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コンパクトシティの幻想と虚実

〈2016年 12月 10日〉

イングランド銀行がイギリスの家の購入者にインフレを警告し始め た(ガーディアン紙)。EU離脱によるポンド安からくる国内物価の 上昇、金利上昇によるものだが、家計の圧迫が懸念されているわけ だ。トランプ政策の本質がドル高、金利高にあるのであれば、アメ リカ発の世界同時多発インフレ懸念が生じてくる。これが悪性にな るか良性になるか?

近年、いろんな学会、セミナーに参加してコンパクトシティありき を前提とした報告が非常に多い。しかしその一方でコンパクトシティ に対する幻想と虚実がますます鮮明になってきていると私どもでは 感じている。コンパクトシティを連呼すれば連呼するほどその矛盾 が浮き彫りになっている。

現実に、コンパクトシティを前提とした日本全国での都市再生の事 例において、成功事例がほとんど出てきていない。まず筆者がコン パクトシティを幻想と虚実と断言する理由を、先に述べよう。

日本の経済・社会は戦後高度経済成長、バブル経済を通じて成長し、 その器である都市は拡大し続けてきた。都市の中心部が過密し、交 通渋滞、人口集中、地価高騰などにより、都心部の生産性が悪化し 始めたことにより、郊外へ都市が拡大し始めた。

仮に都市が倍の50km四方に拡大したとしよう。しかし最近の少子 高齢化により都市人口がシュリンク(縮小)し始めた。50km四方 に拡大した都市に、住居が虫食い状他になり高齢者がまばらに点在 する状況が想定し始めた。点在する高齢者にすべてフルスペックの 行政サービスを提供することができなくなるのである。今までのよ うに延伸し続けた道路、上下水道、増設し続けた学校病院などのイ ンフラが老朽化しはじめた。これらをすべてにメンテ維持、整備し 続けることができなくなってきたのである。

そこで50kmに拡大した都市をダウンサイジングして、仮に10-20 km四方のコンパクトな都市にして、その中で高度に集積した生産 性の高い都市を標榜したのである。スモールサイズのエリアで上質 な都市インフラを維持し、効率の良い都市を作り上げるのがコンパ クトシティの考えである。確かにここまでの理屈は間違っていな。 しかし実効性がない幻想でしかなかったのである。

問題はこの10-20km四方のコンパクトシティを、現在のスプロー ル化根源である、まさに効率の悪い故に衰退の原因となっている、 中心市街地を中心としたエリアに設定しようとしてしまうわけだ。

そもそもこの中心市街地こそが、効率悪く生産性が低いために逃げ 出した事が今の都市の拡大になったのである。その都市がシュリン クし始めても依然として地価がその都市で最も高く、多くの虫食い 状態の遊休地が有効に利用できず放置されているにもかかわらずそ れで別に困らない高齢者が所有しており、又あるいはシャッター商 店街には補助金、固定資産税の特例など様々な利権が重なりダイナ ミックな変化を妨げ、その都市の旧態依然とした規制利得権が幾重 にも重なり、時には多くの所有者が外部の利害関係者となり地域に 対する責任もない、最も開発するのに効 率の悪いところである。

つまり市場原理が機能しない、様々なバイアス、利権、規制、慣習、 過去からの負債が幾重にも重なるところである。それらを改善する ことなくそこに更にコンパクトシティを作らざるを得ないというこ と自体、すでに利権構造の構図ともいえる。

コンパクトに新しく効率の良い10-20km四方のエリアを作ろうと することは間違いではない。しかし間違いは、効率が悪く皆が逃げ 出したエリアを改善することなく、そのまま又再開発を行おうとす るため、そのほとんどが実効性なく、仮に本当に実行してし巨額の 再開発投資をしてしまうと再び破たんし、今度は自治体そのものが 破たんしかねない状況になってしまう。

コンパクトシティを標榜するうえで象徴的な成功例が、都市型ライ トレールによる再開発である。きれいな都市型ライトレールを整備 し、その沿線に高齢化向けの都市機能を集積するというものだ。そ の成功例が富山市とされている。しかし本来、地方都市で新しい交 通システムを整備する余裕は、たとえ、大阪、名古屋であっても簡 単ではない。

富山市は今やコンパクトシティの教科書となりつつあるが、その富 山であっても、たまたま既存の富山港線をライトレール化した、い わば民営化の成功例でしかない。富山の人に聞くと、自分とは関係 ないエリアに廃線同様の線が新しい車体に変わっただけで、特に自 分の生活が変わったわけでもなく、際立って意識が喚起されたわけ でもないという意見があった。

学者のプランは、うがった見方をすれば、都市型ライトレールを整 備することができ、なおかつそれが破たんすることなく稼働してい れば、コンパクトシティが成功したことになる程度だろう。富山は ドイツのフライブルック同様、全国に先駆けて成功した事例として、 あまりにも誇張され過ぎてしまっている。

効率よくコンパクトサイズの都市を作り直すという意味はわかるが、 必ず効率の悪い中心市街地に作ろうとしてしまう。中心市街地が効 率が悪くなった様々な老朽化、規制、利権、原因、放置を改善する ことなくそこへ重ねてくるのである。

半世紀以上を経て再び東京でオリンピックが開かれる意義は大きい。 そしてコンパクトなサイズを標榜してオリンピックを開催する意図 も理解できる。しかし日本で最も地価が高く、岩盤規制が幾重にも 重なり、様々な利権がうごめくところに過度に集積すればその開催 コストは当然膨れ上がる。

コンパクトシティ構想が失敗する原理と同じである。中心地の非効 率性を解消した後でなければコンパクトがかえってあだになってし まう。無理に実施すれば、普通の自治体なら財政破たんを起こす。

余計なお世話ではあるが、豊洲市場の様々な拙攻による補償費、何 度もやり直すオリンピックのロゴ・設計費の二重コスト、想定外の 規模工事費の出費拡大等々。普通の自治体なら早晩財政破たんする だろう。東京だけなぜ大丈夫なのだろうか?

名古屋の都市戦略にコンパクトシティは感じない。やはり自動車大 国だからだろうか?私どもではこのまま名古屋がコンパクトシティ ジレンマに陥らないことを望む

以上

コンパクトシティーライトレール中心市街地少子高齢化財政破綻都市再生