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主宰:川津商事株式会社
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今年の不動産ビジネスを象徴する東京の地面師問題

〈2018年12月15日〉

今年、不動産業界の象徴的な問題であった東京で起きた地面師問題 を考えてみたい。運が悪いのか、幸いなのか不動産業界最大手の住 宅メーカーが地面師詐欺により63億円だまし取られたことによ り、東京の地面師問題が大々的にマスコミに登場した。

一般の人たちは、この「東京の地面師」問題をどのように受け止め たのだろうか?東京で仕事をした経験からこの地面師問題を少し掘 り下げてみたい。

私どもは、話題の裏ネタによく「東京は詐欺師ばかり、名古屋 は・・・、大阪は・・・・ばかり」という言い方をして笑いをとる ことがある。これは公の場で言える話ではないが、結果的に地面師 問題が顕在化したことにより「東京は・・・ばかり」という言葉の 裏付けがなされてしまった。

分かりやすく言えば、東京をご存知の方にしてみれば、今回の地面 師問題はそれほど驚く事件ではない、よくある問題ということだ。

東京の不動産ビジネスの原風景を紹介しよう。景気の紆余曲折はあ っても、東京は戦後一貫して東京一極集中により日本中の富の集積 が起きている。したがってファンダメンタルズとして成長し続けて いるエリアだ。

そこで、バブルのような過熱景気では、良い不動産物件なんか簡単 には出てこない。と言っても今回の事件にあるように、老舗の何と かの跡地であるまとまった大きな物件が継続的に出てくる。

当然地方から比べて、地価の単価が違うため大きな商談となる。例 えば、ある売り物件が出たとしよう。普通で考えると当然、売主に 対してその売り主から正式に依頼を受けた不動産業者が一社そこに 介在するはずである。

しかし東京の不動産ビジネシーンでは、その物件に対して私が取り まとめ役ですという正規に依頼を受けた業者以外に、非正規業者が 5社ぐらい一斉に私が取りまとめることができますとばかりに手を 挙げだすのである。

誤解の無いように言えば、この非正規である5社には、正式な免許 を持った一流の不動産企業・大手銀行もいれば、他に必ずしも不動 産業者ではない様々な士業、金融ブローカー、得体のしれないフィ クサーも登場する。

この時点で、これら得体のしれない非正規業者各位がめでたく詐欺 師となる。が、しかし・・である。ここからが東京ビジネスの始ま りでもある。この非正規業者が一斉にこの物件をもって、私が取り まとめをすることができると言って買い手を探し始める。

一方、正規専任業者も正式なルートで買主を探して順調に売買の話 をすすめる。そこへ非正規業者がこの正規業者のもちこむ売買価格 より高い値段で取引を持ち込むのである。正規を壊しにかかるので ある。そもそも不動産売買に縁のない売主に至っては、口のうまい 相手に対してだれが信用出来て、出来ないかは明確ではない。

しかし一方で、仮に売価が坪単価10万どころか100万円と高く、 土地が500坪もあれば、それだけ総額で1億円以上簡単に変わって くる。およそ事業をたたんで不動産資産を売却しようとする売主で あれば、相手がだれであれ1億円以上高ければ、そちらが市場原理 で取引すべき正しい相手のように思えてくる。売主が選任を切って しまえば済むことである。

かくして非正規、正規業者のバトルは一変して、高値の取引を持ち 込んだ業者が正規業者となる。ほとんどオセロゲームみたいなもん だ。白と黒が目まぐるしく変わる。宅建業で専任媒介人が担保され ていても、その便益が市場に貢献していないと言わざるを得ない。

しかしここで更に質の悪い輩が入ってくる。本来非正規の業者でも 10万円高い買主を連れてこれば一転して勝者になるのだが、実は 高い買主がいるようなそぶりで売主から正規のポジションを勝ち取 り、そこから改めて買主を探そうとする輩がいる。壊し屋と言いわ れる類の連中だ。

今、どこかの大国の大統領のビジネススタイルがこのタイプと言わ れていた。さらに悪い奴は、買主を探せれない輩もしくは探し気が ない輩だ。彼らはなんとか手付金だけでも奪い取れないかと考え画 策しだす。ここから先は偽造、なりすましの完全な犯罪行為だ。こ ういった犯罪行為の手練れが簡単にすぐ集まることができる都市が 東京である。

幸いなことに地方には、それだけの手練れはいない。せいぜいハリ ウッド映画のオーシャンズ11を見て感心する程度だ。誰しもが狙 っている物件に目をつけて、彼らが初めから、だまして手付金、売 買代金をだまし取ろうと犯罪を計画すると、今回の東京で起きた地 面師事件になるわけだ。

しかもこの様なビジネス風景は最近に限ったことではない。1990 年代のバブル時代、筆者が名古屋である開発物件を手掛けた時に、 その建物の屋上に広告塔を募集した。もちろん立地の良い案件で、 呼びかけにトップクラスの広告会社から、二流、三流の広告会社ま で多くが訪ねてき、挨拶を受け名刺交換した。

しばらくすると、東京からこの開発の関連するゼネコンからクレー ムが入った。私が大型開発案件を5件も6件も開発するような大風 呂敷を広げているというものだ。そしてこのゼネコンがすべて開発 を受けたということになっているとのことだ。

つまり、挨拶を受けて名刺交換しただけの東京の業者4−5社が 皆、自分がこの開発の媒体探しを正式に任されていると言って回っ ていたわけだ。このケースも確かに詐欺か?となるが、単に名刺交 換しただけでなく、それで本当に営業しているわけだから、それで 良い話になれば、ビジネスとしては有りだろうという考え方が成立 してしまうわけだ。

正規でも依頼主を満足させられなければ非正規になる。事、左様 に、多くの様々な輩からビジネスプレーヤーまでが混在する東京市 場で、日常茶飯事で起きているチンドン劇の一コマが、今回の一流 住宅メーカーをも巻き込んだビジネスシーンということになる。

やはり名古屋のような田舎から見れば、東京は異常と考えるべきだ ろう。だけど、それは上海、ロンドン、LA、NY、パリどこでもおそ らく同じシーンではないだろうか。それが大都市だろう。

以上が前置きであるとしたいが、以降はむしろ蛇足である。 このような市場の混乱の原因は、やはり宅建業法の古い専任代理制 度にもあろう。昨今のように市場原理で過度の競争原理が働く中で は、今の制度のように業者への依頼の仕方の公明性の追求ではな く、むしろ価格決定、売主買主のマッチングの社会的公明性のほう が市場ニーズになっていると考える必要がある。

もしそうであるなら、市場の変化に制度が追い付いていないのが問 題である。AIによる公的なマッチング制度、価格のビットあんど オファーの市場の開設などが必要なのかもしれない。もちろんそこ では今の不動産ビジネスプレーヤーはすべてお払い箱である。

以上

地面師東京一極集中専任媒介制度