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主宰:川津商事株式会社
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長期金利上昇トレンドの反応

〈2018年8月5日〉

社会主義は独裁者がすべてを決めるのに対して、民主主義は国民に 主権がある。これが民主主義が優位とされる根拠だ。しかし民主主 義では、民意という大義があれば、富にあずかる者以外に富に至ら ぬ者がどれだけいようが構わない。

経済が成長さえしていれば、富を得ることができなかった者も次の 機会に得るであろうと期待がもてる。しかし経済成長が止まり縮小 すれば、今、富に至らぬ者に将来はない。民主主義は得るものと得 られない者という不公平を生むのに対して、社会主義は少ないなら 少ないなりに皆等しく配分されると期待される。この様に考え出し たのが、アメリカの民主党の若い支持層だそうだ。

日本を含めたアジアの歴史は、専制君主制もしくは中央官僚性から 民主主義に舵を切り始めた。等しい分配が前提で、近年になり民意 の優位が進んできた歴史である。欧米は逆で市民革命、独立戦争で 獲得した民意が前提で、今その修正に悩んでいる。今起きている米 中の貿易戦争はまさにその代理戦争だろう。以上前置き。

日銀の長期金利高め誘導は、想像以上に市場が過剰な反応を示して いる。前々号のニュースレターで取り上げたが、本来は長期金利が もっと高くなくてはいけなかったものが、今まで政策的に低く抑え られてきた。だから金利上昇自体が問題ではない。

問題は、金利上昇に対する市場の耐性力である。以来数日の間、い ろんな銀行の担当者と話したが、行きつくところは、まず今の市場 が、金利上昇に対するリスクヘッジの手段が極めて脆弱なことだ。

一般の人には難しいかもしれないが、金利上昇に伴って今、実はス ワップ金利も急上昇している。スワップ金利は変動金利と固定金利 を交換するスワップレートである。おそらく、今、大手企業におい て、変動金利が急速に固定金利に変更されている様子がうかがわれ る。

しかしこれは一部の大企業、大口融資に限られるであろう。個人・ 中小零細の少額の融資に関しては限られている。それには様々な障 害があるからだ。公的な制度融資であったり、銀行のプロパーで も、様々な資金ポジションの関係で借り換えがスムーズにいかない ケースが多い。

更に10年固定金利などを採用している融資は、その10年明けの将 来の金利ヘッジをする手段が実効性ない。キャップなどのデリバテ ィブ金融商品のヘッジコストが高すぎることある。

ここ数年、市中銀行が35年アパートローンのような非現実的な融 資を増やしてしまってきた。35年アパートローンには非常に大き な問題がある。個人の35年の住宅ローンは、住宅価値の劣化と比 較すると必ず35年の期中、大体20年前後で債務超過に陥る。

それを補うために、所得の年功序列制を定着させ所得増で住宅劣化 を担保し、借家法などを維持し市場での住宅の流動性を極めて低く して住宅の市場性をなくし、更に生命保険などで担保した。これら 市場の規律をゆがめる様々なファイアーウォールを設置して、35 年にわたる住宅融資の保全を図った。

それに比べてアパートは一般住宅より市場性が高く、賃料収入が劣 化すると債務超過に陥り破たんする。住宅のような35年のリスク を担保する方法はない。35年の長期リスクを理解しているのは個 人ではなくプロの金融機関である。個人にリスクの説明をした、し ないの問題ではなく、35年長期リスクそのものに問題があると言 わざるを得ない。

弊社は、20年以上のローンが必要となるアパート投資は、途中の 出口がない限り、プロであってもリスクが高すぎると考える。結論 を言えば20年以上のローンを要する人にはそぐわない投資であ り、もちろん融資もなされてはいけない。20年以上のローンのア パートの大量供給により、賃貸市場も破たんしかねない状況だ。

個人もしくは高齢者である以上、35年アパートローンが破たんし た場合は、本来融資責任が問われても仕方がない危険なものだ。そ れを大量に相続対策として素人の個人に金融機関がクレジットして しまった。

この問題は、現在そのリスク説明を怠ったという一部のデベロッパ ーを血祭りにあげることで、35年アパートローンを実行した融資 金融機関も被害者であるというシナリオがえがかれている。そも そも今の第一線の銀行マンが低金利世代だ。金利上昇が全く想定 されていないビジネスモデルであったわけだ。

2012年まで、失われた10年、20年と言われだれもリスクをとるこ とができなかった。それを異次元の金融緩和で市場のあらゆるリス クを政策的に低減してきた。その効果はあったが、その副産物にい よいよ直面しつつある。金融緩和時代の副産物と言えばそれまでか もしれない。やはり金融の規律が如何に重要かということに行きつ く。今後日本の金融の歴史の中で評価されることである。

アメリカでは、1970年代、金融自由化に伴い、貯住宅融資に特化 していた蓄組合S&Lの多くが、絵画から教育ローンにまで融資を拡 大してバブルを生じさせた。このバブル破たんの処理として大量の 公金を投入したのに対して、融資責任を問われた大量の銀行関係者 の検挙がなされた。

ところがそのアメリカでも、2007年のリーマンショック処理にお いては、金融機関関係者の検挙はほとんどなされなかった。リーマ ンショックでもサブプライム住宅ローン会社を血祭りにあげて、ア メリカの大手投資銀行は被害者側に回った。これが今の金融の世界 のトレンドでもある。

市場では、不景気時にはネット6-8%の利回り投資物件でも誰も手 を出さない。しかし景気が改善し、金融規律が緩み始めると5-7% の物件にまで買いが広がる。さらに景気が回復しそれを後押しする 金融がさらに緩むと4-6%の物件でも買いが進む。

さらにバブルが過熱して、投資意欲が進むと3-5%の利回りしかな いものにまで買いが進む。しかし金利が1%前後であればそれでも イールドは取れる。今の東京の市場がこの状態である。

市場の名目金利の構造はリスクフリー+リスクプレミアムである。 このリスクフリーが長期金利である。市場でリスク感が高まるとリ スクプレミアムが高くなる。その結果である名目リスクが高くなり 3-5%にまで上昇すると。これらの物件は破たんする。

今大量に3-5%台で買われている物件が市場の破たんの引き金とな る。対象となる融資は、前述の相続対策名目で大量に融資されたア パート物件、東京オリンピック関連で日本のファンダメンタルズを 超過した投資物件、最近過剰な内部留保でM&Aを行った案件、そし て日本の国債残高である。

日本のリート市場を見てみると、昨年12兆円にまで市場規模が拡 大した、その多くが40-50%のLTV(負債率)である。J-REITの平 均利回りがいま4%である。これらの金利の先物ヘッジが進んだと しても、ヘッジコストがかかる。ヘッジしてしまうと、物件を売る ことがしにくくなる、流動性が極端に落ちるためすべてヘッジする こともできない。金利上昇に対処するすべが少なすぎることが問題 だ。

このような状況から、市場の金利上昇リスクの耐性力は極めて低い ことになる。

弊社は、異次元の金融緩和は市場に大きなインパクトをもたらした という容認派である。しかし一方で、その間、様々な学会、ビジネ スカンファレンスなどで緩和後の処置に関する議論は皆無であっ た。ある意味誰もが想定しがたいことを皆が認知していたともいえ る。

とりあえず出口はその時に考えましょう。が異次元の金融緩和の入 り口であった。さてこれからが、その日銀含めて国の経済政策の重 要な出口戦略である。

以上

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