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現金の進化

〈2017年 7月 5日〉

少し前の英字新聞に、ヨーロッパの大国ビック5の防衛大臣がすべ て女性になった話題が紙面を飾った。女性の登用の歴史は1975年 にインドでガンディーがついて以来実の40か国以上で女性が登用 されたと紹介している。ノルウェーでは5度にも上っているとして いる。

特に最近のEUにおいては、対テロ、対サイバーテロ、対ロシア対策を含めて 閣内でもトップクラスの重量閣僚となっている背景下で生じている 状況としている。防衛が外務、経済以上の重みをもち始めていると している。

その中で女性に求められるのは、テロ、サイバーテロなど新しい事 象に対処しなくてはならない中で、機敏な動きと、同盟間のつなが りを構築する必要があるからだとしている。(2017.MAY.26ガーディ アン“Women command EU`s defence stronghold”参照) 筆者の所見:確かに国防を左右する対処局所のアライアンスの急な 構築と言うのは男性には難しいかもしれない。以上前置き。

2012年末から続いたアベノミクスの異次元の金融緩和の出口がい よいよ現実化し始めた。今回の金融政策は壮大な実験でもあり、今 後様々な形で検証がなされるであろう。

今回は、日本の現金について考えたい。異次元の金融緩和の目的は 市場に現金を供給して、もっとお金を使って消費を喚起し、デフレ 経済からの脱却がその目的であった。

この時に必ず問題になるのが、日本などのアジアと欧米の現金保有 選好率の違いである。つまり手元に現金預金を多めに置きたがる傾 向が、日本アジアが高いことである。その分消費に回る現金に制約 があるわけだ。

2011年から2016年の5年間でアメリカの家計の金融資産が1.4倍 に成長したが、そのうち現預金の占める割合は14.4%から13.9% に減少している。一方日本では2011年に1483兆円の金融資産が 1753兆円に増加したが、56.5%から52.3%に減少した。

これだけ銀行のお金を置いても利息が付かない状況でも、4%の減で しかなく、いぜん50%以上の金融資産が現金預金になっているわけ だ。この現金預金の高さが、異次元の金融緩和効果の妨げになって とも言われた。

つまりタンス預金に回っただけで、消費の喚起がしにくかったと言 うものだ。そしてその原因が高齢化社会で将来に備える必要があっ た、というのが金融当局の言い訳だ。それでは欧米と日本のこの金 融資産の構造的違いの背景が少子高齢化にあるということになって しまう。

それはおかしな論法だ。筆者の結論から言うと欧米と日本の現金消 費システムの違いには、その使い勝手の良し悪しにも大きな問題が ある。

1950−60年代まで日本のすべての家庭には通常、米櫃(こめびつ) があった。これはお米を備蓄する箱である。戦後お米は配給制だっ た。今月はお米をたくさん食べ過ぎたからと言って買い足すことは できなかった。その後お米の管理統制に関する法律が全廃されるの は実に1992年になる。

つまりお米の近代的な流通市場がなかったのである。1957年には配 給制と併用して自主流通米が登場するが、それでも今のようにスー パー、コンビニが24時間営業していたり、アマゾンでクリック一つ で家庭に簡単に届くことはない。

いずれにしてもお米の流通市場の近代化が、家庭で備蓄する必要を なくし、米櫃が家庭から消えた。その結果いろんなブランドのお米 が成長し、より信頼のある市場となった。

アメリカでは、現金を持っていなくてもクレカ(クレジットカード)、 小口現金小切手が多用される。アメリカでは現金はチップ用に持っ ていなくてはならないと言っても過言ではない。

アメリカのクレカなどのカレンシーの使い勝手文化と、日本の現金 以外のカレンシーの使い勝手文化の違いを、この書面だけでは説明 しきれないが、少なくとも日本の場合、現金以外のペイシステムの 使い勝手の改善の余地と、信頼性の改善余地は十分にある。鉄道会 社系のデポジットカードがマルチ機能的に普及しだしたのも、まだ まだここ2−3年だ。

