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主宰:川津商事株式会社
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国際基準と不動産価格

〈2018年10月15日〉

全銀協が、銀行為替送金の24時間稼働を解禁にした。いよいよ営 業日のボーダーレス化が始まる。企業会計では、逆に決算期にどこ かで線を引かないとかえって煩雑になるという。そもそも「線」と いうのは人が作るものであるが、有っても不便、なくても不便な概 念だ。

前々回号で、のれん代の強制償却が国際会計基準に基づいて始まる 話題を取り上げた。先ごろまで日経の経済教室で国際会計基準の解 説が連載されている。この国際的な基準という意味において、不動 産に関して以前非常に大きな動きがあったことをご紹介しよう。

以下に紹介するステーツメントは、国土交通省からの通達(2012 年8月22日)である。グローバルスタンダードによる新しい住宅 指数の運用を説明している。

2007 年の米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住 宅融資)問題に端を発した世界各国での金融市場の混乱は、 2008 年のリーマン・ブラザーズの破綻により世界的な金融危機 へと発展し、さらに実態経済にも危機が拡大した。

また、ヨーロッパではイギリスやスペイン等で2000 年代後半 以降不動産バブルが崩壊しており、現在のヨーロッパの経済危 機の一つの要因となっている。現在の金融・経済危機は、不動 産バブルの問題により危機が表面化し各国へ波及したが、これ は、不動産価格の変動に関する情報が不十分で、既存の物価指 数では不動産の価格変動を適切に把握できなかったことが危機 を拡大させた要因の一つと考えられている。

このため、不動産価格の動向を、国際共通指針のもとで迅速か つ的確に把握する必要性の認識が各国において共有され、2009 年には、国際通貨基金(IMF)等からG20 諸国に対して、不動 産価格指数(住宅)を公表することの勧告が出された。

 このことから、IMF やEurostat(欧州委員会統計局)を中心とす る多数の国際機関や日本を含む各国の有識者が協力して、2011 年 5月に不動産価格指数(住宅)の作成に関する国際指針 (Residential Property Price Indices Handbook)が作成され た。G20諸国は、この国際指針に従って指数の整備を進めてお り、主要先進国等は2012 年までに運用を開始することを予定して いる。

この通達はリーマンショックを契機にした内容であるが、これを日 本のバブル経済で書き直すと以下の通りになる。

1990年のバブル時に物価指数で市場をコントロールしようとして いた日銀が、当時の資産バブルを把握できなかった。これは一般的 な物価指数に資産指数がもりこまれていなかったことによる。その 後当時のバブル検証の責任問題でそのことが学会などでも指摘され ている。

しかし当時を含め、今に至るも市場実勢を厳格に評価する資産指数 が無かったことにも原因があり、それがすべて日銀の政策の失敗に するのも酷な話だ。だが残念なことに、日銀の政策は当時の失敗の トラウマからか、今をもって政策に資産価格を深く盛り込むことを 避けているようにも見えるのが残念である。

というのはアメリカのFRB議長が市場と対話する議長談話(日銀談 話と同じ)では、住宅価格の動向には、必要に応じて物価指数より も多く言及し、政策の重要な指標と位置付けられている。日銀はこ れに及び腰である。その理由も、いまだかつて信頼(市場性)でき る資産指数が日本にはないことも一因している。

日本は、以前より不動産鑑定(アプレイザル)制度による地価の指 標(地価公示、路線価、基準値)がある。海外では、謄本記録制度 に基づくこれほど精緻なデータはない。しかし問題は、鑑定制度は 国からの補助金事業で官製価格と海外から指摘される点である。

グローバルスタンダードは、市場原理に基づくものであり、官のバ イアスは排除されるのである。誤解のないように付け加えると、市 場は国の思惑を排除した公明な評価を求めるという点でバイアスを 排除することは有っても、わが国の租税制度に基づく課税評価基準 制度自体に文句言われる筋合いはない。

国が必要とする税金の徴収基準に、国が定める官製価格が用いられ ることは、何ら問題はない。話を戻すと、この国際基準で求められ た価格指数は官製価格と違うところは、思惑を排除した住宅の販売 (取引)実価に基づく理論値である。 理論値とは、国際基準でも最初に規定されてくるヘドニック法或は セールスリピート法である。誤解の無いように言えば国際基準にア プレイザルも出てくるが、日本の官製価格を示したものではない。

上記の国土交通省の通達に出てくる国際基準は、市場価格を厳格に 評価しないと、バブル破たんが生じ大きな損失になるという前提 で、市場評価の厳格を求める統一基準である。

ヘドニック法とは、価格を決める住宅様々な変数(築年数、間取 り、階建て、立地、グレード・・・)の実勢価格のデータを集積 し、基準となる住宅価格を求め、その時系列で変化を示す価格であ る。

セールスピート法は、もし同じ家が毎期繰り返し売買されると、そ の変化はそのままその地域の価格指数になる。しかし同じ家が毎期 売買されることはない。したがって、時々繰り返し売られる住宅の データを集め、理論的に毎期売られる価格を推定してその変化を指 数とする。

日本では、宅建業者の団体の東日本レインズのデータを使いセール スリピート法による住宅価格指数が作られ2012年から試験運用さ れてきた。現在2012年からさらに10年さかのぼって国土交通省か ら指数が公表されている

ここで少々疑問に思う方が出るだろう。なぜ東日本レインズなん だ?と。要は、理論的に毎期売買される住宅価格を推定するにも、 その基となる事例がやはり多くなくては精度が劣化してしまう。悲 しいかな東日本レインズ以外では、信頼がおける十分な事例が集め られず、なかなか採用する体制が取れなかったのである。

かつて、CBREと三菱信託銀行が開発した日本で最も老舗で信頼の あったマクベスという投資インデックスがあった。筆者が出筆した 実務書のすべてはこのマクベスを使っていた。しかし2012年をも っとこれらの会社による運用を停止してしまった。

理由は、マクベスが鑑定価格である地価公示をベースにした指数で あったからである。それくらいこの2012年の新しいグローバルス タンダードの指数への移行は市場にインパクトを与える出来事であ った。グローバルスタンダードを国是とする日本としても、いくら 鑑定制度が秀でても無視できないわけだ。

それゆえ、鑑定制度の総本山である、国土交通省が先頭を切ってこ の国際基準の指数の試験的運用に乗り出したわけだ。あくまで国内 の課税標準の指標を温存し、同時に市場指数の開発を目指してい る。この両刀使いの方向性には間違いはないと筆者も考える。

しかし現実には、日本で今をもって新聞報道されるのは必ず地価公 示、路線価、基準値の鑑定価格である。理由を二つ上げておこう。 一つには市場の情報ツールであるマスコミに、市場原理に対するリ テラシーがないこと。もう一つは新しい指数がまだ信頼できない、 実効性が無い点が挙げられる。

グローバルスタンダードを標榜したい日本と、日本固有のガラパゴ スとの齟齬となってしまっている。まさにダブルスタンダードだ。

以上

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