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主宰:川津商事株式会社
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実効性ある市場とは?

〈2017年 5月 5日〉

人手不足で企業が様々な対策をし始めている。主婦が働きやすいよ うに託児所を設ける。主婦が働きやすいスーパーなどの近くに職場 を移設する等々。

ある介護ビジネス事業者の話である。介護需要が高いところより介 護従事者が多くいる場所で開業したほうがビジネスは成り立つとい うことらしい。目ざとい不動産ビジネスは考えなくてならない。職 場と言う立地スペースニーズが変わってくる。

さて連休のさなかに紛れてまた小難しい理屈を展開します。連休に もかかわらず仕事をなされているプロ向けのディスカッションペー パーです。

弊社はよく「不動産市場は供給が需要を作る」と言う論法を用いま す。これは新しい器が供給されることによってより需要が喚起され るのであって、常に需要が供給を促進させるわけではないと言こと である。

では箱モノを作り続ければ永遠に需要が生み出されるのか?と言う ことになる。これに対する理論が「実効性ある市場」である。「実効 性ある市場では容積率の緩和により生産性を上げることができる」 と言う日本政策大学等で重責を歴任された八田達郎氏が解明した理 論に、実効性ある市場の考え方が登場する。

この理論は、小泉政権下で行われた都市再生部による東京都心のリ ノベーションを後押しした不動産関係学会の金字塔のような理論で ある。今ある東京丸の内の丸ビルなどの高層ビルが出現するきっか けとなった理論である。

容積率の制限があって、もっと広げたいのだけど広げることができ ず、狭い窮屈なところで人が働いているような東京の都心で、容積 率の緩和を行うと、働くスペースが広がり仕事がしやすくなり生産 性が向上するという実証研究に基づく理論である。

この理論の大前提が「実効性ある市場」である。東京のように、例 えばキャパシティ100人の市場にそれを超えて120人の人が来訪し ている場合、キャパを広げて150人にしてやると、さらに魅力が上 がり、生産性が上がりさらに増えて180人の人が集まるようになる 市場が実効性ある市場である。規制を緩和するとそれが新たな需要 を喚起し、それまでの超過需要以上に賑わいを呈する市場が実効性 ある市場である。

ところが同じように100のキャパに120人が殺到していても、あら たに50のスペースを規制緩和すると、新たなスペースに40人、そ してそれまで100のスペースが80人になってしまい、合計の120人 は変わらず、むしろ両方ともキャパを満たすことができず、すたれ て共倒れになってしまう市場が実効性がない市場である。

名古屋駅前で考えてみよう現在JRセントラルタワーズのレストラ ン街が1000人収容できるキャパがあったとする。しかしお昼時に 1200人の人が殺到する。つまり200人の需要過多となる。そこで新 たにJRゲートとタワーに500人収容のレストラン街を作る。

開いてみると旧JRセントラルタワーに800人、新しいJRゲートタ ワーに400人の人が来訪した結果、両方とも採算割れしてしまう。 これは1000人に対して1200人の殺到する市場規模の本質の読み違 いで起きる。

本当は1200人以上来訪希望者がいるが制限されて1200人だけが殺 到する市場か?1200人がすべてでそれが1000人のキャパの市場に 来訪しているだけか?と言う1200人の名目上の来訪者の評価の違 いである。前者が容積率緩和などの実効性ある市場であり。後者が 実効性ない市場である。

結論から言えば、実効性がある市場は、東京の都心だけである。銀 座、原宿、六本木、渋谷、品川の駅前は名目需要以上のものがある。 一方、東京周辺都市、大阪、名古屋、福岡は現実には実効性がない 市場である。

大阪では、短期的な需要だけで見れば、東京に出現しているような 超高層商業施設の採算が取れるが、長期的には取れない。これが大 阪では東京と同じレベルの商業施設ができてしまうが、しばらくた つと皆不良債権になってしまう宿命だ。

それ以外の地方都市は、短期的な採算からして東京のような大きな 商業施設はできない。それが逆に不良債権を生まない結果を生んで いる。

名古屋駅前市場は、2000年当時のJRセントラルタワーズができた ときは実効性がある市場であった。JRセントラルタワーが供給した スペース以上の需要喚起が起きた。今回JPKITTE、大名古屋ビ ルヂング、JRゲートが実効性あったのかなかったのかは結果を見て みないとわからない。

JRセントラルタワーズに続き名古屋駅前の新しい商業施設プロジ ェクトは、名古屋駅をネットワークする市場の需要を喚起するだろ う。JRゲートタワーをはじめとする新しいビル群は成功するだろう。 しかしその分栄などの市場にゼロサムゲームを強いるかもしれない。 それが名古屋の実効性の程度だろう。

JR東海高島屋ができて大きな売り上げを実現したが、名古屋全体の 売り上げは変わらなかった。つまり他の百貨店の市場が食われてし まっただけである。しかしこれはもしJR高島屋が出来なければも っと減っていたともいえる。弊社は後者が正しいと考える。

しかし初めから東京のような、実効性ある市場を期待することは無 理がある。名古屋では100年に一度の都市再開発群であったことに は間違いない。たとえ実効性がなかったとしても長い目で市場の筋 肉となれば問題ない。それは東京と名古屋の違いであろう。

以上

実効性ある市場