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主宰:川津商事株式会社
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商業論とマーケティング論が作り出した都市経済模様

〈2018年7月1日〉

名古屋の老練な商業論研究者の話を聞く機会があった。その中から 筆者の感じたことをご紹介しよう。

まず商業論を簡単に解説しよう。商業とは商品売買や売買取引すべ てを包含する(福田商業論)。そして社会的流通機能を担当するす べての組織体「機関」を商業とする(向井商業論)。商業資本の運 動(森下商業論)。などがある。ちなみに福田先生が名古屋におら れた関係で福田商業論が名古屋では主流となっている。

弊社が多用する中心的な理論である「市場は市でお行われるすべて の商いによって創造されるさまざまな価値を普遍化したものが、市 のスペースを提供する場の地代であり、この地代の理論が不動産経 済である。」も、商業論と不動産理論が市場では表裏一体にある考 え方からきている。

いきなり小難しい言葉を並べたが、かつて(1960〜)の商業論には 政策制度が主流で、消費者とか、戦略という言葉が希薄であったこ とを意味する。そしてこの商業論研究が主流であった時期が、日本 で言えば高度経済成長から、1980年代バブル経済ごろまでであ る。

この時期の商業論の実践が、都市経済(街づくり)における商調協 と言われる、商業事業者と行政政策と消費者の調整である。具体的 には、大店舗法と呼ばれる一連の法律によって、小売店、百貨店大 型商業者、新興スーパー出店にともなう利害調整である。そしてこ の調整こそが商工政策であり、街づくりの基本であった。つまり当 時の商業論とは政策、制度論を側面から支えた理論であった。

しかしやがて本来の調整・制度論が、振興のスーパーの台頭に対し て、既存の百貨店商業者による新興スーパー排除のための道具とな っていく。スーパーの出店に対して立地を規制したり、駐車場整備 を要求したり、営業時間を規制することによって既得権益泰vs新 興権益の対立の構造となっていった。

それは消費者不在の対立であり、政策、制度的にも形骸化を意味し た。新興勢力のスーパーは、制度による権益の保護ではなく、マー ケティングによる戦略的な競争優位の獲得を目指した。

マーケティング論も、今では多義にわたり一概に定義できないが、 初期の定義から見ると、交換の満足を高めるためのアイデア、商 品、サービス、価格戦略、プロモーション、流通を計画するプロセ ス(A.M.A)。平たく言えば、さらなる満足創造のための様々な戦略 である。

このような戦略を引っ提げて登場し始めたスーパーと、制度で守ら れた百貨店との市場での戦いは、時に消費者を置き去りにした。不 毛な議論は、消費者を守ることはできず、それは中心市街地の衰退 という形で市場で顕在化していった。

決定的に状況が大きく変わったのが1990年代末のまちづくり三法 の制定・施行である。都市計画の見直し、商業者の在り方、そして 衰退しはじめた中心市街地の再生である。この法律改正では制度論 で事業者を導くのではなく、市場の民力の努力により商業の隆盛・ 地域の開発などが進むことを促し、制度としては民の利益、環境等 公的利益を逸脱することを排除する役割をすることになる。

かくして2000年以降リテール市場は、ブランディング、流通政 策、パブリシティー等、更にはネット等マーケティング戦略が全盛 期になる。補助金など制度的なサポートを要する事業者・その事業 者によってやっと成り立つ地域経済は、いよいよ立ち行かなくなっ ていく。

今回の話の中で最も印象的な部分は、「かつての商業研究者とし て自己否定してからでないと、マーケティング研究が始まらなかっ た。」という点である。そして制度に頼ろうとする事業者はいずれ 消滅するであろうという予言であった。

そして、今の市場を俯瞰すると、中心市街地の衰退など、前時代的 制度的保護を要求する商業者の衰退・それに頼って地方都市の衰退 を放置しながら、戦略的に優位有るセクター・地域だけが急成長 し、その格差が拡大しているのが現実である。

この解決策としていま議論されているのがコンパクトシティー論で ある。補足ではあるが今現在商業論は、流通チャネル論、商業資本 論、消費者行動論などへ変遷しているが、戦略に特化しているマー ケティング論に後れを取っていると感じる(川津)。

以上

商業論マーケティング論商調協大店舗法まちづくり三法