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不動産経済教室2−市場均衡を阻害する要因−

〈2016年 11月 15日〉

前回の議論は、不動産価格の評価が取引事例法から収益還元法に変 わったことにより、不動産経済、そしてその延長にある日本経済が 収益で均衡する市場へと移行することになった。不動産の新しい評 手法が日本の経済に均衡をもたらしたということを紹介した。

にもかかわらず、依然として東京の地価はバブル化し、空き家市場 では空き家が増えつづけ一向に均衡をもたらさない。それはなぜか が今回の議論である。

結論から言えば均衡を阻害する様々な要素が依然として存在するわ けだ。それを今回は取り上げてみよう。まずバブル破たん以降、収 益還元法による評価手法が不動産鑑定人による人の手作業で行われ た。

そしてそこには、まだまだ人の裁量が入る余地があり、海外から日 本市場に参入してくるファンドビジネスには、なかなか受けいれら れなかった。不動産経済理論に基づく、だれがやっても同じ明瞭な 評価手法への移行が今リスク資産市場に要求されているのである。 これは何度も言うが、リスク市場とは関係ない公的な税金算定、賠 償基準を求める根拠となる鑑定制度を否定するものではない。

いずれにしても、市場に均衡をもたらす収益評価法を日本経済も手 に入れたのである。そこで話が前回冒頭の市場の成立に必要な、市 場の取引価格に信頼性をもたらす評価基準に戻ってくる。信頼のあ る市場価格が成立すると、市場に安心して多くのプレーヤーが参加 してくる。その結果市場が活性化して成長する。闇市場とは違うわ けだ。

しかしただ市場価格があるだけで市場が勝手に成長するわけではな い。市場は革新的な金融商品、革新的な住宅商品、革新的なビジネ スモデルによって成長が実現する。そしてこれら革新的なビジネス モデルは、市場基準値(ベンチマーク)によってはじめてその有効 性が評価されるのである。

従来の商品価格に対してどのような優位性があるから、どのような 価格が値付けされるか?である。つまりビジネスモデルを評価する ものが市場の基準となるベンチマークである。この市場のベンチマ ークは通常フェアマーケットバリュー、相場、市場利回り、インデ ックス、価格指数と呼ばれる。

アメリカの住宅市場も、はすでにファンダメンタルズだけで成長す る市場ではない。ドラッカーの言う市場を作るためにはビジネスモ デルが必要であった。そのビジネスモデルがサブプライム住宅ロー ン等であった。そしてこのビジネスモデルを評価するのが住宅価格 指数である。

アメリカの住宅価格指数は、ケース博士とシラー博士が作ったケー ス・シラー住宅価格指数である。このシラー博士はこの業績により 2013年ノーベル経済学賞を受賞している。

つまり価格指数があって初めてビジネスモデルが評価され、評価さ れて初めて市場は成長する。にもかかわらずこのような住宅価格指 数がない国が実はある。それが日本である。その結果が平均14%と もいわれる空き家問題である。

価格住宅指数がないような市場は、私どもから言わせれば市場では ない。そもそも市場が成立していない。それを直視せず、人口が減 少するから、高齢化社会になるからという理由にしか説明を求めず、 外生的要因とばかりに責任逃避しているのが今の日本の問題点であ る。

もう一つ東京の現在のバブルはどうだろうか?まずオリンピックと いう世界トップクラスの大型公共事業プラス金融緩和による地価の 高騰が挙げられる。おかしな話だ。コンパクトシティーでの開催と いううたい文句で、狭い限られた東京だけでこれだけ大きな公共投 資をすれば、スペースが限られ需要がひっ迫し、地価が跳ね上がる ことは極めて理論的な話だ。

コンパクトなスペースで開催すればするほどコンパクトなコストで の開催は無理。こんなことは大学生でもわかる理屈である。このよ うな理屈の本末転倒は、学術用語では情報の不完全性と呼ばれる。 まるで外生的要因に責任逃れするようなかっこよすぎる表現だ。

更にインバウンドによるホテル建築の規制緩和がある。この様な規 制緩和はいい意味で、市場に既存の均衡から新しい均衡をもたらす。 その新しい均衡への移行が市場ダイナミズムとなり、いい意味での バブルつまり市場の成長となる。逆に、東京の資金の過剰流動性と 地方の過小資本いわゆる格差拡大等々東京市場が均衡しない要因を 挙げればきりがない。

つまり地価の評価はその在り方で市場に均衡をもたらす。しかしも っと重要なことは、均衡はそもそも理論的なものであり、市場が均 衡してしまうとつまり市場が止まってしまうことを意味し、均衡す ること自体が重要ではないことである。均衡するという規律を持ち ながらダイナミックに市場が進化することが重要なことである。

そのために市場は様々な要求をしてくる。その要求に応えるよう土 地の価格の評価手法も進化しなくてはならない。リスク資産に関す るデータのビックデータ化、ビックデータによる様々なヘッジ技術 の開発、それらによって住宅担保の新しい考え方、借地関連の法整 備、連帯保証人の廃止などである。

理論的な要因であるが、確かに収益還元法は賃料収益による規律を 市場にもたらした。しかし投資家利回りにはインカム収益率のほか にターミナルキャップレートが大きな影響をもたらす。ターミナル キャップレートの評価を少し変えるだけで資産価格は大きく変動す る。これまたは次の機会に議論したい。

以上

地価市場均衡収益還元法均衡収益価格