ニュースレター

主宰:川津商事株式会社
名古屋の不動産何でも相談室がお送りする、不動産・ビジネスに関するニュースレター「名古屋ビジネス情報」へのご登録ありがとうございます。
不動産にとどまらず、名古屋のビジネス情報、街づくり話題、不動産経済に関するニュース、物件情報など時代の変遷とともに広くお伝えしています。

地震保険の問題点は?

〈2016年 12月  5日〉

2017年1月から地震保険の料率が改定される。今まで、木造家屋保 険金1000万円当たり、保険料が最も高いところで32600円。これが 千葉、東京、神奈川、静岡、愛知、三重、和歌山であった。改定後 は、愛知、和歌山、三重等一部で15%程度安くなるが、逆に関東東 北四国の沿岸部等の日本全国多くで10%以上高くなる。非常に大き な改定であり、今までと今回の改定の理由が知りたくなるところだ。

保険料率は長期の災害リスク指標でもある。短期の金融リスクと対 峙する非常に重要な社会リスクの指標である。その評価手法は当然 市場均衡に影響をもたらす。信頼のない評価であれば市場は成立し ない。世界のいわゆる地震大国で比較すると、必ずしも日本が地震 保険に加入している割合が高いわけではない。加入率が低い問題点 はどこにあるのだろうか?今回これを議論してみたい。

今回は、関西大学の奥見、河田両氏の論文「地震保険制度の国際比 較」をベースに議論したい。以下文章で使われるデータの多くはこ の論文からの引用である。

地震による被害は甚大である。保険による積み立てを大きく上回る 被害が必ず生じる。そのために一回の地震で全民間保険会社が負担 する金額は、日本では現在7兆円までと法律で定められている。そ してそのために保険会社は保険金を積み立てて準備金を作っている。

しかしその準備金も以前24兆円あったものが、東日本大震災を経 て現在12兆円まで減少している。今後想定されている東南海沖地 震をだけでなく、東京直下の地震だけでも備えが十分とは言えない 状況になってしまっている。

つまり地震災害復興に要するコストは、特に小さな国では、国の財 政を転覆させるくらいの巨額になる。そのため地震保険を整備して 広くリスクを分散する仕組みを作る必要がある。それが地震保険で ある。

日本だけでなく世界で最近起きている地震災害事例から、重要な議 論となっているポイントが、地震災害からの復興の在り方である。 その復興の問題の一つが、住宅の2重ローン問題の解消である。地 震により住宅が崩壊しそこから復興するためには、従前の住宅のロ ーンの残債に新しい住宅を作ることによる住宅ローンの2重の負担 を強いられることになる。

それではその後の生活を安定させることができない。つまり復興は マイナスからのスタートになる。阪神淡路大震災以降東日本大震災 を経て、住宅の2重ローン債務により債務返済が滞っている人は増 加している。これは復興が進まないことの証明である。

よく「世界30都市の中で最も災害リスクの高い都市が東京である。 しかし最も、災害にあった時どうすべきか備え及び対処が進化して いる都市でもある。」という説明を聞く。2重ローン債務問題が今後 増えないような制度がない限り、逆に言えば2重ローン債務破綻者 が増え続けている限り、過信でしかない。

特に過去に大きな地震災害を経験している地震大国、例えば台湾、 トルコ、ニュージーランドなどでは、最近住宅ローンにつける火災 保険に地震保険を「強制加入」させている。二重ローン債務を防ぐ 対策である。

日本の地震保険は住宅ローン等につける火災保険に「任意」で加入 するシステムである。その結果住宅ローン付帯世帯の地震を担保す る保険への加入率は38%である。住宅ローン残高66兆円に対して の割合である。上記の国々は強制であるため今後加入率が大幅に改 善されるものと考えられている。

地震保険加入率の低さが日本の地震災害が起きた時の二重ローン債 務問題を増加させる原因と一つとこの論文は指摘している。現状台 湾などでも地震保険の加入率は日本とそれほど変わらないが、強制 加入になっており今後急速に加入率が高くなり2重債務問題は軽減 すると考えられている。

