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主宰:川津商事株式会社
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リニア新幹線ストロー効果議論

〈2016年 10月 15日〉

秋の学会シーズになり、様々な議論がなされている。私共も今年は 新潟の地域学会、大阪の金融学会、東京のマーケティング学会、そ して東京の不動産学会を駆け回る予定です。面白い議論があれば随 時報告させていただきます。

全国の百貨店売り上げが落ち込んでいる。名古屋も前年同月で10% 二けたの落ち込みを見せているところもある。原因としてインバウ ンドの反動があげられているが危険な指標だ。リーマンショックの 時も百貨店の急激な業績落ち込みが最初に観測された。遅れている 賃金上昇効果がこの先出てくるかどうか?海外の要因は同の程度影 響があるか?金融政策の変更はどうなるのか?目が離せない。

さて表題の件、先般開催された日本地域学会での報告を参考に議論 してみたい。地域学会は地域に関係するテーマを様々な学際領域を 超えて議論する学会である。地域に重大な影響をもたらす鉄道関係 もこの学会では大きな分野を占めている。

北海道新幹線延伸問題から地域の立体事業化など様々な問題までが 報告される。そして中央リニア新幹線関連の報告が増えてきたわけ だ。今回二件あり一件は岐阜のリニア中津川新駅に関連するもので あり、もう一件が名古屋のストロー効果の報告であった。

最初に、私共は、リニア新幹線整備により名古屋経済圏がストロー 効果によって衰退するという懸念に対し、懸念ではなく新しいもの を生むチャンスという立場を一貫して取り続けている。

今回の報告も先行文献が散見的でモデルの確立等がなされず、報告 者も相当苦労されたのではないかと察する。そもそもこのストロー 効果に関する話題は、地味な学術的研究では特に国内ではなかなか 日の目が当たらず、華やかな実務雑誌等に掲載される内容に偏る傾 向がある。

そして今回も報告に対する討論者のコメント「悩ましい研究」がす べてを語っている。「もし学術的にストロー効果が検証されれば、そ れは実務的に使えなくなる。つまり鉄道網整備には使えない。逆に 学術的に証明することができなければ実務的に実効性があるものと なろう。そしてそれは名古屋の経済圏の底力があるという証明でも ある。」というものだ。

つまりストロー効果なるものが証明されるのであれば、鉄道整備に 支障が出る、その理論は使えない。学術的に証明できなければ逆に 実務で使えることになる。討論者も名古屋の経済に底力があれば何 も懸念する必要がないのでは?と言っている。このコメンテーター は鉄道畑の実績のある技術者である。

夏目漱石の「三四郎」の主人公が熊本から上京するときに、当時九 州からくる蒸気機関車は必ず名古屋で止まり、水・石炭を補給した。 乗客もすべて名古屋で宿をとり朝まで停泊した。この時、三四郎は たまたま同乗した女性と連れ合いとされてしまい旅籠屋の同じ部屋 に泊まることとなる。

このハプニングこそが、これから始まる夏目漱石文学三四郎物語の 主人公を待ち受ける東京生活の象徴であった。これは又、同時に名 古屋の旅籠文化の歴史的叙事詩でもあった。それ以来鉄道の技術革 新は進み、九州東京間は一日とかからない約半日でいけるようにな った。

そして名古屋の旅籠屋文化は面影をなくし、名古屋駅前(かつての 駅前は現在の笹島広小路交差点付近)にあった多くの老舗の旅籠屋 は、今では舞鶴館を残しほとんどが駅前のオフィスビルに変わって しまった。

名古屋で宿泊する乗客がいなくなり旅籠屋はなくなった。これを東 京に吸収されてしまったというのか?これをストロー効果としてそ の鉄道の技術革新を懸念するべきことか?これが決定的に名古屋を 衰退させたのか?一時的な衰退はあるかもしれないがそれを乗り越 える活力が新しいものを生むはずだ。

鉄道の技術革新は蒸気機関車からディーゼル機関車、新幹線、そし てリニアへと進みつつある。それにより確かに東京一極集中が進ん でしまった。しかしそれで名古屋が衰退したのだろうか?確かに東 京ほどは発展していないが、名古屋も大阪もその恩恵を享受して名 古屋なりに大きく発展してきた。むしろ突出した東京一極集中は別 の本質的な問題を見据えるべきだろう。

今後リニアを効果的に使えるかどうかは、けして名古屋に課された 試練ではなく、名古屋に対するチャンスであるはずだ。名古屋経済 が活力あれば、リニアも大いに役立つだろう。名古屋経済が失速す ればリニアはそれに輪をかけて襲い掛かってくるだろう。要は前出 のコメンテーターの発言のとおり名古屋経済の活力しだいである。 新しいものを生むチャンスである。

心配は心配、一部の分野で新陳代謝を余儀なくされるのは仕方ない 。しかしそれは新しいものが生まれる大きなチャンスとは比較でき ない。

かつて名古屋駅前にJR高島屋が登場し、三重県内のJR、近鉄沿線 の百貨店店舗が閉鎖したときも吸収が起きたと言われた。吸収は起 きたかもしれないが、得をしたのはどちらか?それまでのアウトレ ットのような地方百貨店ではなく東京の香りのするJR高島屋への アクセスが可能になり、名古屋市内へ転居することなく通勤通学が 苦痛ではなくなった。どちらが吸収したのか?

東京で、成田から羽田に国際空港が移ることにより、金持ちが海外 にショッピングに出かけてしまうと懸念するだろうか?「名古屋が ストロー効果を懸念している」と新聞が書き立てるのを見ると、自 分の心配事ばかり主張する名古屋は器量の狭いところだ。では名古 屋をパスすればという声になってしまう。

余談であるが、前出の三四郎と同じ部屋で一晩過ごした女性は関西 線に乗って三重県方面に出立したようだ。漱石にとって三重県の女 性とは何だったのだろうか?

以上

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