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主宰:川津商事株式会社
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空き家問題−不動産ビジネス実務者からの反攻

〈2018年4月5日〉

お互いAIスピーカーを設置して24時間作動しておけば、遠くに離 れた家族と、まるで隣のリビングにいるように常時話ができ、コミ ュニケーションができる。そんなスピーカーができれば、子供が下 宿する、旦那が単身赴任する、年寄りが介護施設に入っても、まる で同じ部屋住んでいるように、普通に家族で会話ができるようにな るそうだ。工夫すればAIを待たなくてもできそうだ。AIも単なる 社会記号かもしれない。

平均13.5%ともいわれる住宅空き家問題が社会問題化してしまっ た。なぜ、不動産市場の問題が不動産ビジネス市場で解決できずに 社会問題化してしまったのか?これを考える必要がある。

弊社は、近年よく有識者と言われる方々が「日本の中古住宅市場が 低迷している」ということに対して「そもそも、もともと日本には 中古住宅市場が市場として成立していない」という表現で反論して きた。こういった水掛け論ではなく、空き家住宅問題の本質を議論 したい。

まず第一に、この平均13.5%という数字である。これはあくまで 平均であって、地方の山間町村では30%以上の空き家になってい る。現実にある限界集落である。さらにこれに加えて、「地方だけ でなく東京都内でも将来空き家が大量に発生する可能性がある。」 という懸念がさらにこの数字を誇張して見せている。

本来であれば、この13.5%という数字が現実的な数字なのか?本 当の問題のある数字なのか?そもそもだれがどういった目的で作っ たの数字なのか?その数字が日本の現状を問題視するのに適してい るのか?等々の検証は少なくともなされておらず、実際の住宅に携 わるビジネスマン以外の門外漢の誇張に終始していると言わざるを 得ない。

第二に、現在この空き家住宅問題が社会問題化してしまい、住宅市 場の有識者だけでなく、外部の著名な特にマクロ的な有識者が新聞 等に登場しその論調を広げていることが、さらに拡散的にこの問題 を社会問題化してしまっている。

マクロ経済的な有識者はどうしても全体の空き家住宅数、全世帯、 人口構造予測から問題をとらえがちになる。しかし実社からすると どうしても「森を見て木を見ず」的議論にしか聞こえてこない。

人口を増やせ、労働生産年齢を増やせ、子供を増やせ、高齢者を働 かせろ、女性の社会進出をすすめる。等々の政策で住宅の有効需要 を増やせと言っても、市場のメカニズムではどうしようもできない 事ばかりである。そもそも国の制度疲労の問題でしかない。となり 思考停止になってしまう。

最近になってようやく実務者が口を広げだした。

まず第一に、もし空き家がなかったらどういうことになるのか?空 き家がなければ人の転出転入と言った人の動きが止まってしまう。 適切な空き家がなければ有効な社会動態が制約されることになる。

住宅、居住あるいは商業などの不動産スペースは、実際の世帯数、 人口数、オフィス数。店舗数だけあればいいのではない。それ以上 の余剰のスペースがあって初めて市場のダイナミズムができてい る。

例えば、賃貸マンション、賃貸オフィスビルには「自然空室率」が ある。不動産のビジネス関係者ならだれでも知っていることであ る。20戸の賃貸マンションが19戸満室になると、残り1戸を大家 は無理に入れようとしなくなる。良い条件を待つ待機率である。

良い条件があれば入れるが、条件を下げてまで募集することはしな い。むしろ一部屋くらい空いていた方がその後の募集でもスムーズ にいくという考えがある。この場合の待機率が自然空室率と呼ばれ ものであり20分の一、つまり5%である。

5%という数字に理論的には根拠はないが、市場では一般にこの自 然空室率のベンチマークが5%と言われている。5%以下になると 需要がひっ迫して賃料が上がりだす。5%から拡大すると供給がだ ぶつき賃料が下がる仕組みだ。

