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主宰:川津商事株式会社
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商業論、マーケティング論からコンパクトシティー論へ

〈2018年7月5日〉

直近の各中部版新聞報道で名古屋の住みたいまちランキングが公 表されていた。結果は昨年同様1位に名古屋駅前となっている。 理由はレストラン・商業施設の集積度である。この現象はどのよ うなトレンドを反映しているのか?

かつて弊社では、住居マンションの選択優先要素に、最寄りの基幹 鉄道(名鉄、地下鉄)・大型スーパーへ徒歩圏10分以内を挙げてい 。それが2010年以降10分を5分以内に修正してきた。現在は最寄りの 基幹鉄道駅へのアクセス要素ではなく、都市主要駅へのアクセス圏 10分以内を上げている。

この主要駅が名古屋駅、栄、金山、星が丘などの商業施設が高度の 集積する都市の中核拠点を意味する。この市場のトレンドが、今回 の名古屋駅前が一位となっていることとなって現れたと考えられる。 これこそがコンパ口シティーへのニーズである。

前回街づくりが1970年代の商業論による制度論から、消費者への 戦略論へと変わり、それにより社会の器である街づくりも変わって きた。そして効率の悪い制度論的な街並みと、過度に効率を求める 戦略論的な街並みとの間に大きな格差が生じてしまった。

この格差を解消するのが、コンパクトシティー論の意義である。こ れが前回の内容であった。弊社ではすでに何度もこのコンパクトシ ティー論を取り上げている。いまさらではあるが、現実に実践でき ているのは東京だけで、その他の地方では高根の花の政策でしかな い。

くしくも今、日経朝刊の優しい経済学でコンパクトシティーを優し く解説している。6月25日の朝刊からそのメリットを引用すると 以下のようになる。

1.環境とエネルギー効率の改善。 拡大してしまった社会資本財の維持メンテナンスが、環境に与える 負荷が大きすぎる点である。

2.経済成長への寄与。 コンパクトな仕組みを作り生産性を上げることにより、経済成長へ 寄与するという考えである。

3.市民社会形成への寄与。 人口密度を高くすることにより自然的な結社の形成が進む。社会コ ミュニケーションの形成である。スポーツ、文化の新しい関係性の 創造である。

以上の三つは言われれば誰にも理解できる代表的なコンパクトシテ ィー形成のメリットであり、いわば大義名分でもある。しかし10 の言い分があれば、それに対し11の反論が出てくるのが今の社会 である。

例えば1.の環境問題であるが、自動車の多用による地域の拡大が もたらすCO2の問題などは、今になって始まった問題ではない。社 会の縮小問題以前からあった。しかし一向に解決策が見いだせてい ない。いまさらながらこの問題が、コンパクトシティー推進のイン センティブとはなり得にくいと考える。

2.の経済効率への寄与であるが、ここでも登場するのが生産性、効 率の概念である。そもそも中心市街地の密集、混雑が不効率である が故、スペースを拡大して生産性を上げようとした結果が、現在の 拡大しきった社会である。生産性を言う限り都合の良い、ご都合政 策になりかねない。

3.の新たなコミュニケーションの形成をと言うが、そもそもネット によるコミュニケーションにより、遠方にいても十分な関係性を持 てるという前提が都市の無尽蔵な拡大を容認したはずである。それ は家から出なくても関係性が維持できる。だから高層のタワーマン ションも現実に実効性ある生活施設となったはずである。本当にフ ェイスtoフェイスの新たな結社が必要であるというならば、タワ ーマンションを否定しなくてはならない。

スポーツ、新しい文化による人の関係性の形成は、今後重要にな る。しかしそれはスポーツインフラの整備の問題であってコンパク トシティーのインセンティブには弱すぎる。

言葉尻を捕まえたような反論ではあるが、これらだけでは、今後コ ンパクトシティーが画期的に進む要因には弱すぎるとも言えよう。 やはり正視しなくてはならない問題は、現実に維持できない拡大し た都市・社会の格差の縮小をどうやって実行するかである。

今までのどうやって拡大するか?という社会システムの真逆をしな くてはならないわけだ。予算をつけて拡大する仕組みから、わざわ ざ予算をつけて、市民サービスを削減する、生活社会を縮小する仕 組みである。最も重要なことは理屈でなく実効性のあるアイデアを 打ち出す必要がある。

言うまでもなく、既存のコンパクトシティーの失敗例は、中心市街 地の容積緩和による拡大手法による再開発である。全体を見ればお 金を投入しておこなう拡大であり、全体の縮小は一切なされていな い。

コンパクト化には、全体のりゾーニングの見直しが、やはり必要不 可欠であろう。しかしこれには時間がかかりすぎる。そのために特 別区を作って商業機能、居住機能を再整備するのが2014年の改正 再生法である。だが、パッチワークのように特区を一つ作れば解決 する話ではない。全体の根本的な見直しが必要になろう。

