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主宰:川津商事株式会社
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年末年始に考える事3つのテーマ

〈2017−8年 年末年始特別号〉

今年も一年弊社ニュースレターをご利用いただきましてありがとう ございました。まず今年を振り返ってみますと、年初から名古屋駅 前のJP、JRゲートのオープンの話題が続きました。昨年オープンの 大名古屋ビルヂングと合わせて、名古屋駅前の新しい顔役がそろっ たわけである。

あえて比較するなら、大阪の梅田の旧国鉄用地再開発に伴う大阪グ ランフロントによる再開発がある。しかしこの大きな再開発は阪急 電鉄をはじめとするいわば大阪資本11社による出資の地元資本の ための再開発である。この再開発により梅田エリアのどこが街のフ ロントなのかが分からないほど街にダイナミズムが生まれている。

これに対して名古屋駅前の再開発は、既存の地元資本より、東京一 極集中からあふれた東京資本、JRの新興資本により進んだ再開発で あることを理解する必要がある。東京から見ればリニアで結ばれた 東京圏の西の端でしかない。在京の若い方が「名古屋と言うのは大 宮のイメージがある。」と言っていたが、大宮とは新幹線の大きな駅 がある関東圏の東の端、東北との接点のイメージと言ったところだ ろう。

弊社は、名古屋は東京から始まる太平洋沿岸メガロポリスの一角を なすべきと言う考え方が持論である。これに対して東京かぶれと言 う批判をいただく。しかし現実には名古屋資本は東京に流出する一 方で、東京資本による名古屋の再開発が中心である。

名古屋資本は栄である。やはり栄と名古屋駅前は異質なエリアであ る。私どもの回遊性理論*では異質な回遊性は衝突を起こす。個性が 強ければ強いほど安易に交わることはない。しかし二つの異質の大 きな回遊性をつなげる方法がある。それは二つの回遊性をつなげる ブリッジ回遊性の創生である。*論文「回遊性の衝突(2016)」

栄と名古屋駅エリアの真ん中、納屋橋付近に新しい都市型居住回遊 性が生まれれば、二つの大きな回遊性をつなげるブリッジとなる。 今その可能性を秘めたエリアが名古屋の都心に生まれつつある。

今年の後半は、やはり現在の不動産経済がバブルかどうか?と言う 議論と、リテールと不動産のビジネスモデルの相克に関するテーマ が多かった。

過度の金融緩和政策は、将来どうなろう(インフレ)と責任を持た ないことをコミットメントするものだ。将来の財政破綻を意識した 時点でデフレに逆戻りするというのが通説だ。いやもう将来のこと を意識する時期だ。ここが議論の分かれるところである。

ネットビジネスに圧倒されつつある百貨店ビジネスが、不動産ビジ ネスに舵を切り始めた。これは不動産ビジネスにとってはリテール 業界を取り込むいいチャンスと考える。今後もこの話題は続くだろ う。以上が今年の総括である。

さて新年に向けて議論したいテーマを3つ取り上げたい。

1.トヨタ企業群で始まる大投資時代。
現実として、新しいモータリゼーションの転機の訪れが明確になっ てきた。遠い話ではなく10−20年先の話だ。内燃系のエンジンが電 気モーターに変わり、AIによる自動制御運転時代の幕開けだ。

この新しいシンギュラリティ─に向かってトヨタが新しい技術に向 けて非常に大きな投資をする時代に突入する。これを「へー」とば かりに見過ごすか、名古屋都市戦略としてこれに貢献し、どのよう なポジションをとるかが重要になる。

ちょうど先日、名古屋学院大学の十名直善教授から新著「現代産業 論」をいただいた。この本では「モノづくりは人づくりであり街づ くりである」という企業社会地域がモノづくりを通じて一体になる 考え方をしている。名古屋経済圏ならでは、より利用できる考え方 ではないだろうか。

弊社が以前から言っているのは、名古屋が投資の受け皿となるチャ ンスである。トヨタが新しく投資す人、物を保管する器になるわけ だ。三河と近隣都心での投資とその効果のフィードバックが必要と なる。そのためには投資の生産性を上げるための都市インフラ、社 会インフラの整備が必要だ。名古屋自らも投資をする必要があるわ けだ。

投資には必ず消費を伴う。消費の受け皿としても隣接する大都市が 果たす機能は大きい。しかも今回の大変革は単なる技術革新ではな い。モータリゼーションである。都市空間のモビリティーの在り方 が変わるのである。都市の器の生産性を率先して改革していかなく ては都市戦略を語れない。

弊社は以前からトヨタ企業群からに日進、栄、名古屋駅の弾丸列車 (30分以内)の可能性を議論してきた。日進・長久手エリアの隆盛 はもうだれにも止められない。一方で名古屋都心の納屋橋でも新都 心型居住空間ができ始めている。

既存の桜通線、鶴舞線、名鉄の複々線化によるハイスピード列車の 増設でも可能であるが、これらの市場性高いエリアを効率よくつな げるインフラを今こそ考えるときである。リニア名古屋駅、名古屋 都心、日進・長久手、トヨタの都市生産性を上げることが求められ ているのである。

このような都市間政策は名古屋市、愛知県と言った行政サイドの議 論ではなかなか進まない。むしろこれらこそ政治的決断である名古 屋大都市圏、中京都構想の出番である。選挙パフォーマンスで終わ る事がないようを期待したい。

