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むなしい議論「グローバリゼーションVSアンチグローバリ ゼーション」と今市場が評価するもの

〈2017年 8月 15日〉

まるで世界中で自動車のEV化が進み、2040年に当地のトヨタを頂 点とする産業クラスターが崩壊してしまうような空気が漂っている。

世界を見ると確かにデータ・ソフトウエア産業が台頭している。少 し前のPC・端末ディバイス産業についていえば、逆にOSソフトウ エアはマイクロソフト一社しか残らなかった。むしろデーターウエ ア産業の方が生き残りは厳しいのではないか?その結果が独占的力 を持ってしまっているに過ぎないともいえる。

そして依然としてパソコン、タブレットメーカーは多くある。コモ ディティ化してハードウエアー産業が新興国に移ったと言っても、 アメリカのメディアに露出するPCはアメリカ製である。メイドイ ンアジアではない。

8月3日の日経新聞のFT記事で、激変が予想される自動車のガソリ ン車からEV車への転換により、現在の自動車産業の雇用人口が維 持できなくなるリスクを取り上げていた。現在アメリカで自動車産 業の雇用労働者が700万人、欧州で1300万人である。

雇用が維持できなくなる要因は、ガソリンによる内燃系のエンジン に比べて、EVによるモーターエンジンの方が単純で、生産過程及び メンテナンスにおいて労働者が不要になるということらしい。ドイ トだけで42万人の雇用が減ると伝えていた。

グローバリゼーションは、比較優位の貿易論により、世界中が「生 産性」の高い国の製品に特化すれば、世界全体の厚生経済が実現す るというものである。

労働者が不要になるということは、それ自体生産性が高くなること であり、グローバリゼーションとしては是であるはずである。だが このような場合通常の国策としては、まず既得権益を守るためにモ ーターエンジンに対して新たな車検、検査基準を義務付け雇用を守 る。でなければEV化を遅らせて既存の雇用を守ることになる。

とはいってもEV化が世界中で戦略化している中で遅らせることは、 その後の経済ポジションを失いかねない。さらにグローバリゼーシ ョンを是とする日本としても国内の既得権益の保護はお門違いとな る。もっと言えば、そもそも労働人口が減る中で「生産性」を上げ る必要があると連呼し続けているのは、日本のエスタブリッシュメ ントである。

しかしこの記事にもあるように、ガソリン車からEVへの急速な転 換は、雇用市場の「リスク」であるととらえている。電気モーター になると従来のエンジンプラグ、碍子等内燃系の電装部品が不要に なり、代わりにコンピューター制御技師が必要になる。確かに電装 品産業が多い当地愛知県ではこの転換にはリスクである。

今回の表記のテーマの意味は、グローバル経済を是とし、行き過ぎ たグローバリズム・ガラパゴス化したグローバリズムを修正するア ンチグローバル経済をポピュリズムとしてとして蔑視するかどう か?という議論はもはや空虚すぎる。というものである。

1980年代以降ネオコンが台頭しグローバリゼーションが世界の規 律を作ってきた。その後30年経た現代の世界は、欧米と富とその他 の新興国の富との間で裁定が生じ、欧米の人口一人当たりのGDPが 減り、アジア、アフリカ、南米の新興国の一人当たりのGDPが上昇 した。欧米の衰退、アジアの隆盛である。

グローバル経済で行われている取引はすべて裁定取引である。裁定 取引とは二つの違った市場で同じものが価格に差があるとき、安い 方で買って高い方で売るビジネス機会の取引である。安い労働力の 新興国で物を作り、高い先進国で物を売る取引がグローバリゼーシ ョンである。

筆者は2004年の拙著「不動産投資戦略(p176)」の中で、すでにグ ローバル市場の裁定取引による日本の地価変動を説明している。以 下の紹介しよう。

日本は1980年以降欧米の家電製品に対して同等以上の品質の製品 を、欧米に比べ安い労働力作り裁定取引を行った。この結果欧米の 中間層の労働賃金が下がり、日本の熟練労働者の賃金が上がった。 上がった賃金はその後のバブル経済を生み出した。「ジャパンアズナ ンバーワン」時代だ。

しかしその後、今度は、新しく台頭してくる中国をはじめとするア ジアが、日本と同等以上の家電製品を日本より安い労働賃金で供給 しだした。その結果アジアの熟練労働者の賃金所得が上がり高い経 済成長を生み出した。日本は中間層の賃金が下がり長期的なデフレ 経済となった。

