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2017ノーベル経済学賞セイラ─

〈2017年 11月 1日〉

エアレジ(AirREGI)をご存じだろうか?最近新規のそれこそインス タ映えする飲食店に行くと、店先のレジにiPadが置いてあり、店員 さんが画面を触ってレジを仕事を処理する姿を見かける。エアレジ とはある企業が開発した無料POSレジアプリである。他にも“ユビ レジ”と言う商品がある。

必要なものはiPadとこのアプリと簡単なプリンターである。昔の ような大型機械式のレジも必要なければ、デスクトップのパソコン を併設したランケーブルでつないだPOSシステムも必要ないわけ だ。iPadとこのアプリを使い、Wi-Fiを使いデータをクラウド化し 様々会計処理から売り上げ分析まで可能なわけだ。

店舗の景色が変わりつつある。飲食店等店舗のお金の流れが今まで とは違うプラットフォーム上のアプリで行われる。IT技術の進化 が従来のソフト・ハードも含めてビジネスモデルを破壊淘汰してい く。以上前置き。

毎年、弊社ではノーベル経済学賞を追っかけてきたが、今回の経済 学賞の特徴は、経済学の用語で説明すると全く面白くないが、マー ケティングの用語で説明するとこれほど面白い理論はない。それが 10月30日の日経MJの記事だ。日経MJは昔の日経流通新聞であ り、流通業者向けの経済紙だ。

近年のノーベル経済学賞は、純粋経済理論より「情報の不完全性」 「行動経済学」と呼ばれる分野が多くなってきている。古典派、新 古典派と呼ばれる純粋理論は市場が均衡することが前提となってお り、均衡させない攪乱要素を「不確実性」そして「リスク」として 異端視してきた。

この異端視したリスク、不確実性も1960年代以降にはケインジア ンなどの学者により理論経済学として地位を確立するが、原則、市 場は均衡し、それの攪乱分子としての不確実性と言う位置づけであ った。そして市場の均衡理論の大前提が「合理的行動原理」である。

例えば目の前にお金が落ちていた場合、合理的な行動では皆が拾う。 しかし現実には、そのお金に関する情報がないことによる行動、あ るいは人の心理的な行動により必ずしも合理的な行動をとらない。 実は不確実な行動、均衡させないリスクのある行動こそが市場活動 の大きな部分を占めている。これが「情報の不完全性」「行動経済学」 の概念として育ってきた。

だがこの「情報の不完全性」「行動経済学」と言う概念も、理論的に 数値モデルなどで証明することを前提としており、実に面白くない。 その一方で、マーケティングの分野の情報紙である日経MJが近年 のノーベル経済学賞を取り上げるケースが増えており、こんかいも そのひとつだ。

マーケティングから今回のノーベル経済学賞を説明するとどうなる か?詳しくは日経MJを読んでほしいが、筆者なりに言葉を変えて 説明すると、たとえばメンタルアカウント(心理的財布)と言う考 えだ。人は合理的な消費予算のほかに心理的な財布予算がある。こ の心理予算の枠組に刺激を与えることによって、その枠を超えて商 品を戦略的に買わせようとする。

情報が完備しており、合理的な行動で説明を行うのが経済理論であ った。これに対して宣伝広告・様々な特典情報などを使って不完全 な情報を補い、戦略的に購買に行動に誘導する仕組みがマーケティ ングである。Amazonのまとめ買いなどの特典戦略で財布の予 算枠を変えさせるわけだ。

選択肢がたくさんあり、迷っている消費者の背中を押して意思決定 (購買)を促すのがナッジ理論である。Amazonがレコメンデ ーションエンジンで、以前検索した商品の類似品の情報(選択肢の 付加)を大量にプッシュしておいて、更にプライム会員の特典を案 内したり、限定セールの情報を流したり、配送代を無料にしたりし て刺激を与える。

日経MJでは、ナッジ理論を従来からマーケティングで使われてい る松竹梅理論等で説明している。例えばA飲食店の1000円のラン チを食べるか他店にするかの選択意思決定に、1500円、800円の松 竹梅のランチメニューを作ることによって、A店以外の選択肢では なく、松竹梅の選択肢に誘導していく戦略である。

このように理論における、合理的行動を前提とする市場に均衡をも たらすことを確認するための純粋理論から、不確実な行動ある多様 性を前提とする行動経済学へのパラダイムチェンジが、近年どうし て起きているかと言う背景の本質を把握しておく必要がある。

なにも最近になって急に人の行動が多様性になったわけではない。 昔から人間の行動は緩くいい加減なものであった。合理的行動は合 理性と言う一つに集約する理論である。ところが多様性は一つに集 約するのではなく、多様に広がることである。

この多様性を理論的に説明するためには、多様な行動パターンの解 析、膨大なデータの処理が必要になる。ビークデータの処理もその 一つである。つまりこのような理論アプローチのパラダイムチェン ジには、ムーアの法則のような、データ処理と言うIT革命の深化 が大きく影響していることになる。 *ムーアの法則:2の指数倍の速さで計算処理能力が進化する現象。

ムーアの法則によるシンギュラリティ─が今起きているわけだ。そ して人の行動パターンを更に多く解析しようとしているのが人工頭 脳AIである。AIが開発されることによって、ますますこの手の 分野の理論構築が進むことになろう。経済学景色が変わり、やがて 社会の景色が変わってしまう本格的なシンギュラリティ─がその先 にあるわけだ。

以上

セイラ─教授ナッジ理論メンタルアカウント松竹梅理論シンギュラリティ─AI