先般岐阜県知事のお話を聞いた。東海環状道路の東回りができたこ とによって、岐阜県と三河の都市間の生産性が格段に上がった。い よいよ西回りの整備が本格化することにより、岐阜県と三重県の生 産性が一気に改善されると、満面の笑みで語っていた。

2.資本主義VSシェア経済
社会の大きな流れとして現在の資本主義がどこへ向かうのか?を見 定める必要がある。資本家はグローバル経済の中で激しい競争を繰 り返し、その結果勝者が一人になってしまった。それ以外がすべて 敗者である。2位は敗者のトップでしかない。

しかし勝ち残った最強勝者もトップになったとたん、自己内部の自 己矛盾の問題を露呈してしまいその調整に手間取り、トップとして 世界をけん引することができていない。資本の成長のみに力を注ぎ、 資産全体の成長をおろそかにした結果、全体の成長を低下させ低成 長時代に突入した。自己資本の急成長と全体の成長の停滞と言う矛 盾を抱えることになる。

企業ファイナンスを見れば明らかである。資産全体の成長を犠牲に して、資本の成長だけを目指すことによって資本持ち分の高い成長 は果たせても、全体の企業価値は成長しない。ROAを見ずにROEだ けで成長を評価するのはあまりにも短絡的だ。

そもそも勝者一強の成長だけで全体の成長を負担することにもとも と無理がある。ちょっと前までソ連とアメリカの2強が存立できた。 やがて2位ソ連が敗者となりアメリカの一強時代になった。しかし ほどなくアメリカが一強になったとたん、国内の成長と停滞という 自己矛盾を露呈した。

アメリカ国内でグローバル支持とアンチグローバル支持の対立を生 み、それが解決できない今、外に向かって影響力を発揮することは 困難な状況だ。又、ヨーロッパで今まで勝者であったイギリスも、 ヨーロッパ一強になれず敗者グループに鞍替えしたと言えよう。し かしドイツも、一強になったとたん国内の自己矛盾が顕在化しけし て盤石ではない。

資本の成長が成功しているにもかかわらず、その一方で全体資産の 成長が低迷することにより、その国内で矛盾が生じている。それが 日本である。資本が集中した東京が成長し続けているにもかかわら ず、資産を全体の日本の成長が低迷しその格差が社会問題となって いる。地方に至っては自力再生不可能な状態になっている。資本成 長が引き起こす自己矛盾である。

この自己矛盾が反グローバル主義となりポピュリズムを生み始め、 勝者であるはずの資本主義の足踏みにより、資本主義を支えてきた 民主主義に対してアンチ民主主義の台頭を許してしまっている。中 国、ソ連と言った共産・社会主義の方が効率だけ考えるのであれば 良い国体運営となっている。

一方、資本を独占してヘゲモニー(支配力)を実行してきた勝者に 対して、敗者はモノをシェアして対抗しだした。モノをシェアする 共同体は他に対して排他的になり、時にポピュリズムと迎合するこ ともある。

資本主義経済から連想される言葉が「巨大企業」「大資本」「証券取 引所」「政治的リーダー」「独占」「ブランド」等である。これに対し てシェア経済から連想されるのが「SNS」「ファンディング」「フィン テック」「ネット」「口コミ評価」「マーケットリーダー」「インスタ 映え」等である。ここ数年前者のビジネスモデルが停滞し、後者の ビジネスモデルが台頭してきたわけだ。

資本主義経済の勝者グループにいたセクターが、どんどんシェア経 済グループに鞍替えをし、反グローバルを唱えだす傾向はまだしば らく続く事になろう。ただし間違ってはいけないのは資本主義経済 が終わりシェア経済主義の時代になるわけではない。

資本主義を支えてきたビジネスモデルであるエクイティビジネス、 株式証券ビジネス、ブランディングはますます深化し、その一方で、 シェア経済のファンディング、フィンテック、ネットビジネス、イ ンスタ映えはいよいよ進化する。自分の特異(得意とは違う)なビ ジネスモデルを深化させるのか、進化させなくてはならないのか? これを誤ると市場から退場しなければならない。

3.名古屋経済の特異を再確認
加藤正明(博報堂)氏の「地域ブランディングとライフスタイル
(中部商業学会2017)」の考え方では、
京都×おばんざい文化=京都菜
神戸×西洋建築文化=ワイン
北海道×酪農文化=キャラメル
沖縄×ナチュラル文化=音楽 となる。


この考えで名古屋の産物商品を考えると次のようになる。 名古屋×醸造熟成文化=酢・みそ・醤油 しばらく名古屋の土壌風土で寝かせて熟成させる。そしてうまみを 出す。付加価値が生まれる。これが名古屋の文化・本質ではないだ ろうか?

城山三郎いわく「力を蓄えて一気に熟成したエネルギーを発揮した のが三英傑の時代である。」。醸造熟成させてそれをうまく放出でき れば大変な力を生む。これは名古屋が閉鎖的だと言われることの本 質でもある。逆に蓄えた資本を流出してしまえば名古屋の良さは出 ない。

名古屋は通過点である。これは事実である。これを東京、大阪並に すべての人が訪れることを望むのは無理がある。通過者に名古屋の 良さを認めてもらうことはむつかしい。

逆に通過点でなく人の出入りの激しい多様性があれば、しばらく寝 かせる熟成はむつかしいだろう。観光コンサルティングが言う「用 のない人を無理の取り込む」ことはする必要なない。用のある人を 熟成させて価値を付加させ満足させるやり方もあるのではないか?

以上

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