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仮想通貨 暗号資産 デジタル通貨

〈2019年7月10日〉

筆者も所属している社会経済史学会という権威がある学会がある。 この学会は、以前は土地不動産を主に研究する学会であった。土地 不動産社会の進化過程がそのまま歴史を刻んでいるともいえる。し かし土地、不動産の研究がいつの間にか歴史になってしまったとも いえる。

最近の経済新聞の表現が混乱している。いわゆるビットコインなど に象徴される現行通貨円に対して新しいネット上の通貨に関する表 記が「仮想通貨」「仮想通貨(暗号資産)」「デジタル通貨」と日々 目まぐるしく変わっている。

当ニュースレターでは、2018年11月にこの表記の問題を取り上げ ている。というのは2018年の日本金融学会全国大会で仮想通貨を 「暗号資産」として表記することが提唱された。以降今に至るまで 全国紙がビットコインなどを「暗号資産」という表記でほぼ統一さ れつつあった。にもかかわらず経済新聞だけが混乱している。

このような混乱をしている状況を整理してみよう。ニュースレター (2018.11.1)の重複を避けるが、これら暗号資産はいわゆるブロ ックチェーンを使って生み出されるデータ上の成果物である。
https://www.kawatu.co.jp/nagoya/kwf/kwf787.html

この資産は金鉱で金が採掘されるように、ハッシュ関数を試行錯誤 の計算で回答を掘り当てる(マイニング)ことによって見出したデ ータ解である。

この有限のデータの解が、金・ダイヤモンド・レアアースかつての チューリップなどのように、投機の対象となれば「暗号資産」であ り、既存通貨に変わる決済通貨機能としてみれば「仮想通貨」であ り、データ上の決済記録としてみれば「デジタル通貨」となる。こ の三つの用途としての期待が混在しているところに、現場の混乱が ある。

現況、様々な話題を呼んでいるビットコインだけを見ても短期間に 乱高下しており、投機の対象と見るケースが多い。その意味では暗 号資産という表記が正しい。現況価値の変動が激しく、なおかつそ れに対して魅力を感じていると暗号資産等言う表記が一般的と言え よう。

しかしその一方で、最近Facebookが仮想通貨“Libra(リベラ)” を開発導入するというニュースがグローバル市場を席巻した。席巻 したと同時に難しいだろうという否定的なニュースがまた席巻し た。それより前には国内の三菱UFJの仮想通貨の開発導入も一時ニ ュースになった。なぜオールドエコノミーのメガバンクが開発に乗 り出すのか?

未来のビジネス取引の決済機能として、期待される先端技術の先鋒 になっているのも事実であり、経済新聞のFTの記者の投稿にもあ るように、既存の銀行の既得権を大きく侵害する可能性も十分にあ る代替通貨であることには間違いがないが、いろんな思惑が入り乱 れている。

当ニュースレターでも前回号まで取り上げてきた、MMT現代貨幣理 論における「非制限支払い能力」機能は、自国通貨あるいは基軸通 貨が持つ特権でもあった。ここへきて円、ドル、ユーロ、元などの イシュタブリッシュな通貨に対する不満が背景にある。規制、コス ト、自由度、リスクなどである。

既存の通貨は国家的信任を前提としている。国家のアンダーコント ロールの効かないグローバルな市場で、新しいビジネスの決済シス テムが出来上がるとどうなるか?通貨の発行こそが国家権威の唯一 無二の象徴であるはずである。それが脅かされることになる。どん なことしてでも阻止しなくてはならないオールドエコノミーがあ る。

しかしいくら阻止をしても、他国で新しい仮想通貨システムが出来 上がり、それが市場を牛耳ってしまい第二の基軸通貨になってしま うと、開発競争にのり遅れ完全に敗者になってしまう。そうならな いようにするためには、オールドエコノミーと言えども仮想通貨ビ ジネスモデルの開発進化を促進する立場になる必要もある。

現状は、このジレンマこそが各国のイスタブリッシュな通貨当局、 オールドエコノミーの立場だ。ビジネスセクターは、仮想通貨のビ ジネスモデルに乗り遅れないように、あるいはイニシアティブをと ろうとアクションを起こす。と同時にそれを阻止しようと、ネガテ ィブなニュースが後追いする。

前述の三菱UFJの仮想通貨開発も同じ立場だ。銀行の既得ビジネス を守るためには不都合な開発であるが、いずれ他社が開発するので あれば、自社も先んじて開発する必要がある。比較が稚拙であるが 石炭が石油に代わった状況と同じ状況かもしれない。

しかし社会の進化の流れは止めようがないだろう。であるならば、 いかにイスタブリッシュ通貨に携わるセクターの権威に傷がつか ず、社会が新しい技術の利益恩恵を享受できるか?がユーザーの望 む着地点だろうか。

GAFAに象徴されるように、自分に有利なプラットフォームを開発 する上で、当然その中での決済機能も、自社に有利なプラットフォ ームにしたがるのは当然だろう。自国の通貨による競争優位あるプ ラット─フォームが既存の通貨の制約がなくなるわけだ。これが Facebookのリベラの意向だ。

通貨というのは、発行主体の権威の信用の象徴である。この信用が 変動することが通貨リスクである。このリスクがない通貨があれば 皆が使いたくなる良貨となる。一方、世の中には悪貨が存在する。 経済理論では健全な自然淘汰が機能すれば良貨が最後に残るとされ る。しかし実務では「悪貨が良貨を駆逐」する。

グレシャムの法則では、表記上の価値が同じであるが、金の含有量 などの違う貨幣があると、含有量の高い貨幣(良貨)がしまいこま れて、悪貨だけが流通する。革新は社会を混乱する。既存の均衡を 破壊するからだ。

リーマンショック以降、金融緩和で過剰なドルが供給された。しか しその一方で、海外の中央銀行の外貨準備高のドル保有率が高ま り、海外の米国債の保有が高まった。その信認で安定した米国は低 金利で政府が資金を供給し、米国民は安い金利で自動車を買い、家 を買い富の蓄積が進んだ。これが自国通貨の信認の恩恵である。信 認が進めばデフレもしくはインフレが暴走する。

社会が、自動運転、ドローンなどで大きく変わろうとしている。通 貨決済の変革も、我々の生活環境、経済活動領域に及ぼす影響は大 きい。経済新聞で起きている混乱ぶりは、まだ当分続くだろうが、 目が離せられない。既存の通貨が威信をなくし、新しい通貨がそれ に取って代われば、国家の威信がなくなり、一気に市場のボーダレ スが起きることもありうる。

最近何度も言うが、筆者も所属している社会経済史学会という権威 がある学会がある。この学会は、以前は土地不動産を主に研究する 学会であった。土地、不動産の研究がいつの間にか歴史になってし まった。通貨、金融の研究がいつか歴史になってしまうことになら ないように祈るばかりだ。

以上

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