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MMT(現代マネタリー理論)を知る

〈2019年6月25日〉

最近ニュースに「MMT(現代貨幣理論)」という言葉が頻繁に登場し ます。今回は経済理論の大きな潮流をその社会背景から議論しま す。経済学部出身の方、あるいは経済理論に興味がある方ぜひ挑戦 してみてください。専門用語を使わずにどれだけわかりやすく紹介 できるか挑戦してみます。

経済理論というと、まず価格をY軸、数量をX軸にとり、左から右 に下がる「需要曲線D」と左から右に高くなる「供給曲線S」が、 交わるところで市場が決まるという「均衡」理論が鉄板である。ど んな学部の講義でも、実務者のセミナーでも需要と供給で市場が成 り立つところから始まる。

経済理論にトラウマがある人は、「需要曲線D」と「供給曲線S」が 出た時点で引いてしまうが、もう少しだけ我慢して前に進んでみて ほしい。

現在の経済理論の議論の時系列上のスタートは、マルクスの資本論 (1867)かアダムスミスの国富論(1776)である。これらの経済理 論の系譜を経て、第二次世界大戦前の経済理論が「古典経済」と呼 ばれる均衡理論である。

市場は需要量Dと供給量Sによって決まるいわゆる市場の均衡で成 り立つ。この均衡状態が生まれることにより市場が適正に機能す る。需要が増えれば供給が増えるが、やがてコストが高くなり商品 の価格が高くなると、需要も減る。

需要が減ると 価格が低くなりある程度まで下がるとまた買いが入 り需要が増える。市場は均衡するという自律機能があり、この自律 に任せておくのが一番効率がいいという考えである。

これに対して政府の財政支出などによる政策は効率が悪く、市場の 均衡を邪魔するだけだから、一切口出しせず黙ってみていればい い。市場は市場に任すのが一番。これが古典経済学の考えであっ た。

ただこの均衡理論では、人は価格を安く買い高い価格では買わな い。需要が増えれば供給を増やすという「正しい行動」をとること が、理論の前提となっている。様々な思惑で安くても買わなかった り、バブルのように高くなればなるほどさらに群がって買いが入る ことは前提としてない。

これに対し戦前から戦後にかけて、ケインズ経済学が登場する。ケ インズは特に労働市場では、通常需要が増えると、労働者は残業を して供給を増やそうとするから賃金が割高になる。しかしその市場 に失業者がいると、いくら需要が増えても失業者を使えば賃金は上 がらない。つまり需要が増えても価格は上がらないと主張した。

つまり失業者がいる市場では市場均衡は機能しないため、失業者が 無くなるまで、政府が財政支出をして仕事を作り、市場の均衡機能 が機能するいわゆる「完全雇用状態」を作る必要があるとした。つ まりこれが有効需要政策であり、現在の財政支出、公共事業投資の よりどころとなっているケインズ経済理論である。

この古典経済理論と、ケインズ経済理論との違いは、政府が介入す るかどうかにある。しかし両方とも市場経済を需要と供給による均 衡によって規律をもたらす均衡理論である。あえて言えば古典経済 理論は短期的な均衡理論であり、ケインズは中長期で均衡を実現す る経済理論である。

ケインズは確かに政府介入は効率が悪いが、市場を均衡させるには 必要という主張であったが、現実に財政支出決定者政権には財政支 出の規律がなく、選挙に乗じて赤字を過大に生じてしまう欠点があ ることは今では周知の事実である。 戦後のアメリカの経済復興、ベトナム戦争で財政支出をしつづけた 結果、1960年代ニクソン時代巨額の財政赤字で経済が行き詰って しまった。

これに対してシカゴ大学を中心に「マネタリズム」が登場する。シ カゴ学派とも呼ばれる。これはフィッシャーの貨幣交換方程式(MV =PQ)を起源に持つ貨幣数量説が代表的な理論である。市場の「貨 幣の流通量M」とその「貨幣の流通速度V」を掛けたものが、「物価 P」に「商品の取引量Q」を掛けたものが等しくなる考え方であ る。

つまり市場の「貨幣量」で市場の「物価」を適切にコントロールす ることによる経済政策である。ケインズ経済理論が財政支出により 均衡を求めるのに対して、マネタリズムは、やはり政府は効率の悪 い財政的な介入をするのではなく、政権から独立した金融当局(中 央銀行)による貨幣量のコントトロールによって市場を均衡させる ものである。

現在、市場で日銀が規制緩和と称して市場の貨幣量Mを増やして、 物価Pを何とか適正水準に維持しようとしている政策がこれであ る。

このマネタリズムは「ケインズ経済理論」に対して「新古典経済理 論」と呼ばれる。ケインズと新古典経済理論の違いは政府介入があ るかどうかにあり、前回の古典経済理論と同様に、ケインズ経済理 論も新古典経済理論も「均衡理論」という点においては同じであっ た。

そしていよいよ近年頻繁に登場する「現代貨幣理論MMT(モダンマ ネタリーセオリー)」である。この理論が登場する時代背景は2000 年以降の、日本の失われた10年のデフレ経済、リーマンショック 後の欧米の現在の経済状況である。

それまでの市場均衡経済政策により、市場は確かに均衡するが、し かしその均衡は成長率の低く、もしくはマイナス成長(デフレ)で 均衡してしまう状況である。「均衡する」と言われるのではなく 「均衡に陥ってしまう」と呼ばれ、そんな均衡はそもそも意味がな く、目的としていけないものであった。

