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主宰:川津商事株式会社
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日本的イノベーション

〈2017年 7月 1日〉

EUとの包括的貿易交渉が重大な局面を迎えている。グローバリズム を推進する安部政権下でしか決まらない内容だろう。EU産のワイ ン・チーズがだぶついている状況での絶好のタイミングだ。

ワインの関税撤廃はちょっとしたお祭りになるかもしれない。実質 的な関税撤廃分はボトルあたり100円に満たずインパクトがないが、 マーケティング的には大々的なセールスチャンスであり、十分なイ ンパクトがある。前段の前置きは以上である。

最近はイノベーション(技術革新)より、いよいよ現実的になりだ したシンギュラリティ(技術的特異点)の方が関心が高い。

近年のITの技術革新(イノベーション)の積み重ねにより、CPUの 計算速度・蓄積容量がほぼ無限大に進化し、ビックデーターが組成 され、それによってAI(人工頭脳)がものづくりの世界だけでなく、 スポーツあるいは最近の将棋の世界から健康、文化、コミュニケー ションを一変しようとしている。

この一変する様子、つまり風景がガラリと変わってしまう様子、シ ンギュラリティーが現実的な近い将来来ようとしているわけだ。

今回はその中で日本的なイノベーションについて議論したい。イノ ベーションは、日本では主に組織論の学者先生たちによる研究が多 い。これはイノベーションを生み出す環境、会社組織、産業クラス ターに深く知見を求めたものだ。

一方イノベーションの成果を評価するのが市場論であるが、日本で はこの評価が曖昧になっている。市場論つまりマーケティングでは 「創造的破壊」という元々経済学で生まれた概念が用いられる。い ろんな考えがあるが、筆者はイノベーションとは古いものの「破壊」 であって、「創造」は「破壊」を形容しているに過ぎないという考え 方に傾倒している。

事例を挙げて説明すると、ある時代、ソニーがウォークマンと言う 技術革新を引き起こし市場を席巻していた。席巻していたというこ とは、ウォークマンが市場のデファクトスタンダードになっていた わけだ。

そこにアップルのiPodが登場し、ミュージックシーンが一変した。 ただ単に、iPodはソニーのウォークマンより品質が優れており、価 格的に優位があったからウォークマンが君臨した市場スタンダード にとって代わって新たなミュージックシーンを作ったのではない。

iPodは、「いやー、ウォークマンも良い商品ですから、お互い切磋 琢磨競争して一緒に市場を大ききけん引して行きましょう。」として 共存的競争に勝ち抜いたのではない。iPodは市場で均衡していた、 つまりそれまでのスタンダード化していた既存の規格を完膚なきま で「破壊」して、新しいスタンダードの地位をつかんだのである。

日本的技術革新あるいはビジネスモデルの開発の現場では、良いも のさえ作れば売れるという勘違がしばしばみられる。マーケティン グが下手と言われる本質的な意味がここにある。イノベーションと は、マーケティングにおいては既存の均衡を破壊することが目的で、 ただ良い物を作ることだけでは戦略とはなりえないわけだ。

新しい技術、新製品、ビジネスモデルを開発したとき、過去の、先 達たちの成果に対して敬意を表して(特に企業内において)、お互い 競争していいものを作り上げて、市場をけん引しましょうと言う、 雌雄を決する競争を避けた和風市場競争こそが、日本的なイノベー ションのである。

これには、日本のマーケティング研究領域において、製品戦略の明 確な評価を避けてきたことも起因している。ただし、これには良い ものは良いと言えるが、悪いものを悪いと言いにくい日本的制約が あることも事実だ。アメリカのマーケティング研究では失敗事例の 検証が非常に多い。

きたるシンギュラリティーの風景が、すべての高速道路がベルトコ ンベアーのように自動運転により物流ラインとなり、個別宅配がド ローンで空を飛んでやってくる。すべての戸建て住宅にドローンポ ートが新たに登場するか?どうかわからない。

しかしそのようなシンギュラリティー(技術的特異点)が登場する 為には、既存の規格の高速道路網、自動車、ドローン、住宅が古い ものと新しいものが仲良く共存する風景ではなく、既存の基準・規 格を破壊したうえで新しい基準・規格を創造されているはずだ。

さて前置きを以上にして、不動産ビジネスの話をしよう。ここ数回 実効性ある市場、実効性ある新しい器を当ニュースレターで議論し てきた。新しいものは古いものを、市場メカニズムで破壊するもの でなくてはならない。これがマーケティングにおける戦略である。

名古屋駅前は急成長し始めた時「栄は名古屋駅前エリアとお互い切 磋琢磨狂して成長していきたい。」と言うエスタブリッシュな発言が 見られた。しかし名古屋駅前の東京資本は栄との仲良しグループな んか想定していないはずだ。栄を破壊してもいいくらいの勢いで資 本投下してきた。これがマーケティングだ。

名古屋では「新しいものを作ったら古いものをどうするんだ?」と 言う質問をしばしば受ける。言えることは、古いものをいつまでも 残し共存していては新しい風景は登場しない。市場淘汰こそが市場 のダイナミズムである。破壊と言う償却をする力が企業資本力であ り、都市の資本蓄積である。まさに資本主義の本領である。

しかし、悲しいかな過小資本に陥った企業・地方都市は、これがな かなかできないわけだ。名古屋はそれができる大都市か?できない 地方都市か?そこが分かれ目となる。

以上

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