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:「土地神話は崩壊しているのに、・・・・」てなに?

〈2019年8月1日〉

日本経済にとって最悪のシナリオとしてトリプルファクタをあげて おく。ポストオリンピック不景気、消費税導入、貿易摩擦の三つが 重なって強いマイナス干渉を起こすと沈滞ムード、消費落ち込み、 円高不景気による最悪のシナリオも想定しなくてはならない。時期 的には今年の秋以降となる。

表題のある文章に出くわした。非常に残念な言葉である。もちろん文脈に は様々な主張がありそれ自体を否定することはしないが、無意識に こういった発言から「土地が無価値になる方向」になると誘導して いるのは、怒りを超えて残念でしかない。「負動産」「腐動産」を連 呼する人々に、一体どれだけのリテラシーがあるのだろうか?

結論から言えば、問題は、不動産投資に関するリテラシーの低さ だ。おおよそ日本のエコノミスト、著名な学者、マスコミ、およそ 有識者と言われる人たちは、非現実的な経済原理を振りかざし、資 本財、公共財、生活資材としての不動産投資の教育を受けていない 方々だ。

ちなみに、表題の表現をなされた方の文脈には、レオパレスの被害 にあわれた方々を、土地神話を信じた結末であるとしている。もち ろん不動産投資市場には様々なポイズンビジネスと呼ばれるビジネ スモデルがあるのも事実だ。業界人として恥じる限りだ。

しかし一方で、毅然とした知識に基づき、このようなビジネスモデ ルを批判し、又これらに投資しようとしている人たちに考え直すよ うに進言した人たちも多くいた。しかしそれが、不動産投資のリテ ラシーの低さの中で、無視され全く問題視されなかったのが現実で ある。

16世紀に、イエズス会の宣教師アレッサンドロ・ヴァリニャーノ が初めて日本に上陸した時、日本の第一印象を「東洋でも最も貧困 の国」としている。それは土地を利用する農作物などがほとんどな く、非常に貧しい国という意味だ。洋の東西を問わず土地の利用度 が国富の目安となっているわけだ。

イギリスには現在も貴族が残っている。これに対して日本の華族は 明治に衰退してしまった。これを日本の方が近代化が進んだ証 である、という人がいる。今、歴史の論壇ではそれに対して否定的 な考え方がある。

日本の華族の前身は、江戸時代の諸大名及び皇族である。江戸時代 末期に幕府は300余りの大名を抱えていた。しかしその実態は、20 万石以上の大大名は全体の一割に過ぎなく、約8割は5万石以下の 小大名であった。

華族の財力は、大名時代の知行地の土地利用から上がる様々な収益 となっていった。しかし当時の土地利用は農業であり、農業の栄え ていた西日本の農業利用度の高い土地の多くは、徳川宗家、天領 地、一部大大名に独占されていた。

その結果、地方の小大名は裕福な土地利用の機会がなく、そのまま 華族になっても当然土地投資をする機会そのものなかった。彼らは 主に株式などの金融資産に財力を求めた。その後の幾たびもの金融 恐慌を経て、華族の多くが経済基盤を失い歴史から姿を消していっ た。

一方イギリスでは多くの大小貴族がそれぞれ土地を多く保有してい た。そして彼らの財力は土地利用に裏付けられた。この土地利用ニ ーズが、その後の起業家精神を生み、産業革命を後押ししたという のが最近の歴史解釈である。同じ貴族制を持ちながら、土地利用の 近代化が遅れたのは日本であり、その原因が土地利用ニーズにあっ たことが指摘されている。(社会経済史学会2019年全国大会より)

日本の高度経済成長期から、バブル経済にかけて日本の経済成長は 二けた成長を実現した。当時欧米の進んだ家電品市場に、上質で、 安価な日本の労働力で生産した優れた商品で席巻した。安い労働力 で高い労働力市場と取引するいわゆる賃金の裁定経済である。

裁定経済が働くと、安い労働力が高くなる。日本の賃金が上がって いくことになる。この時、裁定取引は労働力だけでなく、他の資本 財でも起きた。それが土地の価格である。そしてこの地価上昇効果 こそが日本の高度経済成長、バブル経済の経済成長の本質であっ た。

一般に輸入を上回る輸出との差が貿易収益である。この貿易収益が 蓄積することが国富の蓄積である。この富の蓄積は、計算上は経常 収支黒字で換算される。実際は国内の労働力、土地、有形無形資源 などの資本財などの価格の上昇で富の蓄積が進む。

経済成長が起き、地価だけが上がって、賃金が上がらない状況は過 去にも今にもない。同様に賃金だけ上がって、地価が下がることも あり得ない(地価が調整することは有っても)。仮にそれが起きる 状況はむしろ市場の機能障害である。これは神話ではなく、マクロ 経済の明確な理論である。

そもそも土地の価格を「神話」でしか語れないリテラシーの無さ が、歴史解釈も、現在の実務も、将来の期待をもゆがめてしまって いる。これが日本とアングロサクソンの投資成果の違いに出てしま っている。

日本では、持ち家に投資をして手を加えることをする人はいない。 そんなことをすると違法建築にされてしまう。アメリカのお父さん の趣味は日曜大工が多い。常に手入れされて価値を高めている。高 く売ろうというモチベーションが働く。アメリカでは持ち家にも投 資知識が機能している。不動産を利用する必要がなく、そのすべを 知らない日本では空き家が急増している。

アメリカには、レオパレスよりもっとえぐいビジネスモデルが大小 いくらでもある。サブプライムを使ったオプションモデルがその象 徴だ。通常は投資知識(リテラシー)によって、ポイズンビジネス は市場から退場させられる。「下手な知識がないからポイズンビジ ネスも育たない。」と自虐をもっともらしく言うのも日本の有識者 たちだ。

神話としてではなく、理論的に土地の価値が成長しない世界は、当 然地価も成長しなければ、富の蓄積も行われず、まさに衰退であ る。人口減少でこの衰退を最小限に収めようというのが今なされて いる努力のはずだ。特に土地を神話でしか論評できないのが日本の マスコミだ。

以上

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