ニュースレター

主宰:川津商事株式会社
名古屋の不動産何でも相談室がお送りする、不動産・ビジネスに関するニュースレター「名古屋ビジネス情報」へのご登録ありがとうございます。
不動産にとどまらず、名古屋のビジネス情報、街づくり話題、不動産経済、市場トレンドに関するニュース、物件情報など時代の変遷とともに広くお伝えしています。

特記事項 弊社ニュースレターは、弊社の関係者及びお得意様に限定して、不動産ビジネスを行う上で注目すべきテーマをタイムリーに取り上げ、問題点を共有する為の ワーキングペーパーであります。公的機関を含む他のセクターへの提言、請願、上奏、不特定多数への拡散を目的としたものではありません。転用を禁止します。 取り上げる内容については、成熟した定説を取り上げるのではなく、早熟なテーマを取り上げるため、後から検証すると拙速な結論になってしまっていることもあります。 そう言った事を十分にご理解したうえで、ご参考にしていただきますようお願い申し上げます。

愛知首長VS名古屋首長

〈2019年7月20日〉

最も取り上げたくないテーマである。書いてはみるが、公表しない で没になることを願うばかりだ。

愛知県知事と名古屋市長との間で、非難合戦が新聞紙上で取り上げ られたている。以前から、かしましいお二人であったが、新聞紙上 で活字化してしまうとやはりよろしくない。お互い相手の気に入ら ないことは普通にいくらでもあり、不満に思うことはある。しかし 通常思うだけであれば修復も簡単であるが、活字化してしまうと一 気に拡散し煽られてしまう、修復の障害となってしまう。

従来であれば水面下でドンパチやる。しかしそれが表で行われるこ とが、今の社会の特徴でもある。どうもお互いの言い分は「市長は 格上の知事にたいして敬意がない。愛知は名古屋に対して敬意がな い。」というところの応酬らしいが、政策目標の足の引っ張り合い になる懸念がある。

少し前には、これもあまり取り上げたくはないが、愛知県知事が静 岡県知事に、リニア整備工事の進捗問題でもかみついていたことが 報道されていた。

昔昔、デコボココンビで有名な愛知県の鈴木知事と名古屋市の西尾 市長がいた。猪突猛進の鈴木知事と慎重に抑える西尾市長が、お互 いスタイルが違っても、大人の対応で愛知地球博誘致という目的を 成し遂げた。名コンビである。

当時、万博誘致はその前のオリンピック誘致失敗の轍を踏みたくな い財界の動きが遅く、なかなか盛り上がらなかった。そうしている 間の環境保護問題などが顕在化した。そうした混迷の中パリのBEI 総会にエントリーで乗り込んだ知事が一気に突っ切ろうとするの を、市長がいさめる姿を見たことがある。しかし両者とも大人であ り、誘致したいという目的に対する熱意は劣らぬものがあった。

以前のニュースレターでも取り上げたが、行政出身の首長が多い時 代は、水面下の行政的調整で物事を決めるやり方が可能であった。 鈴木知事と西尾市長も旧自治省と名古屋市の官僚出身であった。重 要なことは、実際の自治は実務であり、言いっぱなしのイデオロギ ーの戦いとは違う。

したがって当時の地方自治はオール与党で、形上、全員の推薦を受 けた首長が多くいた時代であった。しかし近年は、様々なイデオロ ギー、「風」がアイデンティティを持ち、オール与党の時代ではな くなり、地域の有権者と距離のある官僚出身の人間では、信認を得 ることができなくなりつつある。

そのような状況では、大衆受けするアイデンティティが前面に出て 一見、民主主義らしくはなるが、実務的調整能力を欠き、イデオロ ギーの衝突のまま実務が滞ってしまう懸念がある。世界中で今起き ていることを見れば明らかだ。