ただし強制加入の前提として、国の保険料一部負担が実施されてい る。その反対に台湾などで見られるように、保険による補償対象が、 全損家屋あるいは国による撤去命令のみが対象となるなど、日本よ りも補償のハードルが高くなっている。

日本の地震保険は主契約火災保険に対する付随契約であり、主契約 の30-50%、建物5000万円、家財1000万円が上限とされている。 日本の地震保険に入りたがらない理由は高額な保険料、設定の50% などの上限があり、補償が低すぎる。などが主たる意見としている。

この論文を読む限り、日本の2重住宅ローン債務問題は地震保険の 加入率の低さにあり、未加入の理由は任意の制度であり、任意にし ては保険料の高さ、補償の内容など魅力がないことになる。任意と いうことは市場に任すということを意味している。市場にゆだねる には評価システムなど加入者の信頼を得る必要がある。と当ニュー スレターでは結論付けたい。

高くて買わない市場は、価格付け評価に信頼がなくつまり情報の非 対称性があり、十分な理解がなされていないことによる。つまり保 険料という価格の評価が信頼されていないため、市場に規律がなく 均衡しない市場(成長しない市場)となっているわけだ。評価が信 頼されていないという問題の本質がある中で、冒頭の地震保険料の 大幅な改定が今回断行されたわけだ。

改定後の木造家屋の保険金1000万円当たりの保険料
14900円 福島 
15300円 北海道 青森 新潟 岐阜 京都 兵庫 奈良
18400円 宮城 山梨 香川 大分 宮崎 沖縄
23800円 大阪 愛媛
27900円 茨木 埼玉
  28900円 三重 愛知 和歌山
31900円 徳島 高知
36300円 千葉 東京 神奈川 静岡
11400円 上記以外県 となっている。

強制加入方式により、保険料をもっと下げることが二重ローン債務 問題を解決するという意見の反対として、強制加入に対する反論が 以下のとおりである。本来私有財産の保険は所有者の意思によるべ きものである。保険強制加入が始まるとモラルハザードが生じ住宅 の耐震化などの備え等々が進まなくなる。

地震保険は一度生じると巨額な被害になるため、国による再保険が 必要となる。現状でも地震保険が増えると国の負担が大きくなり、 更に強制加入になればさらに国の負担が増える。この負担は将来災 害に対する復興費の保険であるが、税の使い道になると政治的に簡 単にまとまる話ではない。

民間保険会社も決して儲かる商品ではなく、民間保険会社が全力で 販売する主力商品ではない。一説には保険会社によっては新規見積 もりすら断ることがあるともいわれている。しかし営利企業に一方 的に負担を強いることも当然できないわけだ。

保険会社は儲からないし、加入者も高いというイメージで加入した がらないのが現在の地震保険である。それが二重ローン債務問題を 今後も拡大する可能性があるのが、現在の日本のリスク保険システ ムである。もちろん二重ローン債務はリコースローンである金融シ ステムの問題もある。今回は保険から問題視している。

強制加入による国に新たな負担などを考えると、現状強制加入の行 政的手続きが進むようには思えない。であるならば現状の任意加入 で市場の効率性を高めて加入率を上げる方法を考えることが求めら れる。

先月以来当ニュースレターの不動産経済教室では市場に均衡をもた らす価格の評価手法を何度も議論してきた。市場性を高めるという 意味は競争をさせるという意味ではない。情報を公開し情報の非対 称性をなくし、信頼のある市場に育成することである。つまりリス クに対する評価手法の信頼性の問題である。

将来起きるべき災害の備えは国、民間、個人の応分の負担が必要で ある。しかしゲームの理論のナッシュの均衡に陥ってしまっている。 これは現在の日本の姿である。地震保険加入者、保険会社、国の三 者でゲームをすると、現状何もしいことがそれぞれの利益の最適化 が実現してしまっている。

以上

地震保険住宅ローン2重債務保険加入率強制加入任意加入 企業ファイナンス