結論から先に言えば、そんな望まない均衡から抜け出す必要があ る。「均衡」の反対は「拡散」である。いうなれば拡散で低い均衡 を壊すためのことが求められた。具体的には中央銀行で貨幣を刷り 続け、ヘリコプターで空からまき続ける。政府がどれだけ赤字であろ うが財政支出をやり続けると市場にコミットメントする。等々。

つまり均衡があれば価格が高くなりすぎず、低くなり過ぎないとい う規律がある。しかし逆に言えばその均衡あるために、低い均衡か ら脱することができない。ならば均衡を破壊して拡散させよう。イ ンフレ目標2%まで拡散し続けようという政策である。これがMMT である。いうならば反均衡魔法、失礼言葉が滑ってしまった反均衡 理論である。

このMMTにより、財政債務が正当化されつつある。これは非常に大 きなパラダイムチェンジである。この変化だけで大きなバブルが生 じてしまう可能性がある。インフレが起きるまではどれだけ債務を 増やしてもいいと言っているわけだから。今までの規律がなくなり 暴走する(拡散する)ことになる。ただこの理論にはインフレにな った後のことを議論されていない。インフレになった後、膨大な債務 (国債)が暴落するリスクがあることを。

従来「拡散」という概念は霧散して消えてなくなってしまうことを 意味し、決していい意味では使われなかった。しかし「均衡」に対し て「拡散」という言葉が今、社会で非常に増えてきた。特にネット 社会、ネットビジネスにおいて市場の拡散現象が多く登場してき た。

一昔前、「今年の冬のファッションは赤色が流行る」と言ったニュ ースがよく聞かれた。これを受けて、アパレルの小売店は赤い衣料 を中心に品ぞろえすれば、多くの客が買いに来て概ね商売は成功す る。つまり市場が、特定の赤色商品に収束する均衡市場であったわ けだ。これを「パレート市場」と言った。

しかし現在ネットビジネスにおいては「ロングテール市場」と呼ば れる、末端に広く拡散する市場を形成している。以前ではだれも知 らなかった地方の特産物がネットで大ブレークする。末端に希少商 品にまでニーズが拡散する市場である。

情報が特定のセクターに保管され、その保管されていると言うこと がその情報に価値をもたらした社会と違い、今は情報が拡散すれば するほどさらにその情報が価値を持つ。その情報の真偽は関係な い。

均衡する市場から拡散する市場に移行することによって、従来のオ ールドビジネスモデルが衰退し、新しいビジネスモデルが隆盛して きている。小売では百貨店が衰退し、都市では局所の中心市街地が 衰退し、ネットビジネスのAmazonが隆盛し、拡散する大きな市場 を支配する勝者はますます力を拡大する。

それまでのイスタブリッシュの一部が大衆化し、拡大した大衆は ますます大きな力を持つ。今ポピュリズムの台頭という現象が起きてい る。これらはすべて均衡から拡散への移行に伴う社会そして市場の 変革である。

今新たに、社会で新しい議論が登場してきている。統計上の「有意 水準」である。医療の現場で「この薬が効く、効かない」。その政 策は「効果がある、無い」。その歌は「流行る、流行らない」。この 商品は「売れる、売れない」。あるいは社会で概ねそれは「正し い、正しくない」。という線引きを行うのに、統計学上の仮説(帰 無仮説)を立ててそれが有意かどうかで決める。

この有意水準の一つが「5%」である。ある事柄が正しいという仮 説に対して、それを否定する帰無仮説が5%以下ならその仮説は統 計理論的に正しいと結論付ける考え方である。さらに厳しい1%の 有意水準というのもある。

この伝統的な5%の有意水準に対して、科学の学会から疑問が出て いるのである。5%は線引きでしかなく、それが真実ではないという 指摘だ。最近、権威のある科学誌ネイチャーで取り上げられたこと で一気に議論に拍車がかかってきた。

弊社も以前から疑問を呈してきた。昔のように株取引が「場立ち」 と呼ばれる仲買人との間で、手書きの売買注文がなされていた時 は、一時間に成立する株取引はせいぜい数百、数千、多くても数万 程度である。

しかし現在は、人ではなくコンピューターがアルゴリズムによるハ イスピード注文をだす。証券取引場の取りき処理コンピューターが シャットダウンしてしまうほどの億単位の取引量である。昔と、今 で一言で5%と言っても膨大な絶対量が違ってきている。

株取引で生じる異常な高値の取引が5%以下であるとしても。今と 昔ではその絶対量が全然違うことになる。この5%を基準にしてバ ブルが生じる、100年に一度の株価の乱高下が生じると言って、日 常的に大騒ぎをしている。

これもそもそも均衡しない社会、拡散する社会になって、統計的線 引きの基準が同じではおかしいだろうという指摘だ。

さて議論が収束せず拡散してしまったが、時代の流れとしてお許し 頂きたい。経済理論に話を戻せば、経済理論はその時代時代の社会 状況を反映したものに常に変化しているわけだ。理論、概念が変化 しているのであれば、その変化を支配しているものは何か?

ここしばらくは、コンピューターの処理能力、計算能力が大きく世 の中の変化を支配しているのではないだろうか。計算能力、記録能 力が拡大したことによって、社会、市場のスペックが変わってしま った。つまり今世の中を支配している理論は、伝統的な経済理論。 社会哲学ではなくコンピューターの計算速度の法則である「ムーア の法則」ということになる。これもまた極論である。

以上

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