欧米でも、中東でも絶対的な選挙結果の力だけで事を進めると必ず 分断が生じてしまう。民主主義の崩壊である。どれだけ時間がかか っても、愚直な結論しか出なくても、話し合い、合意点を見出さな くてはならない。民主主義の宿命だ。愛知VS名古屋をそれぞれの 有権者の信任でだけで角をぶつけ合うと分断が生じてしまう。地方 自治にとっては最悪だ。

それともう一つ直視しなければならない問題が、名古屋経済圏のポ ジションの変化である。その中でどのようなビジョンを持ち、実現 して行くかが問題である。地価変動を見てもわかるように、かつて 名古屋の中心で最も地価の高かった栄が低迷し、東京資本が流入し ている名古屋駅界隈の地価が上昇している。

その一方でトヨタ関連の収益を蓄積し始めた三河エリア豊田、刈 谷、安城、東郷、日進の住宅地の地価が上昇し続けている。地価の 変動は富の蓄積、消費・投資の受け皿の度合いである。

愛知・名古屋都市政策、商工・経済界がもっと危機感をもって考え なくてはならない、名古屋経済圏の機能拡大・分散、中心市街地の 潜在的低下の問題である。生産拠点などが仮に三河などに拡散して も、それを支える高齢化社会等の受け皿になる社会の中心は名古屋 都市圏になる。中心市街地は一度劣化してしまうと復活が難しい。

富が蓄積すれば、それに伴う投資と消費を通じた適切な分配がなさ れる仕組みが必要になる。この仕組みづくりこそが都市経済のデザ イン設計である。

かつては、愛知の中心と名古屋の中心が栄であり一致していた故、 政令指定都市のような二重屋根行政システムでも成り立った。しか し中心が名古屋駅前と三河に分化し始めている状況で、自分に票を 入れてくれた地域だけを肩入れすると、必然的に社会の分断が起き る。

選挙を終えればノーサイドであり、選挙区に関係なくすべての人に 民主意主義の恩恵をもたらそうとした結果、四面楚歌で何もできな かったオバマ大統領と、自分に投票した有権者の利益だけ代表し て、それまでできなかったことを断行するが分断をもたらすトラン プ大統領の時代背景と同じ難しいジレンマがある。

筆者の考えは、そもそも戦前からの行政区、更には政令都市制度の システムの老朽化にこそ問題がある。経済圏はすでに名古屋駅から 中部新空港の常滑、トヨタ企業群の三河のトライアングルを核とし て、三重県、岐阜県三遠南信地区まで拡大している。

この拡大した地域の交流コミュニケーションをとれる行政システム を作らず、各々の拠点が大衆受けするアイデンティティを一斉に振 りかざしたらどうなるか?当然フリクションは起きる。これは地方 レベルの問題ではなく、国土のデザイン設計の問題でもある。

三河から栄をとおり名古屋駅まで30分相当でつながる新都市間交 通システムを作り、三河から名古屋駅までの間で、富の蓄積、投 資、消費の役割分担を行い、人的交流が行われ、経済圏全体の生産 性が上がる仕組みづくりをする必要があった。アベノミクスの好景 気がチャンスであった。

現在トヨタ企業群と名古屋駅を名鉄三河線で40分アクセスを高め る整備が進んでいる。これはこれで沿線開発の波及効果を含めて意 義があることである。しかし三河線沿線と名古屋の栄を通りルート を比較すると、どちらが魅力的な投資・消費機会に恵まれ、経済圏 全体の生産性を上げる期待が持てるか?輻輳して名鉄が栄を通過す るルートは開発すべきである。

名古屋市の若者世代の東京への流出が加速していることが、今や公然とな り始めた。日本中が羨むような雇用を生むトヨタ企業群がありなが らなぜ名古屋の若者が将来の居場所を東京に求めるようになったの だろうか?そもそも愛知は「トヨタのおかげで求人倍率が高い」と いう胡坐をかきすぎていた。

トヨタ三河エリアと名古屋都心部とが交流する生産性に高いハード インフラがない。その結果名古屋の若者がトヨタの製造文化との交 流がなく、関心を持てなくなったと考えられる。このような広域圏 のインフラ整備は、関係する首長の日ごろのコミュニケーションな くして成立しない。

豊田と栄、名古屋駅エリアのエリア間交通システムにより、三河で 進む富の投資と消費の器として名古屋の都心との関係共存が進めば、 若者の世代の生産現場への関心も違ったはずだ。今の若者が将来性 を名古屋に見いだせていない現実をどうするのか?