製品を作る資本財は「労働力」だけではない、「土地」、「お金」もあ る。1990年代半ばまで上昇し高止まりしていた地価がその後下がり 続けたことは、労働賃金同様、地価(地代)もこの間の裁定なされ たことで説明できるわけだ。

そして最近、トマ・ピケティの新資本論で注目されている、資本収 益率に関連する長期金利を見ても、グローバル経済30年間で新興 国で上昇し続け、先進国で下落し続けたわけだ。これが「お金」の 裁定である。これらはすべてグローバリゼーションの裁定経済で説 明できるわけだ。

この裁定経済において注目しなければならないところは、下がる側 の経済は非熟練労働者の中間層の所得が下がることだ。上がる側は 所得上部の熟練労働者の所得が上がることだ。

この中間層が衰退することを地価経済で見てみると、生産性の高い 資本財が集中する東京が地価を上げ、中間層の地方の地価が下がる ことになる。これがいま日本で起きているわけだ。そしてこれが格 差を生む仕組みでもある。

では、何がグローバリゼーションの過度を生み続ける要因なのか? である。筆者の結論から言えばガラパゴス化した「生産性」である。 従来型の単純な生産性を連呼し続ける限り、過度のグローバリズム は修正できないと考える。

生産性とは、投入した資本が生み出す利益の量による効率性である。 この生産性の考えでベストは、少ない投下資本でいかに大きな利益 を生み出すかである。

しかし世界では最近、新しい論調がまた登場している。これもしば らく前から新聞などで取り上げられている論調である。「利益」や「資 本」はかつてのように経済を評価する指標ではなくなってきている という考えである。

大きな資本力に物を言わせて独占的な市場を作り、大きな利益を生 む戦略をとる企業戦略より、将来のイノベーションを期待できる企 業戦略の方が、評価が高いわけだ。それがAmazon、アップル、 Facebookなどの企業の株価時価総額と、従来の重厚長大産業、ある いは自動車産業の時価総額の違いである。

Facebook、Amazonはフォード等従来型多国籍企業と比べて資本力大 きくなくも、売り上げも大きくはない。にもかかわらず企業株式の 時価総額は比肩している。この評価の違いがイノベーションである。 にもかかわらずいまだに日本の新聞、学者、エコノミストの論調は 「生産性」を連呼しているわけだ。これが日本のグローバリゼーシ ョンのガラパゴス化の実態である。

ただしあえて言及するなら、イノベーション期待も怪しいものがあ る。我々リアル資産ビジネスに長年携わったものからすると、所詮 期待値に過ぎない。つまりバブルだ。特にITは何でもできてしまう ような幻想を抱き、すぐにバブル化してしまう。

しかしいつまでも生産性だけに固執するならば、日本の地方は永久 に浮かばれないことも事実だろう。一方東京はすでに日本の首都の 域を出てグローバル市場の一極である。地方から言えば、東京は日 本の味方か?グローバリゼーションの味方なのか?と恨み節を言い たくなる。

いずれにしてもグローバリゼーションVSアンチグローバリゼーシ ョン、生産性VSイノベーションの2項対立だけの議論はむなしく、 将来のソリューションになるとは思えない。

海外新聞の主張を見てみると、世界が今抱える問題は、テロ、移民、 IS、北朝鮮、地球温暖化パリ協定の瓦解である。これに対してこれ らの解決策をリードするのは、従来はアメリカ、イギリス、フラン ス、国連であったが、現在の主要なプレーヤはプーチン、習、メル ケルである。従来の理屈・概念、仕組みでは解決できない。新しい 仕組みが必要と連呼している。

通常であれば、イノベーションは確かに得体のしれない期待でしか ない。しかし過去の理屈、概念、仕組みでは解決できない以上、新 しいイノベーションに過剰な期待がかかるのも理解できるわけだ。 市場がイノベーションを高く評価する現在の仕組みがここにある。

追記:イノベーションに関連して追記する。ある海外新聞が「性ロ ボット」を取りあげていた。これによりストリート性産業がなくな るかもしれないというものだ。しかしこの記事の性ロボットを開発 しているわけではないが、一般的なロボットのニーズの高い国とし て、今後高齢化が進むからだろう韓国と日本を上げていた。あたか も性ロボトイコール韓国、日本みたいな印象だ。およそ内外を問わ ずマスコミの発想は上目線のいじめと同じだ。 “Sex robots serve male fantasy,not revolution”

以上

グローバリゼーション生産性イノベーション裁定経済