一般的な家計のシミュレーションでも、住宅を買うと一般家計では 40代で債務超過におちいる。日本ではいざと言う時お金を借りよう とすると、銀行に出向き、ホワイトカラーによる厳しい審査を受け なくては借りられない。しかもこれらは住宅ローン、教育資金ロー ンに限られる。

こんな金融システムが将来行き詰まることを、大手銀行のトップが 既に予見して、銀行系消費者金融ビジネスが登場しだす。2004年に は三菱東京がアコムと資本業務提携を開始する。新生銀行系レイク が登場し、その後プロミスも三井住友と業務提携し始めた。

ところが、日本では消費者金融は闇金融とみなされていた。当時、 不景気な時に日本のTV広告が消費者金融の宣伝を重点的に流しは じめた。例えばアコムが女優を使い、アイフルがかわいい犬を登場 させたりしてイメージチェンジを図った。これには将来を見越して、 メガバンクが、消費者金融ビジネスに参入するために買収し、イメ ージチェンジを図ろうと言う意図があった。

その時に、ある大物エコノミスト*が、「子供たちが見ているTVのゴ ールデン時間に、借金生活を推奨する消費者金融会社を肯定するよ うなCMを垂れ流すことは、教育上よくない。」と批判しだした。(* 筆者は、このエコノミストがTV日曜朝のサンデーモーニングで発 言しているのを聞いて驚いてしまった。)

この大物エコノミストの発言で、日本の消費者金融市場はおそらく 10年、近代化することが遅れた。それどころかガバナンスを失い、 不透明な金利計算による大量の過払い利息訴訟の発生である。消費 者金融イコールブラックのイメージが完全についてしまった。

それまでの消費者金融のプレーヤーには確かに問題があり、従来の 消費者金融の所業を正当化するつもりはない。しかし大手メガバン クが乗りだして何とかイメージ転換しようとしていた矢先である。 そんな将来の消費者金融ビジネスそのものを棄損してしまった。当 時、消費者金融に乗り出そうとした銀行が、M&Aした投資資金を償 却して多大な損失を計上したニュースは、金融界では衝撃的であっ た。

時は移り現在、今大手メガバンクが進出しようとしているフィンテ ックは、まさに金融チャネルの多様化であり、従来の銀行融資によ る仲介金融ではなく、あらゆるチャネルから資金仲介を可能とする ものだ。しかし形態はカードを使ったかつての消費者金融の再来で ある。日本の場合このカードローンビジネスは、悪い消費者金融の イメージを払しょくする分、マイナスのスタートからとなってしま っていることは否定できない。

日本は、この消費者金融の確立を遅れが、欧米的な現金を蓄えるこ とがなく生活ができ、その分株などへ投資することができる経済の 金融システムの多チャンネル化・近代化が遅れた。イギリスのよう な投資立国を目指して、株式市場への一般投資家の誘導はある意味 国策でもあるが、なかなかできていない理由もそこにある。

日本経済と欧米経済の経済成長の特徴の決定的な違いは、経済成長 に対する一般消費の寄与度である。アメリカ、イギリスでは経済成 長の占める一般消費の成長の割合が非常の大きい。かたや日本はそ れほど大きくなく、経済政策も住宅投資、公共投資に偏っている。

一般消費を支えるファイナンスシステムの非近代化が、日本経済の 成長の足を引っ張っていると言っても過言ではない。わかりやすく 言えばクレジットカードを使い消費を行うことは非道徳だという古 い考えを作ってしまい、かつそれを打破できていないことだ。

いつまでたっても米櫃ならぬ金櫃(タンス預金)を置く必要がある、 非近代的な経済システムになっているわけだ。ビットコインなどマ ルチカレンシーの荒波が来ようとしているにもかかわらず、一つ間 違えば通貨政策の手段を失いかねない。

現金を必要以上に蓄える必要なく、将来の消費生活ができる信頼を 生み出すのが、消費者金融システムの本来の目的である。金融論か ら言えば、企業部門の生産活動をファイナンするのが銀行業務。家 計部門の消費活動をファイナンスするのが消費者金融である。闇金 融ではない。消費者金融システムを再構築するのにあとどれくらい 時間がかかるだろうか?

以上

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