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北名古屋市・名古屋市の合併問題

〈2017年 7月 25日〉

名古屋異質論がある。筆者もよく使う論法だ。でもこの異質論と言 う概念は、名古屋だけでなくどの都市にもある。その地域の精通者 がたまたま東京などデファクトスタンダードなどにも造詣が深く、 比較してみると変わったところが多いわけだ。

しかしそれはデファクトスタンダードを是とする大前提の論法でし かない。個のアイデンティティをリスペクトしようするアメリカな どでは、それこそが都市それぞれのアイデンティになる。強者がマ イノリティの特異な体質をちゃかせば、それは冗句であり度を越せ ばいじめだ。

しかし日本は、特異なアイデンティティを主張すると居場所をなく す国民性である。異質論はそれに対する自虐的な表現方法ではない だろうか?と考える。異質論が自信あるアイデンティティ論になる ことが望まれる。以上前置き。

実効性あるかどうかはさておき、表題の合併問題を都市経済から勉 強するいい機会である。今回は合併問題を不動産地価経済の立場か ら議論してみたい。

議論のための理論的な大前提をまず挙げる。都市経済論には「都市 の人口規模が最適な状況においては、地代総額と公共財の供給費用 が等しくなる。」ヘンリージョージ定理というのがある。

合併がなされると、公共財の供給コストの裁定が起きる。公共財の 供給が少なく、コストが少なかった方は、供給が多くコストが高い ほうのレベルに引きあがり、地代負担が大きくなる。いずれにして も公共サービス・便益はすべて地価に織り込まれることにあるわけ だ。

さてよく言われる平成の大合併では、649件の合併があり全国の市 町村町が約半分近くまで減っている。しかし平成の大合併の最大の 特徴は、さいたま市、静岡市、浜松市、相模原市、新潟市、堺市、 岡山市、熊本市という政令指定都市を生み出したことである。規模 のメリットを求めて合併が模索されたのである。

そして今おりしも、この平成の合併のその後の成果が評価され様と する時期である。今年の日本不動産学会誌(119号)においても平成 の大合併の意義を特集している。

そもそも合併には様々な思惑、言わば「捕らぬ狸の皮算用」がうご めく。交付金、税金など扱いもその一つである。政令指定都市にな ると都市計画の指定など自治権が与えられ、規模のメリットが享受 できたわけだ。平成の大合併の「政令指定都市成り」はこれを求め たわけだ。

合併にはこの似たような市町村が合併して大きな政令指定都市を作 り規模のメリットを享受できるもの以外に、小さい市町村が合併す るが政令指定都市のようなメリットに至らない合併、大きな都市に 小さな市町村が群がり大きな都市のメリットを求める合併があるが、 いずれも規模のメリットがなければ合併の効果は短期的には見いだ せないというのが一般的な評価だ。

又、ネット上で取り上げられている、評価を見るとその多くはやは り捕らぬ狸の皮算用であったというものが多い。平等を客観的に評 価しにくく、両方が損したような感情が生まれてしまうのかもしれ ない。結果的に勝者なき合併となってしまう。

学術論文を見てみると、行政サービスの効率性を求めて合併を目指 すのが本来の目的ではあるはずだが、静岡の事例でその後の地価を 調べてみると、吸収合併した市町村では地価を下げ、合併をしなか った市町村の方が地価を下げなかったという研究論文があった(川 崎一泰、矢部智仁2017)。

つまりヘンリージョージの定理から考えると、行政サービスの平準 効率化は進まず、公共財の裁定も起きないということだ。例えば下 水施設などの整備が進んでいる市町村と、整備が進んでいない市町 村が合併すると、公共財の裁定はなかなか進まず逆に吸収されたほ うは短期的には地価を下げると言ことになるのではないかと考える。

隣接する清須市が西枇杷島町、清州町、新川町の合併でできた時も、 旧町役場舎を一つにすることはできず、何らかの理由をつけて三つ とも存続した。合併による公共財の効率化はそのくらい難しい。

或るバンカーの言葉を思い出す。今、中日新聞でオッ君教授の金融 教室を書いておられる奥田先生(元十六銀行)が、金融学会で言っ ておられた「銀行の合併はその後のたすき掛け人事など、非常に効 率が悪く難しい。しかしそれでもやり遂げなくてはならない。地域 金融を守るために。」だ。

捕らぬ狸の皮算用で合併を模索しているうちはまだいいが、今後懸 念される限界市町村の急増問題を国・県が放置しだすと、近隣大都 市が面倒を見なくてはならなくなる状況になると、銀行の吸収合併 と同じことが起きる可能性がある。

国は国民に差別なくい平等に生活を補償するが、都市間競争はそう とはならない。都市マネジメントの出来不出来により格差が生じる。 しかし大都市側としても隣接する地域にスラム街が出来ては困るか ら救済せざるを得なくなる状況が生まれるかもしれない。

それは、弱小ゆえ吸収合併される市町村町に大きな負担を求めるこ とになる。フリーランチはないということだ。

以上

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