる。

トヨタオートモービルのヘッドコターのある豊田の“隣の町”と説 明すると理解してくれる。従来から言われる名古屋の知名度の低さ であるが、その奥ゆかしさが名古屋の文化となっている。

かといって豊田スタジアムに名古屋の名所を付けろなんて言うこと は本末転倒で、豊田はもちろん名古屋でもそんな事を言う人はいな いだろう。その一方で中部地方の市場を前提に開催されるわけだ が、現実に名古屋駅から1時間以上かかるのも事実だ。

今開催のクリムト展もしかりである。地方都市でこれだけの大盛況 が大成功である。豊田の名を大いに上げ誇れる出来事だ。しかしこ の市場も名古屋の市場である。これだけのイベントを豊田に誘致で きるだけの力が富の蓄積を表している。

既に、名古屋、大阪と言えども一つの都市で大東京圏に追随する事 は出来ない。いろんな考えがあるが、名古屋・東海経済圏はビジネ ス・社会・文化・観光そしてスポーツが名古屋駅を中心に三重・岐 阜・三河へと広がり、各エリアのネットワークによる広域展開こそ がこのエリアの成長の源となっている。

それぞれのエリアがそのアイデンティティを生かし、得意な分野で 成果を上げ、役割分担をし、非常に大きな産業クラスタを形成し、 全体として成果が上げればそれでいいわけだ。そこで求められる戦 略はネットワークの生産性の向上である。

弊社では、従来から豊田と名古屋駅を30分で結ぶ新交通システム の必要性を説いている。それも生産性を高めるための名古屋の栄を 通るルートである。トヨタ企業群の潤沢に蓄積されている富の投 資、消費の受け皿として名古屋の都心と連携するインフラの必要性 を説いているわけだ。

これに対して、最近しばしば、三河の関係者から質問というよりは 叱責を受けることがある。日頃名古屋は威張っていながら、都合の いい時だけ豊田・三河のお金をあてにされても困る。三河豊田が豊 かになるのがそんなにねたましいのか?

身勝手すぎくないか?というものである。更にはこの新交通システ ムのご批判も受ける。そもそも採算が合うのか?地下鉄を行政的な 整備の手法、整備の技術的問題を知らなさすぎるというものだ。素 人は黙っておれ・・・と言ったところだ。

残念なことだ。もう少し都市経済の仕組みを理解してもらいたい。 まずトヨタ企業群の好調な業績により豊田、三河地方に富の蓄積が 生じていることは事実である。例えば土地の価格、地価を見ても安 城、刈谷、日進等のエリアでも住宅地が高騰し、中には名古屋市内 の住宅地並、あるいはより高くなっている。

住宅地の地価だけ取れば、すでに名古屋と肩を並べる域にあり、豊 田・三河のステータスが上がったことは言うまでもない。そして日 本中が人口減少縮小の中、日進、長久手など人口が増加していてお り、それに伴う開発も進み、いろんなおしゃれなお店も増えてお り、このエリアの成長が著しい。

この「豊田・三河エリアの成長の源の富を横取りしようとは笑止千 万、盗人猛々しい」ということになるようだ。確かに豊田、三河の 成長は喜ばしいことである。そして今回のようにワールドカップ開 催地として成功を収めることは祝に値する。

しかし、今の調子で地価が急上昇し、高級住宅地が広がりこのエリ アが急成長することを、このエリアの都市管理者が、もしトヨタの 経営陣に手柄顔で言ったら喜ばれるだろうか?ということである。 それこそ未熟な大きな勘違いである。

エリアの地価が高くなれば、トヨタ関連企業の従業者が、高い住宅 を購入せざるを得なくなる。大きなローンを背負うことになれば、 当然賃金上昇に対する圧力も高まってしまう。住宅コスト、生活費 が高騰することなく賃金コストが安定することが、トヨタの経営陣 には最も重要なことである。

製造活動に適した環境を求めるなら、賃金だけでなく様々な資本 財、生産財の安定供給が求められる。そのための「富の適切な分 配」こそが経済政策そのものであり、最も重要なポイントである。 同様に都市政策の目的も「資源の適切な配分」が目的になる。

或るエリアで何らかの富の蓄積が起きた時、その蓄積の適切な再配 分がなされなければ、その域内の富は行き場を失い、生産財・資本 財が値上がりしてしまい、やがてそのエリアの生産性を落としてし まう。例えばバブルと呼ばれる現象の功罪は、資源の適切な配分を 歪めるところにある。