現況の地下鉄鶴舞線は、各駅停車の交通機関で地域生活の交通シス テムであり、都市間交通の機能を果たしてはいない。現に名古屋か ら豊田までほぼ50分要する。50分は名古屋-岐阜(名鉄)の倍、名 古屋-豊橋間(名鉄)に匹敵する。

前回号のTOKYO DAWNでも書いたが、世界がビック都市東京に驚い ているのは、本来TOKYOはアクセサビリティがないイメージがある が、実は周辺部との都市間鉄道ネットワークの実効性に驚いてい る。名古屋は自動車道路網に特化してきた。自動車に興味を持たな くなった世代が正に今東京を目指す若い世代だ。

今でこそ下火になったが、以前リニアによるネガティブなストロー 現象議論が盛り上がった。弊社は、ネガティブなストロー現象を起 きない。むしろ得をするのは名古屋だという論戦を張った。しかし その前提は名古屋の市場が実効性あることである。

トヨタで蓄積された富が、都心ルートと比較して消費、投資の機会 に恵まれているわけではない三河線を使って名古屋のリニアに直結 すると、それはそのまま三河の富を名古屋を通過して東京にまでも っていってくださいということを意味している。これはネガティブ なストロー効果になる。

名古屋駅前エリアにこれだけの大きな資金が投資されたにもかかわ らず、なぜ名古屋の中心で、商業的魅力も高い栄エリアに投資マネ ーの流入が遅れたのか?これだけ金融緩和を行って投資のファンダ メンタルズが上昇しているにもかかわらず。栄はマネーが素通りす るのではなく、そもそも栄を通る経済基軸が完成していないからだ。

これが栄を通るルートであれば、魅力的な投資、諸費の機会が多 く、同じ東京に行くにしてもトヨタ資本でエンハンスされた人、資 本、物が届けられることなる。これこそが望むべきリニア効果であ る。もう一度リニアのストロー効果の議論を再燃させる必要があ る。

更に問題は、都市のグレーター戦略は都市戦略であってイデオロギ ーではないにもかかわらず、選挙の道具としてイデオロギー問題化 してしまったことも問題だ。都市の広域戦略を語るだけでお前は野 党か?革新か、維新か、国民か?といじられる。

世界は、東京一極集中ではなく東京圏、更には太平洋沿岸メガロポ リスに目が向けられている。世界ではNY、パリ、ロンドン、上 海、シンガポールという旧概念の都市間競争ではなく、中国深?(シンセン)都市 圏、東京から大阪に至る太平洋沿岸メガロポリス、サンパウロ都市 圏などのメガリージョン間競争の時代になろうとしている。

メガリージョンの良し悪しは、核となる都市の優劣ではなく包含され る都市間の戦略的ネットワークである。時代の変化が要求する都市 デザインの進化がついてきていない。それぞれ都市の利益が相反す る時代だ。それをどのように調整しなければならない?首長の能力 次第である。

ヨーロッパでは今ほとんどの政権与党が連立政権である。強いリー ダーシップで強い連立政権を作り上げた国は経済的発展をしてい る。選挙民の利益を連呼するだけでは消えてなくなる「風」と同じ だ。分断を生むのではなく大きな都市間連立を作り上げる首長が求められる。

以上

愛知名古屋都市間交通リニアトヨタ三河名古屋ビジネス情報