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主宰:川津商事株式会社
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書評「駅・まち・マーケティング 駅ビルの事業システム 革新」

〈2018年2月20日〉

駅前マーケティングに関する本を紹介します。直接名古屋駅間につ いては触れていませんが、名古屋在住の著作者で十分に名古屋駅前 のマーケティングにも参考になる本です。テーマ、文体、知識レベ ルともに、おそらく今後デベロッパーの入門書になろう秀逸であ る。

以下は、この本の中心的概念でもあるコンパクト化の弊社の考えで ある。

リアルデベロップメントには大きく3つの流れがあった。まず、三 井不動産・三菱地所などの不動産業界と、かつてのそごう百貨店に 象徴される流通業界である。これら二つは都心の地価が高いエリア 開発で高付加価値ビジネスである。これにもう一つ現在東京の渋谷 駅で進行している電鉄系の開発である。

言及するなら、リアルデベロップメントの他に現在では、バーチャ ルデベロップメントが登場している。Amazon、楽天などのショッピ ングモールサイトである。彼らもバーチャル空間を提供して流通業 者と消費者をくっつける手助けを行うビジネスだ。彼らの儲けの対 価の対象はデータである。

電鉄系の開発は従来、都市近郊の沿線開発が中心であった。しかし 近年渋谷駅だけでなく、札幌、名古屋、博多その他地方の中核都市 で電鉄系の開発が旺盛である。

海外に行かれる経験が多い方は気付かれると思うが、海外の主要な 都市駅には駅ビルは成立していない。特に歴史のある都市であれば あるほど、高い社屋に鉄道レールが何本もあり、改札口などのバリ アがなく、自転車でも、低所得者でも、障碍者でも、金持ちでも、 スケボーでも、車いすでも誰でもアクセスができる広場みたいなも のだ。

駅の中にはキヨスクがあるだけだが、最近様々なカフェ、レストラ ン、物販店が増えてきている。しかし本格的な商業施設は駅とは違 った中心市街地にある。駅周辺はむしろ治安の悪い観光客が避ける べきダークなイメージがある。以前の日本の都市形態だ。

なぜ日本で駅ビルがここまで進化したか?これがこの本のテーマで もあり、これを読み解くことが駅ビル市場マーケティングの理解の 早道でもある。

まず、日本では、土地スペースが矮小でもともとコンパクトなスペ ースで集約する必要があった。この本にも登場するが駅前開発の原 点である阪急電鉄の小林一三が、中心市街地のファーストクラスの 流通業・ホテルビジネスに対して、セカンドクラスのビジネスホテ ル・買い回り品中心の物販店を中心に駅に併設した。 つまり中心市街地の商業集積とはすみわけができていたことにな る。この本の表現を引用するなら「駅ビルにアルマーニのブランド があるとかえっておかしいでしょう」ということになる。

もう一つの大きな流れは、現代の都市のコンパクト化ニーズにこた えたものである。そしてその一方で、流通業界のネットビジネスの 競合によるシュリンク、不動産業界の開発エリア非効率化、従来の 中心市街地の主体である地方地元資本の衰退などが追い風になって いる。

地方の過小資本問題は改めて説明するまでもないだろう。不動産業 界の非効率化は多少説明を要する。市場を新しく郊外の広げ続ける ことはできない。既存の商業集積を再開発しなければならない。つ まりゼロからのスタートではなく、既存のものを壊して新たに作る マイナスからのスタートである。従来の開発より非効率であるわけ だ。

弊社はしばしば、地方都市ではコンパクト化はやってはいけないと いう論調を使う。財政力のない地方がやるとこの非効率化によって 失敗してしまう危険があるからだ。しかしコンパクト化は木たる少 子高齢化社会の処方箋である。大都市部では積極的にやらなくては ならない。

実際東京の再開発は、資本力、収益力十分にあり、将来の高齢化社 会に向けてコンパクト化による集積再開発が中心となっている。東 京だけでなく大阪、名古屋、福岡などの日本の将来を担う地方中核 都市がどれだけこのようなコンパクト化ができるかが、日本のグラ ンドデザインに要求されている。

マイナスからのスタートではなく、駅ビル開発は、駅舎の上のスペ ースを有効利用するだけで簡単にできる、これが、電鉄事業者が都 市開発の新たな担い手として今活躍している主な理由だ。

いずれにしても都市のコンパクト化が今後も重要なキーワードにな る。話を変えてこれから期待される名古屋の栄の再開発を考えよ う。以前から言われている栄のメリットはそのスペーススペックの 可能性である。しかし小さいスペースでのコンパクト化のトレンド とこのメリットはなり立つのだろうか?

そもそも栄は1丁目から5丁目まで広がりすぎて、焦点が定まらな いことは従来から指摘されていることだ。その中心街があえて 「栄」の呼称を使わずに「南大津通商店街」を名乗っているのもそ の差別化だろう。文化・物・ビジネススタイルも人も全く違う集合 体だ。彼らの要求をすべて受け入れて、バラ色のデザインは、コン パクト化にニーズに反する。

そもそも栄には地下鉄、バスの結束点はあるが、都市間交通との結 束点がない。集積する核そのものが弱い。弊社の結論から言えば、 栄を商業施設でコンパクト化するために周辺を切り捨てて小さくす るか。今のコンパクト化ではない新しいトレンドのコンパクト化の どちらかである。弊社は後者を支持する。

むしろ新しい生活空間を作り出す、パブリック空間・ライブハウ ス、都心アリーナなどを商業施設の核とするようなエリア空間であ る。どこにそんな土地があるのか?それはあくまで古いものをはか して新しい空間を作る必要がある。効率が悪いがしかしそれこそが 大都市がしなければならないコンパクト化である。

以上

コンパクトシティ名古屋駅前駅ビル