社会生活の器が都市であり、都市の仕組みがゾーニングである。社 会生活が変わればゾーニングの見直しも必要になる。ゾーニングの 見直しを通じて行政区の縮小を断行する必要があるのではないだろ うか。

当然、中心部から周辺部への移転に何らかの課税がなされる。周辺 への拡大に対してあるいは住宅の特例を廃止するなどの犠牲も伴 う。周辺と指定されたところはひどい仕打ちと感じる。これを受け 入れなくてはならない。

次回は、車社会の実例から街づくりを考えてみたい。

名古屋の老練な商業論研究者の話を聞く機会があった。その中から 筆者の感じたことをご紹介しよう。

まず商業論を簡単に解説しよう。商業とは商品売買や売買取引すべ てを包含する(福田商業論)。そして社会的流通機能を担当するす べての組織体「機関」を商業とする(向井商業論)。商業資本の運 動(森下商業論)。などがある。ちなみに福田先生が名古屋におら れた関係で福田商業論が名古屋では主流となっている。

弊社が多用する中心的な理論である「市場は市でお行われるすべて の商いによって創造されるさまざまな価値を普遍化したものが、市 のスペースを提供する場の地代であり、この地代の理論が不動産経 済である。」も、商業論と不動産理論が市場では表裏一体にある考 え方からきている。

いきなり小難しい言葉を並べたが、かつて(1960〜)の商業論には 政策制度が主流で、消費者とか、戦略という言葉が希薄であったこ とを意味する。そしてこの商業論研究が主流であった時期が、日本 で言えば高度経済成長から、1980年代バブル経済ごろまでであ る。

この時期の商業論の実践が、都市経済(街づくり)における商調協 と言われる、商業事業者と行政政策と消費者の調整である。具体的 には、大店舗法と呼ばれる一連の法律によって、小売店、百貨店大 型商業者、新興スーパー出店にともなう利害調整である。そしてこ の調整こそが商工政策であり、街づくりの基本であった。つまり当 時の商業論とは政策、制度論を側面から支えた理論であった。

しかしやがて本来の調整・制度論が、振興のスーパーの台頭に対し て、既存の百貨店商業者による新興スーパー排除のための道具とな っていく。スーパーの出店に対して立地を規制したり、駐車場整備 を要求したり、営業時間を規制することによって既得権益泰vs新 興権益の対立の構造となっていった。

それは消費者不在の対立であり、政策、制度的にも形骸化を意味し た。新興勢力のスーパーは、制度による権益の保護ではなく、マー ケティングによる戦略的な競争優位の獲得を目指した。

マーケティング論も、今では多義にわたり一概に定義できないが、 初期の定義から見ると、交換の満足を高めるためのアイデア、商 品、サービス、価格戦略、プロモーション、流通を計画するプロセ ス(A.M.A)。平たく言えば、さらなる満足創造のための様々な戦略 である。

このような戦略を引っ提げて登場し始めたスーパーと、制度で守ら れた百貨店との市場での戦いは、時に消費者を置き去りにした。不 毛な議論は、消費者を守ることはできず、それは中心市街地の衰退 という形で市場で顕在化していった。

決定的に状況が大きく変わったのが1990年代末のまちづくり三法 の制定・施行である。都市計画の見直し、商業者の在り方、そして 衰退しはじめた中心市街地の再生である。この法律改正では制度論 で事業者を導くのではなく、市場の民力の努力により商業の隆盛・ 地域の開発などが進むことを促し、制度としては民の利益、環境等 公的利益を逸脱することを排除する役割をすることになる。

かくして2000年以降リテール市場は、ブランディング、流通政 策、パブリシティー等、更にはネット等マーケティング戦略が全盛 期になる。補助金など制度的なサポートを要する事業者・その事業 者によってやっと成り立つ地域経済は、いよいよ立ち行かなくなっ ていく。

今回の話の中で最も印象的な部分は、「かつての商業研究者とし て自己否定してからでないと、マーケティング研究が始まらなかっ た。」という点である。そして制度に頼ろうとする事業者はいずれ 消滅するであろうという予言であった。

そして、今の市場を俯瞰すると、中心市街地の衰退など、前時代的 制度的保護を要求する商業者の衰退・それに頼って地方都市の衰退 を放置しながら、戦略的に優位有るセクター・地域だけが急成長 し、その格差が拡大しているのが現実である。

この解決策としていま議論されているのがコンパクトシティー論で ある。補足ではあるが今現在商業論は、流通チャネル論、商業資本 論、消費者行動論などへ変遷しているが、戦略に特化しているマー ケティング論に後れを取っていると感じる(川津)。

以上

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