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主宰:川津商事株式会社
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レオパレス:リスクを移転する不動産投資市場

〈2019年6月20日〉

世界中で金利が低下し始めた。ファンダメンタルの成長が停滞し始 めたことになる。世の中の学者、エコノミストのほとんどが金利が 上昇することをリスクという。金利が高くなることは確かに「脅 威」だ。しかし弊社の考えは、成長つまり利益が低下する状態は脅 威だけで住まず「壊滅打撃」を受けると考える。

このことを書いた拙著が2008年リーマンショック直後に出版した 「リスクを移転し始めた不動産投資市場」(清文社)である。リー マンショックを引き起こしたサブプライム住宅ローンバブルは、ま さにリスクを移転したことによって生まれた金融バブルであった。 このバブルがリーマンショックで収益を落とした時、本当の破綻を 呼び込んだのである。

現在ではだれでも知っている言葉、不動産資産の「証券化」の本来 の意味は、リスクを移転することである。不動産保有の本質は収益 を得ることでありそれはリスクをとることである。このリスク(収 益)を取れない投資家のために、証券化によって市場で売却する。 これはリスクが減少することではなく、市場で拡散すること意味す る。

リスクを移転する社会的意義は、何らかの理由でリスクを取れず成 長できない市場(投資家)があるとする。例えばリスクの高い人た ちの住宅市場サブプライム住宅ローンである。その市場のリスクを 他のリスク許容力のある市場(金融市場)に移転することによっ て、その市場の成長を促し全体の市場の成長を促すことにある。こ れが2007年の米サブプライム住宅ローンバブルであった。

リスクの移転はリスクと取れない人(市場)から、取れる人に対価 を払って引き受けてもらうことでもある。しかし間違えていけない のは、決してリスクが消えてなくなるのではなく、市場全体のリス クは変わらない。

しかし市場は勘違いして、リスクを移転することによってリスク負 担する必要のなくなった部門で、リスクを増産してしまう。米サブ ププライム住宅市場で作られたリスクは、リーマンブラザーズなど 金融機関によって金融工学の手法を使い証券化され、リスクが金融 市場全体の拡散・分散された。

当時の金融バブルにより、リーマンブラザーズは証券化された金融 商品バブルを作り、金融商品を大量に販売するために、サブプライ ム住宅市場もっとリスクを移転するように要求した。2007年秋、 リスク製造工場で作られたリスクをグローバル市場に移転した続け たリーマンブラザーズが、バブル破たんの引き金となる。

日本では、昔のアネハの耐震構造計算偽装疑惑問題から、最近のレ オパレスの建築基準偽装疑惑に至るまで、相変わらず不動産投資市 場は行儀が悪い。これらのビジネスモデルの多くは、リスクを本来 取れない個人投資家に対し、リスクを移転させリスク負担を軽減さ せることによって投資を促進させるものだ。

何度も言うが市場全体のリスクアッ減らない。しかもそのビジネス モデルがいかがわしいものであった。偽装リスク移転ビジネスモデ ルを信用して製造し続けられたリスクは、市場の拡散し、市場のリ スク許容量を超えるとどうなるか?破たんである。

前置きが長くなったが、二つの論点を議論したい。リスクを移転し ようとした投資家サイドの問題と、リスクを移転する仕組みを作り 上げたビジネスモデルサイドの問題である。

これは特定のデベロッパーの議論ではない。しかし昔から「ドアベ ルをピンポンと鳴らすと向こう三軒両隣の人が、ハイと言って出て くる」と言われる安ブチンの投資アパートがあった。我々がこの投 資案件の相談を受けると、リスクが大きすぎることを説明する。

普通のリスクが取れない大家業一年生なら、トップクラスの積水の アパート建築とまではいわないまでも、建築リスクの少ないアパー ト投資を進める。もし30年以上の市場価値を維持できない安ブチ ンで、35年もの長期アパートローンを組むことは、あり得ないか らだ。

しかし、やめなさいとアドバイスすると、その多くは姿を消す。ヤ スブチンアパートに手を出す人ほど、聞く耳を持たない方が多い。 逆に、まるで自分の投資を邪魔する悪徳不動産業者のような言われ 方をされる。彼らは同情されるべき被害者ではなく、分不相応なリ スクをとって失敗した投機家である。

積水、ダイワ、パナなど上質な分、高コストの建築リスクの低い投 資を行った投資家と、ヤスブチン投資に走った投資家は当然リスク 負担において区別されるべきである。何かあった時、応分のリスク をとる必要がある。自己責任である。そうでなくては市場のリスク テークの原則をゆがめてしまう。これが投資家サイドの問題だ。

一方ビジネスモデルサイドの問題はどうか?最近、以前のパナホー ムを吸収したパナソニックが、住宅部門でトヨタホームとミサワハ ウス連合軍とを合わせて新しい住宅会社をつくるニュースが市場を 驚かせた。

いったん統合したパナホームを、なぜパナソニックはオフバランス すのか?多くの方がなぜかと不思議がった。レオパレスに限らず日 本の大手の住宅ハウスメーカーの多くが、アパートを建築して投資 家の販売してきた。

そしてその多くが、投資家に、長いもので30年にもわたる賃貸入 居の何らかの保証、あるいはそれに代わるインセンティブを付与す る、販売をしてきた。つまり投資家から移転した空室リスクを引き 受けているのである。これらのリスクテークは、企業のブランド価 値・資本力が担保となっている。

パナソニックのようなグローバル企業になると、厳しい会計基準に 照らし、この様なリスクを引き受けるビジネスモデルのリスク評価 を明確にする必要がある。つまり本体のパナソニックの財務内容を 悪化させる部門であったわけだ。そこで住宅部門をもう一度オフバ ランスさせる必要があった。

つまり現状の日本では、大小に関係なく多くの住宅ハウスメーカー が、アパートビジネスでリスクを引き受け、それらを曖昧に保管し 続けている。しかしパナソニックは厳格にそれを嫌ったのである。 企業方針が非常に明確な戦略として、それはそれとして評価される べきかもしれない。

バブル経済不動産業ビジネスから、今の不動産投資ビジネスは非常 に進化している。その技術の多くがリスクを移転、分散、軽減する するマネジメント技術である。しかし移転、分散はリスクをなくす 技術ではなく、あくまで移転するだけである。市場全体のリスク許 容量を超えれば、市場全体が破たんする。

ちなみに移転ではなく、リスクを軽減するビジネスモデルの典型 が、質の高い専業大家業である。面倒見のいい大家は空室率を下 げ、滞納リスクも低くなる。江戸幕府が終わり、大名屋敷を長屋ビ ジネスにした時代から今に至り迄、変わらない不文律である。

リスク移転の技術をリスク軽減と勘違いすると、大きな間違いを起 こす。リスクはリスクである。リスクを取れない人が大きな投資を したり、リスク移転ビジネスで見かけ上の利益をあげたりする。そ こに市場の規律が無ければ市場は破たんする。

以上

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