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主宰:川津商事株式会社
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名古屋BCオフィスビル、空室率1%台の警告

〈2019年5月15日〉

少し前の日経新聞紙上の論評で、AIのロボット待望論を批判して 「AIが東大を受験して受かるのか?」と書いていたが、逆にAIで しか受からないのではないかと下種の勘繰りをしてしまった。最近 のAI論議を見て懸念するのは、「アンチAI=人間性」みたいな議 論である。

英字新聞に、オランダの不妊治療の医師がドナーからの精子の代わ りに自分の精子を使った結果、明らかになっただけでも49人の子 供の父親になってしまった。この医師は2017年にすでに死んでい るという記事があった“Fertility clinic doctor fathered 49 children”。これから起こりうる事件ではなく既にあった事件だ。

表題の件、以前名古屋のビジネス市場のオフィス空室率が異常に低 下している話題を取り上げた。オフィスの仲介業者である三鬼商事 のレポートを参考にした空室率である。今回はもう一度深く掘り下 げたい。

今回、日本不動産研究所の「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予 測(2019-2025)」が公表された。とくに名古屋の空室率が非常事態 警報ともいえる異常値を示している。仔細は日本不動産研究所のホ ームページを訪問していただき、空室率とは?予測の推定の仕方等 を勉強していただきたい。

このデータによると2010年初頭が10%台。2010年半ばが平均 大体7%前後、今年が1.9%になっており、今後2022迄1%台前 半にまで下がるとしている。そして2025年まで2%台が続くと している。

空室率は、今のようにデータが精緻で無かったころの以前は、5% を割り込めば需給が逼迫して賃料が上がる、5%以上になれば賃料 が緩むという一つの業界用語があった。

しかしこの5%にはデータによる裏付けがなく、ある意味業界用語 であり、特に学者先生たちからは「都市伝説」とされて軽視されて きた指標である。しかし三鬼商事はじめ、今回の日本不動産研究所 など実務に近いシンクタンクは、非常に重要視している指標の一つ だ。

我々実務者も非常に重要視しているデータの一つだ。前のニュース レターでも取り上げたが、この指標を勘違いしやすいのは、空室率 が下がると賃料が上がり、空室率が上がると賃料が上がるという錯 覚である。

確かに賃料水準にリンクしているのは事実であるが、極端に下がり 始めると、新規需要だけでなく、スペース拡張、あるいは様々な理 由による借り換えの障害となり、市場の経済活動を止めてしまう弊 害が起き、市場を硬直化してしまう非常に重要なリスクとなる。

これは、最近問題視される住宅の空き家率13.5%と同じ間違いで ある。人の社会生活では必ず様々な理由で転居がある。そこで、転 居先にタイミングよく空き家が無いと転居ができない。人の移動が 止まってしまう。そうすると社会も停滞してしまう。社会活動には 適切な空き家率が必要になる。これを無視して13.5%が異常だと いう議論は、全く素人以下の間違いである。

オフィス市場もおそらく空室率が2%前後にまだ下がれば、オフィ スの移動・転居・借り換えに支障をきたす。これが理論経済の言う クズネック循環景気で起きたのであれば、理論的な整合性がある が、2000年にJRのセントラルタワーズができた以前のように30 年以上新しいオフィスビルができない状態で、需給バランスが均衡 している状況は市場が「長期停滞均衡」に陥っていることになる。

人が就学・就職で転居したくても適切な空き室がなく、その結果希 望の就学・就職を諦める停滞した社会を想像してみてください。そ の結果移動需要も名目上なくなってあたかも需給が均衡しているよ うな状況である。新規供給がないから新規需要もなくなり、市場が 硬直化して停滞均衡状態になることを意味している。

オフィスの需要面積と、現況のオフィスの面積が一致すれば市場の 均衡状態になるという考えは間違いである。オフィスはビジネスの 器である。ビジネスは常にその生産性を高める器を求めて移動す る。この移動が適切に起きる需給関係の均衡こそが、不動産市場の 均衡である。

前回取り上げた三鬼商事のレポートも、今回の日本不動産研究所の レポートも名古屋は新規供給がないという結論を出している。つま り新しいオフィスビルが今後供給されないことを問題視している。

名古屋駅前の東京資本による派手な大型再開発に、市場が十分機能 していると皆が勘違いしてしまっている。これらは東京資本による 東京ビジネスの生産性を高める器である。東京企業のビジネス拠点 となっている。名古屋資本の名古屋のビジネスを高める地元資本の 再開発が全く登場していない。

名古屋は東海銀行なき後、地元資本をファイナンスする金融機能が 欠落してしまった。5億円から10億円前後の地元資本の再開発、 ビルの建て替えをファイナンスする金融機関がない。

再開発は、デベロッパー、ファイナンス、都市の管理者が一つにな って取り組まないと進まない。こういった構造的な問題が、地元地 場資本のオフィスビルの新規供給を止めてしまっているなら、構造 的な停滞均衡に陥るリスクがあるわけだ。

「実効性ある市場では新規供給が新規需要を創造するのである。」 これが不動産経済理論の不文律であり、弊社の格言でもある。この まま地元資本の再開発が供給をされなければ、やがて名古屋の都市 経済が長期停滞均衡期に入ってしまう。市場が警報を発している。

以上

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