自然空室率は理論的には、市場の効率性が高ければ低くなる。つま り空き家の情報が障害なくすべてのいきわたり、新しい入居者情報 も瞬時に市場で検索でき、無駄のないマッチングがなされれば、無 駄に待機する必要はない。制約が多くなれば高くなる。

ちなみに名古屋のリーマンショック以降のオフィス賃貸市場は、空 室率が10%近くまで悪化した。市場性の高い名古屋市場でも10% の空室率はある。

さてこれを住宅で考えてみよう。住宅の売買、賃貸にも自然空室率 が必要である。それがまず5%で十分かどうかという議論だ。これ には日本の住宅市場が効率的かどうかという議論をする必要があ る。結論から言えば、借地借家制度などの象徴される市場機能損な う制約が多くあり効率性は非常に弱い。ということは5%以上どこ ろか10%の自然空室率が必要になることも想定しなくてはならな い。

次に日本の地震に対しる耐震性を考えてみる。震度6-7の地震で倒 れない基準が1981年に定められた新耐震基準である。これ以前の 基準は1950年の施工された旧耐震基準となる。本来旧耐震基準の 住宅は住宅とすべきではない。少なくとも市場では価値を持たな い。

この旧耐震基準の住宅が全国に実に20%とも30%ともいわれ残っ ている。しかしこの数字も実務的に言えば、非常に曖昧である。旧 耐震時代の住宅と言うだけで悪いレッテルを張られるのなら、だれ も耐震工事なんかしない。データ上で1981年以前建てられた家の 数を言っているだけで、それが実際いい家か悪い家化は誰も調べて いないし、厳密に言えば調べられる能力すら今の日本の市場にはな い。

旧耐震住宅だけではない。市場には様々な理由で市場価値を失った 住宅がある。自然災害上使用を差し控えられる住宅、忌み嫌われる さまざまな理由により使われない住宅もある。設備が古くなった住 宅もある。もちろん欠陥住宅もある。

通常、ストック市場の減耗率でこれらが表せられなくてはならな い。しかし日本ではストック市場の整備花座れておらず、基準もな ければデータすらない。市場価値がないものは、住宅ビジネスの実 務者は取り扱えられない。本当に住んではいけない家、そうではな い家の厳密な区分けがなされていない。

かくして、この13.5%という数字にどれだけの意味があるのか? 検証できていないわけだ。そこに、この問題を住宅ビジネスの実務 者が騒ぎ立てるのではなく、データを精査できない門外漢の社会学 者・統計学者が騒ぎ立てている実態がある。

アベノミクスが始まる5年以上前、実は名古屋駅徒歩15分圏内の 都心に屋根が波を打って誰も住んでいない長屋が多くあった。これ らはアベノミクス効果(低金利)でほとんど姿を消し、シノケン・ レオパレスのアパート、飯田ホーム系の建売分譲住宅に姿を変え た。

新築がすべて、供給過剰のストックの積み重ねになるわけではな い。建て替えもおおい。

しかしである。現実に空き家が街のあちらこちらにある。これらを どうするべきか?まずこれらから多の市場価値を失っている住宅を 償却する必要がある。市場の中で消却するには、悪い住宅が市場で 自然淘汰される市場メカニズムを損なう様々制約を除去する必要が ある。

適切な待機率というキーワードで空き家住宅問題を考えるなら、待 機率を押し下げる効率的な市場になればいいわけだ。逆言えばそれ を阻害する制約要因が多すぎることが、空き家問題の本質的な問題 である。

その制約は借地借家制度だけでなく、本来、人の富の蓄積である資 産は人の移動とともに移動可能であるべきだ。このポータビリティ ーを阻害する税制制度にもある。また不整合を生む固定資産税の課 税特例も以前から学会などでも指摘されていた。つまり古い制度の 制度疲労が空き家住宅問題の本質的な問題の一つにあるわけだ。

以上

空き家旧耐震基準自然空室率待機率借地借家法固定資産税の特例