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主宰:川津商事株式会社
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不動産経済教室4 −金融はどこへ行く?−

〈2016年 12月 1日〉

金融は不動産経済にとって欠かせないものだ。日銀の金融政策は量 的緩和から質的緩和に変わった。これは指値オペレーションによる 長期金利の誘導である。本来長期金利は経済成長、タームプライム、 均衡インフレの指標であり、金融概念においては非常に重要な指標 であった。つまり長期金利が市場の規律となっていた。

それが昨今の異次元の金融緩和政策により、長期金利は単に短期金 利のトレンドでしかなくなったといっても過言ではない。銀行は短 期金利で資金を調達して長期の融資を行う。短期の長期の金利スプ レッドが銀行の収益となる。短期がビジネスリスク、長期がシステ ムリスクであったが、長期金利が担っていた規律がなくる可能性が 出てきている。やがて来るかもしれない国債リスクに影響が出てく るわけだ。

今回の政策により、長期金利を少し高めに誘導し始めて一気に銀行 株が高騰した。しかしその一方でグローバル市場の長期金利が上昇 しだした。日銀の設定以上に長期金利が上がると日銀は国債を買い 続けなければならない。新たなリスクである。

シリーズで地価を考えてきた。地価を市場均衡価格という概念で見 てきた。「市場は均衡する」だから市場に任せておけという概念が古 典経済学である。反対に市場はほっておくと「市場は均衡しない」 という概念がケインジアンである。均衡するように財政支出、公共 事業をする必要があるという考えである。

しかしケインズの考えで財政投資を実施する時、規律を失ない、政 治的都合で行うと悪質なインフレと不景気になる。これに対して経 済成長に適切なマネーが必要であり、マネーの供給をコントロール して「市場は均衡する」理論がマネタリズムによる新古典経済学で ある。

マネタリズムは経済成長には適切なマネーが必要であるという考え だ。しかしやはりここでも規律を失い、マネーを際限なく供給すれ ば必要以上に経済も拡大することになってしまう。マネーの供給は 銀行からの貸し出しによって増加する。

ケインズの財政支出と同じく、マネーサプライに規律を失い、市場 の要求に任せて過剰マネーの供給が金融市場に過剰な信用を供与し、 好景気さらにバブル連発させてしまう。それがアメリカのITバブ ル、サブプライムローンバブル、東京の身にミニバブルであり、そ してリーマンショック、金融恐慌とつながった。このマネタリズム が日本でも1990年以降、経済政策の中心的政策になる。

市場が均衡するという概念には、市場の規律が不可欠である。しか し市場にはレフリーがいないと言われる。市場が規律を失うと均衡 せず拡散してしまい、その調整も破たんによるものとなる。日本の マネタリズムによるマネーサプライ政策はちょうど1980年大の企 業部門の資金過剰状態と同時期になり、非常に大きな経済バブルを 生んだ。

銀行は一般預金を担保にしているため、バブルで破たんするもしく は採算が悪くなっても潰すことができない。保護されている。その ために統廃合による再編が必要になる。しかし金融機関の統廃合に は実際体力がいる。体力がある都市銀行がまず再編し現在のメガバ ンクを生まれた。しかし地方の体力がない金融機関はなかなか再編 が進まない。これが現在求められている地方銀行の再編である。

再編にも問題がある。再編して規模が大きくなると、大きな利益を 求めて規模の大きな企業への資金供給に偏り始め、弱小企業のリス クの高い部門への営業がおろそかになる。しかも現在ある程度規模 が大きな企業は資金過剰状態にある。

一方、地方の弱小企業が多く、これらの育成のために本来リスクを とる必要があるエリアの金融機関の再編が遅れ、現実にリスクを取 れない状況がある。地方の金融機関の過小資本は、本来の企業の資 金需要だけでなく、消費生活(教育、医療、介護、住宅)の資金需 要にもこたえることができなくなっている。これらが現在の企業フ ァイナンスに軸足をおく日本の金融経済のジレンマである。

現在東京の有名大学に子供を入れるには、地方の中小企業に勤める 親の所得水準では無理である。つまり教育資金の過不足がそこには ある。社会に資金が不足している部門は東京以外の医療、福祉など 生活部門である。これら部門への資金仲介は従来の企業ファイナン スの延長の金融システムでは期待できない。そこで期待されている のがフィンテックなど新しい金融仲介システムである。しかしフィ ンテックが不向きの資金もたくさんある。

例えば不動産ビジネスの関して言えば、まず道路、橋、交通システ ム等社会インフラ更新のための資金、中古住宅流通のための資金、 民間商業ビルである。駅前エリアは華々しく大資本による再開発が 進むが、その周辺はバブル経済に建てた建物がそのまま劣化してい く。この中小の民間商業ビルの更新がないと地方都市は死んでしま う。

銀行は企業ファイナンスをメインとしながら、実は不動産融資に収 益の軸を置いている。再編により効率が求められる地銀経営は、効 率よく融資を行う必要があり、ちまちました中小企業ファイナンス なんかやってられない。しかし不動産バブルを起こしてしまい、不 動産経済のリスクを多く抱えることにより、本来の企業ファイナン スのリスクをとることができなくなってしまう。

日本の経済の黎明期は国がファイナンスをして、国策である産業部 門を育成した。そのための資金を地方から国にいったん集める必要 があった。しかし福祉、医療、介護、住宅は国策ではなく地方自治 体の生活・行政施策である。国に集め地方の再配分する資金流通は 効率が悪すぎる。

更にこの国に集中して集めた資金に、もし規律がなく、地方をなお ざりにして東京のインフラ更新、都市開発、東京の有名私立大学へ の補助金、東京在住の人材開発に過剰に資金を集中したら、ますま す東京に人が集まる。人が集まればますます東京の資産価値が上が る。東京の既得権益は永久凍土となり、もとに巻き戻すことはでき なくなる。

資金の流れを変える必要がある。これは市場がすでに要求している ことである。企業ファイナンスに軸足を置いた地域金融ではなく、 生活部門の資金需要にこたえた新しい金融仲介システム。社会イン フラ更新支援のための長期ファンド。不動産部門専門の金融仲介な どなどである。専門性を高めて規律のある市場に戻す必要がある。

以上

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