資源の適切な配分が歪められると、過剰な投資を誘発する一方で、 必要なところへの配分を妨げ、最終的に生産性を低下させて、その 地域・国は凋落する。日本は、高度成長期に非常に大きな外貨を獲 得して国内に富の蓄積が進んだ。この時諸外国(アメリカ)から再 配分である対外投資が求められた。

しかしそれがうまくできずに、日本国内の過剰な富の蓄積が進み、 やがて賃金上昇、地価上昇が進んだ。この地価上場が土地神話と呼 ばれ、1990年に破たんする日本のバブル経済生成のもっと大きな 要因であった。

生産性を落とし、グローバル市場で競争力をなくした日本は、製造 拠点を国外、特に中国、東南アジアに流出させてしまい、経済の空 洞化を起こしてしまった。今となっては一度流出した生産現場は二 度と戻ってこないという恨み節しか聞かれない。

日本が富の蓄積を再配分できず、結果的に資本財を高騰させてしま い生産性を落とし、その競争力を奪った中国でも、今、急速な富の 蓄積が中国国内の賃金・資本財の高騰をまねき、同様にその競争力 を他の東南アジア諸国に奪われようとしている。

中国は富の蓄積を一帯一路政策で再配分をしようとしているが、そ のやり方により周辺国から警戒心が生まれていることも事実であ る。再分配と言っても、対外投資は相手があることである。どや顔 で投資してやるぞ、では成り立たない。

この様に富の蓄積は大変喜ばしく誇れることではあるが、一方でそ の再配分を適切に行うこともが重要であり、かつ非常に難しいこと であるわけだ。

豊田・三河地方の資本財・生産財の高騰で将来経済が空洞化するこ とは、トヨタの経営に非常に大きな打撃となる懸念がある。コスト 管理に厳しいトヨタでは、資本財の高騰は下請けへのコスト削減圧 力となり、直接的に地域経済を疲弊させる。

弊社が考える名古屋東海経済エリアの戦略は、製造業に適した環境 を豊田・三河エリアが維持すること。一方で富の蓄積の最適な消 費、投資の受け皿として名古屋都心との連携を持つこと。そのため に豊田・三河エリアと名古屋都心の間に弾丸列車を整備し、三河の 人たちが名古屋都心での上質な消費・投資の機会に短時間でアクセ スできるシステムを構築することだ。

そしてこの消費と投資の成果が、三河エリアの製造の現場にフィー ドバックされる仕組みづくりである。上質な質の高い労働者、質の 高いリスクマネーを還流させる事などを意味する。現状名古屋の若 者は三河でなく東京に吸収されてしまっている。豊田を向いていな い。

トヨタ本社には世界中からVIPが訪れる。彼らのVIP待遇のホテル を豊田駅前に誘致できるか?現実にありえない。名古屋駅前、栄に 誘致しそこから短時間で、トヨタ本社へアクセスする方法が必要に なる。

豊田の富が、名古屋でなく東京資本に富が吸収されて、そのまま外 部のグローバル市場に投資先を求めても、三河地方への直接的なフ ィードバックは期待できない。

又現在ある名鉄三河線沿線だけでは不十分である。やはり豊田─栄 ─名古屋駅の30分で結ばれるパイプを通じて、高い消費効果・投 資成果が三河地方にフィードバックするルートがもう一つ必要にな る。将来的に三河から三遠南信地域にアクセスが伸びれば、可能性 がさらに広がる。

トヨタはミッドランド名古屋を豊田駅前に建てるのではなく名古屋 駅前に建てた。理にかなった経営戦略である。豊田三河での富が滞 留するのを避けて、その一方で生産性の高い名古屋の中心部に豊 田・三河の人たちが短時間でアクセスできるシステムを作り、上質 な消費、効率の良い投資が実現する経済圏を構築する必要がある。

弊社は、いただいているご批判とおり、新しい鉄道整備の技術的な 問題及び採算に言及していない。採算があるから整備するのではな い。採算を度外視してでも名古屋経済圏の交流の生産性を上げるた めに必要なインフラであるとかんがえるからだ。

世界の大きなトレンドは、都市間競争ではなくエリア間競争であ る。メガリージョナル戦略である。その戦略は域内の生産性の向上 であり、それが世界的に今整備されている都市間交通でシステムで ある。リニアもその一つだ。東京のメガリージョンとしての成功の 要因にも周辺都市とのネットワークの整備が上げられている。

都市政策が理解されず、これ以上豊田・三河エリアの富が滞留し地 価を上昇させて、モノづくりに適さなくなり、トヨタの製造の現場 が空洞化しだしたらだれが責任を取るのか?

以上

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